閑話 オヤマー新領主の誤算

 親父がしくじった。


 娘かわいさに無利子でターナーに億単位の金を貸した。貸したというよりも手切れ金のつもりか? まあいい。領地になにも生み出さない無駄金を使ったんだ。これを元に隠居させよう。俺が領主になる。


 ……そう思って領主の交代を無理やり約束させた。お母様の力も借りまくった。そう。そうするように言ってくれたのはお母様からだった。


 好き勝手に家を出た姉。そのおかげで俺がどれだけ恥をかかされたか。

 姉は金を借りに来てそのまま死んだ。


 最後まで迷惑しか掛けない姉を、親父もお母様も嫌ってはいなかった。いや、むしろ愛していた。


 親父は俺を愛してはいない。お母様は? 俺はお母様の言う通り育ったつもりだ。それでも姉の方が……。いや、そんなことはないだろう。ない筈だ。


 姉の娘が来た。親父とお母様が歓迎していたが、所詮田舎者。お母様はずいぶん怒って追い返したようだ。俺も一度だけ見たがつい当たってしまった。お母様のイライラが移ってしまったからだろうか。



 姉の娘の方はお母様に嫌われたみたいだが、息子の方はお母様に取り入ったようだ。

 この頃になると俺は親父を排除して領主になったつもりだった。


 ――――すべてが親父の影響下にあるじゃないか。


 俺は俺のやりたい様には、何もできない。

 どこで命じても、「それよりは今まで通りの方が上手く行きます」と否定された。


 すべてが親父の差し金だった。


 食品研究部では、あの娘、レイシアが開発した商品の特許料をターナーに送っているみたいだ。


 何をやっているんだ! おれは研究部を解散させた。だが、オヤマーから特許料がターナーに送り続けられた。


 おかしくないか? 俺が領主だというのに親父が陰で仕切ってやがるって。


 俺は自分の意見を何とか押し通そうと頑張った。孫が帰った後は、お母様は俺の話し相手に戻った。


 お母様は正しい。俺は親父の事をお母様にグチグチと話した。妻の事もついでに。俺が領主になってからと言うもの、領主婦人として恥ずかしくないものをといいながら散財が激しくなったんだ。税収も減っているというのに。


「俺が上手く行かないのは全部お父様のせいなのです。どこに行っても裏でお父様が糸を引いているのです」


 そう言い続けた。


「最近はお母様が嫌いなターナーの娘とコソコソと何か企んでいるみたいです」


 そう告げ口をしたら、お母様は一気に不機嫌になった。


「あのね。あの人私の大事なアリシアの服を勝手にあの娘にやったりして。私があれだけ反対したというのに。いい歳をしてあの人ときたら」


 お母様が長々と愚痴を言い出した。


「まったく。伯爵に陞爵しょうしゃくする機会を勝手に断ったのもあの人でした。私の事など何も考えて下さらないあの人。あなたにも迷惑をかけているなんて。そしてあの娘となにをしているのかしら。もう考えたくもありませんわ」


「親父を追い出したい」


 俺がそう言うと、お母様はニヤッとわらった。


「そうね、あなたが伯爵位を受けると約束してくれるのでしたら力を貸してもよろしいですよ。今のオヤマーなら伯爵で十分通用いたしますから」


 伯爵に? 伯爵になれば国への税が上がる。それに陞爵のお披露目やパーティーなど様々な事をしなければならない。妻やお母様の衣装や持ち物宝飾品、全て伯爵位として恥ずかしくないものを。どれ位かかる? いや、おれが領主になればもっと良くなるはずだ。お母様も協力してくれる。今はまとわりつく鎖のせいで実力が評価されていないだけだ。


 俺はお母様の提案を受け入れた。

 親父を追い出して伯爵になる。


 お母様にそう誓うと、お母様は心からの笑顔で「それでいいのよ、ナルード」と俺を褒めてくれた。






※ 短いけどこのくらいしか書きたくないですね、この息子様とお祖母様は

  口直しに、明日の0:00投稿します。そっちも短いですがお楽しみに。

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