教会へ視察

 レイシアとクリシュとサチ、お祖父様と執事、それにお祖父様から指名されて教会から連れ出された神官のマックスは、当初の目的を果たそうと帝国がサカに作った教会へ足を運んだ。メイド長や料理長などは、ついて行っても仕方がないので、街の中を見て回ることにした。

 幸い、サカの領主からの紹介状も持っていたため、面会はスムーズに行われることとなった。


「ようこそ。サカの街の英雄レイシア様」


 神父はレイシアたちを温かく迎え入れた。


「私達の教えは一神教でございます。この大地をお作りになった創造神オラフ様を信仰しております。王国は多神教でございますね。様々な神々をお祀りしている。そこから違いがあるということから、ご理解頂きたいと思っております」


 神父は丁寧に説明を始めた。


「どちらが優れているか、ということではないのです。一神教には一神教の素晴らしさがございますし、多神教には多神教の素晴らしさがある。ですが、それを人が取り込んでしまった時に、問題が起こるのですよ」


 レイシアは、何を言われているのか分かろうと必死になった。しかし、ターナーの教会しかよく知らないレイシアには理解が追い付いていなかった。


「私がこの国の、サカの教会に挨拶に行って孤児院を見た時に、それは本当に驚いたものです。我々の宗教では、人間は神の創造物であり、神に祝福を受けたものです。ですから、子供は孤児と言えども神の愛し子として扱うのが普通なのです」


「そうなのですね」


「はい。ところがこの王国の宗教では、人は人、神は神と分けて考えているようです。そうではありませんか?」


 神父は、マックス神官に聞いた。


「そうですね。人は神によって作られた物とは考えていませんね。神は自然を司る者ですから、水や森や風など様々なものに様々な神がおられる、そう考えているのが近い表現になりますね」


「我々の宗教では、自然を司るものを精霊と言っています」


 レイシアは、異なる宗教観に、宗教って何だろうと思っていた。しかし、レイシアは神の声を聞いたこともあるので、ブレることはないのだが。しかし、考え方の違いは、どういうことか、何がどうなのかは分からないまま。

 神父は続けた。


「その違いが、孤児の扱いに出ていました。言っては悪いのでしょうが、あなた達の孤児院は酷い。孤児を人扱いしていなかったのです」


「神官である私も、孤児院に対しては同じ思いです」


 マックス神官が同意した。


「孤児に関しての扱いは、私も苦々しい思いを持っております。これは神が悪いという訳ではないのです。教会の、いや、神の教えをねじれさせているこの国全体の問題なのです」


 神父が目を見開いてマックスを見た。


「ほう。この国の教会関係者でそのような考えを持っている方を初めて見ました。この国の教会の者たちは、何の疑問もなく孤児たちに苦痛を与えておりました。私は、孤児を救わなければならない、神の愛し子を救わねばならない、そう思い、本国に要請をし、教会へ掛け合い、王国とサカの指導者にお伺いを立て、寄付を募り、孤児院をこちらの教会に移すことに成功したのです。王都にも我々の教会が出来れば、孤児院を引き取りたいと思っているのです。では、我々の孤児院を見学して頂きましょう。ご案内いたします」


 レイシアたちは教会から孤児院へ移動した。

 そこには、同じ服を着て同じ作業をしている子供たちがいた。


「ここでは職業訓練をしているのですよ。世の中に出た時に困らないように。王国では孤児は蔑みの対象になっていますから、帝国で働けるようにしています。船の漕ぎ手、農奴など、人手の足りない仕事はいくらでもありますからね」


 神父は自慢気に行った。


「もうじきお昼です。食堂へどうぞ」


 レイシアたちが食堂へ行くと、硬そうなパンと具の少ないスープ、一切れのハムが並べられていた。


「これでも王国教会の孤児院の食事の三倍はいい食事なのですよ。それなりに量はあります」


 子供たちが来ると、皆静かにイスに座り、お祈りを捧げて無言で食べ始めた。表情もなく、淡々と食べる子供たち。


「躾が行き届いているでしょう? すべて、世間に出た時に困らないように躾を行っているのですよ」


 レイシアは、なにか嫌な感じを覚えた。


 一通り見て回ってから、レイシアは神父に聞いた。


「こちらの孤児院では、躾を大切にしているのですか?」

「そうです。躾は大切です」


「教育は? 文字や計算は教えないのですか?」

「文字や計算? そんなものは貴族か商人の一部が覚えればいいのです。指導者には教育を、平民には従順さを教えればいいのですよ。平民がものを考えたら、社会が乱れますから。教会と高位貴族が神の教えと政策を下々に伝え、労働させればこの社会は回っていくのです。我々が創造神に従順であるように、平民は我々に従順であればいいのです。我々は、神の御心を叶えるために、酷い扱いを受けていた孤児を引き取り、食事と躾を与えているのです」


 レイシアは、自信満々に答える神父を見ながら、なにか違うのではないかと思いはしたが、ここで言い争ってもどうにもならないと思ったのか「そうですか」とだけ言って話をやめた。


 お祖父様やマックス神官が様々に質問をしているのを聞いていたが、もやもやは解消されなかった。


「そういえば、ヒラタの孤児院で聖女が出たらしいですね。おかげで孤児院が改善されたと噂になっています。そちらも見学なさったらいかがですか?」


 神父はレイシアが納得いってないのが気になったのか、新しい情報を与えた。


「神に愛されし聖女が出現したということは、なにか良いことをしていたのかもしれませんよ」


 レイシアはお礼を言って見学は終了した。もやもやはいつまでも残っていたが、言語化できるほど、何が問題なのかはまだ見えてはいなかった。





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 お休み中ですが、新年ですので一話だけ書きました。

 お休み続行中ですが、お年玉代わりにお納めください。

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