水魔法

「さて、このカップに水を出してみな」


 ケルトはレイシアに魔法を使うように指示した。


「これでいいですか?」


 レイシアが水を出すとケルトは頷いた。


「この水はどこから出たか分かるか?」


 レイシアは首を傾けた。出るから出した。魔法ってそういうもの。


「無から有はあり得ない。小麦からパンは作ることができるが、小麦がなければ作ることができない。そうだろう」


「そうですね。……そうか水蒸気!」


「そう。空気中の水分。それを水という液体に戻している。温めれば空気に混ざる。冷やせば固まる。その流れを魔力で行っているんだ。魔法と科学を分けて考えてはいけない。相互に影響し合っているんだよ」


 ケルトは冷暗庫から小さな氷を取り出すと、魔法で温め始めた。氷が溶け湯気が出て沸騰しながらやがて消えていった。


「温度を変え熱を操るのが火魔法。水の形状を変えるのが水魔法だ。しかしだ、多くの魔術師は水魔法という名前から、水を出すイメージしか持てなくなるんだ。固めるというイメージが持てれば、ほら……氷にする事もできるのさ。魔力は半端なく使うけどね」


「ええ?! どうやったんですか?」


 レイシアは眼の前の現象を捉えきれなかった。


「見たまんまさ。やってみな」


 レイシアは水を出して凍らせようとイメージした。しかし水はそのまま凍ることはなかった。


「冷たくしようとしているのかい?」

「はい」


「水魔法は温度魔法じゃない。温めるのが火魔法だと言っただろう。形を変えるのが水魔法。そう、水の形を変えるだけさ。冷たくなるのは副作用なんだよ」


 理解できない。冷たくなるのは副作用? 氷なのに?


「その矛盾が魔法なんだよ。科学的な知識が効率を生み、また邪魔をする。それを受け入れられなければ、魔道具が理解できない。素直にやれる事。疑い試してみる事。科学と魔法。その混じり合った所に本質があるんだ」


「混じり合った所に本質がある?」


「考えるな。水を固めろ」


 レイシアは、混ざり合う油と灰汁が頭の中にうかんだ。


(汚れのもとの油と、なんの役に立つのか分からない灰汁。でも混ざると汚れを落とす石鹸になる。おばあさんは、なぜそうなるか分からないのに石鹸を作り続けていた。魔法と科学も同じようなものなの? 考えなくても結果が大切。出来てから検証すればいいのかな?)


 レイシアは水が透明なまま固まるイメージを構築した。その瞬間、音もなく氷が出来上がった。


「そう。今の魔力の流れだよ。感じ取れたか?」


「はい。いつもと違う感じは分かりました」


「その魔力の流れを魔石から作り上げる。それが冷暗庫の魔導具だよ。これが設計図。そしてこれが回路図だ。まずはこれを読み込め。隅から隅まで読み込んで、わからない所を書き出せ。二時間後に質問を受け付ける。質問が悪かったらここで終了だ。いくつでもいい。分かる所と分らない所を見分けるんだよ。この冷暗庫、実物と比べてみな。あんたなら分かるはずだ。期待してるよ。ああ、そうそう。その冷暗庫、風魔法は無くても作ることもできる。風は冷たい空気を撹拌かくはんするために入れているんだ。それと、簡単に仕組みを分からせないためのダミーの役割になっているね」


 そう言ってケルトは部屋を出ていった。


 レイシアは、魔導具と図面を見比べながら、魔法で氷を作り続けた。魔導具の魔力の流れと自分の魔力の流れを比べながら、一つひとつ部品の役割を想像してみた。


 約束の二時間はすでに超え、気がつくと深夜2時になっていた。

 そこでレイシアは疲れのため寝落ちしてしまっていた。


 ケルトは寝落ちしているレイシアの傍らに落ちているメモを見て


「合格だね」


 と一言言うと、魔法を使ってレイシアをベットまで運んだのだった。


 残り1日。ケルトはレイシアの才能を認めてはどこまで伝えられるか楽しみになっていた。

 



 

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