ディナーで反省会
「どう思った、レイシア」
お祖父様が夕食を食べながら聞いた。
「あの教会の孤児院。だいぶターナーの孤児院とは違います。なんと言うか、鳥かごに何羽も鳥を押し込めているような、そんな感じがしました」
「ふむ。クリシュはどうだ」
「僕だったら、あんな孤児院は作りません。もっと自由に学ぶ事ができる孤児院を目指します」
「ほう。クリシュは孤児院というものをどう思っているのだ?」
「孤児院は将来の領民を育てる所です。領民の質は高ければ高いほどよいでしょう? 僕が領主としてターナーを発展させるときに、出来の良い領民がいれば安心ですから」
「なるほどな。だが、レイシアはそんな風に考えておらんようだぞ。なあ、レイシア」
「私は……。そうですね。みんなが元気に楽しく過ごせばそれでいいんです」
(元気に楽しく……、それであの指導か……。)
レイシア以外、そんな風に思っていた。恐るべきレイシア基準の高さを思い知らされていた。
「ごほごほ。まあ、そのような考えだとは思っていたが……。領主候補としてのクリシュの考え方は間違ってはいない。むしろ正しくあるだろう。レイシアは孤児の事しか見ていない……いや、自分がやりたいことだけやっているだけだな。結果的に良い方にいっているだけだ」
レイシアは、お祖父様の言葉について考えた。私はみんなが幸せになればいいと思っているだけ。それではだめなの?
「指導者でなければそれでいい。クリシュは後の領主としての立場でものを考えている。レイシア。お前は何になりたいのだ? 単なる村娘が孤児院を手伝っているだけか? 店であれ、領地であれ、学校であれ、上に立つものは先々のこと、全体のことを考えて行動しなければならない。喫茶店では無意識にやっているのに……。無自覚すぎるのだ。だから今回の事も見えていない。マックス神官。そなたの見た孤児院と神父について話してやれ」
「はい。レイシア様、クリシュ様、私には、あの神父の物言いは、我々を見下している雰囲気を感じました。
「優越、ですか?」
「はい。帝国特有の中央絶対主義です。彼らは、唯一神のもと、それ以外の宗教、文化、風習を劣ったものと見ています。このガーディアナ王国を周辺の小国と侮っている態度です。我が教会のように多神教を祀っている国は、それぞれの神にそれぞれ良い所もだらしのない所も見るように、国の良さも悪さも抱え込んで付き合おうとするのですが、一神教を祀っている国は、全てを自分たちの法でまとめようとするのです。そうして、他国を支配する思考になっていく。その様な傾向があるのです」
クリシュがおもわず「支配、ですか?」とつぶやいた。
「はい。孤児院に関して、クリシュ様は使える領民を育てると仰いました。それが、先ほどの孤児院では、『使える奴隷を作る』ことになります。辺境の孤児など、どんな扱いをしたところで心など痛まないのですから。ですから、使い物になるように栄養は最低限取らせますし、職業訓練も一通りする。ただし思考は深めないように、です。一定年齢になったら、帝国へ奴隷として連れて行くのでしょう。船の漕ぎ手や農奴にすると言っておりましたので」
「奴隷? 酷い!」
「奴隷だって!」
レイシアとクリシュの言葉が重なる。
「それでも、私達の教会にいるよりましなのですよ。クリシュ様、レイシア様。奴隷とは言え、帝国に行けばガーディアナ王国で奴隷になるよりはましなのです。だから誰も止めない。それが現状なのです。それと、帝国と面と向かって争いたくはないですしね」
「どうしたらいいの?」
「それを考えるために見学させたのではないのですか? あなたのお祖父様、オズワルド様は」
レイシアは、お祖父様の顔を見た。優しく微笑むお祖父様がいた。
「……そういえば、神父様はヒラタの孤児院のお話をしていました。ヒラタの孤児院へも見学できるように頼めるかな?」
「レイシア様なら大丈夫ではございませんか? ヒラタでも活躍しておりましたし。領主様に会うようにギルド長が頼んでおりましたでしょう」
メイド長が口を挟むと「そうね。そこで頼んでみましょう」とレイシアは答えた。
「ヒラタの領主様と謁見⁈ 何をしたのですかお姉様!」
この間、ヒラタの領主と面会したばかりのクリシュが、あわてて聞いた。
その後、レイシアから盗賊団討伐の詳しい話を聞いたクリシュは、(ヤバいことになりませんように)と心の中で祈ったのだった。
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