閑話 ギルド職員ゴートの決断

 黄昏の旅団が解散して、俺はギルドの職員になった。

 そしてブラックキャッツ、レイシアとサチの二人組のパーティ担当になった。


 ……あいつらなんなんだ。


 そりゃあ、クマデの遠征で世話になった時からおかしいのは分かっていたけどよ、ヒラタとサカの一件は冒険者とギルド職員の中で知らねえ奴はいない位の騒ぎになってしまった。せっかく俺とククリとルルが嬢ちゃんの異常さを抑え込もうとしていたのに。


 せめて卒業まではと思っていたBランクへの昇級、とっととやっちまった方がいい。これだけの領主の推薦状と実績があるんだ。放っておけないじゃないかよ。


 そういって申請した昇級事案がついに通った。



「それで集まってもらったが、サチはどうした?」


 レイシアとククリとルルが目の前に座っている。


「サチは仕事でターナーにいったわ」

「そうか。じゃあサチのカードは帰ってから渡すか。レイシア、Bランクのカードだ。引き換えるぞ」


 俺はカードを受け取り、新しいカードを渡した。


「Bランクのカードはゴールドなんですね」

「ああ。ゴールドを持っているヤツは本当に少ない。まあレイシアとサチなら実力的にはAランクでもたどり着けるだろうがな。サカの一件はお前らがBランクだったらAに昇級できる案件だったんだが」


「面倒くさいのでいいです」

「あ、そう」


 あっさりといいやがる。それよりもBになってしまった限りは学生といえども責任が伴ってくる。特に王都では在住のB・Cランクの冒険者は少ない。近隣に魔物が出る山や森が少ないからな。大きく稼ぎようがないんだ。だから何かあったら緊急要請を断ることができないんだ。学生でCランクだったら理由を付けて逃げられたんだがな。


 ククリがレイシアにたずねた。


「それよりレイシア。お前これからどうする気だ? 冒険者だけじゃなく騎士団の指導までやっているんだろう。それなのに騎士コースには入っていないし。騎士にならないなら冒険者で稼ぐつもりか?」


「私は商人になるよ」


「は?」


 待て、これだけの実力を持っていて商人?


「やはりか。前からそう言ってはいたが、大丈夫なのか?」

「そうよ。A級も目指せるのに」


 おい、聞いていたなら教えろよ、ククリもルルも。お前ら指導教員だろう。


「もう止まれなくなっているのよ。三億リーフ借りているし、商会は出来てもないのに王室御用達になったし」


「「「はあぁぁぁ?」」」


「王室御用達って、どういうことなのレイシア! この間はそんな話なかったわよね」

「お前、三億借りているってどういう事だ! この間はそんな報告しなかっただろう」


 お前らも知らないのかよ! って言うか何この異常な発言!


「あの後起こったことですから。えっとね、私の商品を王女様が欲しがってお茶会に呼ばれたの」


「「「はあ?」」」


「お茶会に公爵と侯爵、どっちも"こうしゃく"だから分かりづらいね。偉いご婦人とご令嬢がいて、やっぱり私の商品を気に入ってしまって、王女様の庇護下に置かれました」


「「「はあ?」」」


「それで仕方がないから王室に商品を献上したら、王室御用達になって、さらに王妃様の庇護下に置かれました」


「「「はああああ?」」」


「レイシア、分からん」

「そうよ、何がどうなったの?」


「そうですか? 簡潔に話したつもりでしたが」


 簡潔すぎるんだよ! 丁寧に説明してくれ。



「つまり、石鹸と洗髪剤がメイン商品。魔道具がこれから量産体制に入らなければいけない。そして執事喫茶? 喫茶店も開かなければいけない。経営権を譲られたせいで三億の借金ができたがそれは返す当てがしっかりしている。そういう事だな」


 俺はレイシアの言った状況をまとめて、ルルに分かりやすく説明するため確認し直した。


「そんな所ですね。あ、献上した報酬に一億リーフと王都で執事喫茶を行う店舗を土地ごと頂きました。店舗は王家からというより、ご夫人たちのお気持ちで贈られたそうです。オヤマーではなく王都に作るように言われたので計画を立て直さないと」


「一億リーフだと」

「貴族街で土地と建物? いくらするのよ!」


 城壁で囲まれている限りある貴族街で、しかも商業地区の土地など買いたくても買えるものでない。空いた途端に恐ろしいほどの金が動くはずだ。


 ククリとルルがわーわーと騒いではレイシアに質問を浴びせている。

 冒険者としてBクラス。王室御用達の商人。唯一無二の発明品を作れる才能。高位貴族がこぞって作らせたがる喫茶店のプロデュース。で学生?


 誰だこいつ?


 俺は冒険者ギルドの職員として今後の事を計算した。


「よしレイシア。どうせならAランクになれ。王妃と王女と騎士団の推薦を勝ち取ればいける。クマデの時の熊と狼も売りに出そう。金が必要なんだろう。それに、そこまで目立ったなら突き抜けちまった方がいい」


 ククリとルルが反対してきたが、絶対に俺の提案が正解だ。

 俺は丁寧にククリとルルを言い負かし、レイシアにメリットとデメリットを伝えた。レイシアは頭がいい。きちんとデメリットまで言わないと信用されない。


 なんとかレイシアの了解を取ることができた。サチと相談してからと言ってはいたが大丈夫だろう。Aクラスになれば英雄扱いだ。サチのような訳ありの平民でも準貴族扱いになる。いらないと言われそうだが肩書は大切だ。特に王室御用達商人のパートナーを名乗るのであれば。


 まあ、Bに昇級したばかりだ。次に昇級するには一年はかかるだろう。


 取りあえず、熊と狼を一頭ずつオークションに出せるように手続きをしようか。高く売り捌いてレイシアの資金を増やす手伝いをする。そう約束して俺は手続きをするために商業ギルドに出かけた。

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