ヒラタの街の商業ギルド

 レイシア、サチ、料理長、メイド長。この4人が馬車でサカに行くことになった。荷物はレイシアのカバンに入れておけばいいのだが、一応合流するオヤマーにつり合いが取れるように馬車は必要だった。ドレスを少々と狩りのための武器を少しばかり荷台に乗せて馬車は進んでいった。


 御者は料理長とレイシア。レイシアはやる気満々で乗馬服を着ている。ドレスでは馬を扱えないと、ドレスを着せたいメイド長と掛け合い、何とか移動中はドレスでなくてもよいことになった。最初は料理長が手綱を操り、隣にレイシアを乗せ運転の仕方を教えながら進んでいった。


 アマリーからマッツ、サーゴ、グレイ、小さな町を何日も経て、ヒラタを通りサカを目指す。そこまではどこも大きな町ではないので、街道も細く通行量も少ない。サチはメイド長と二人きりで馬車の中で座っているため、ずっと、ドレスや宝飾品についての講義を聞かされることになった。そして、黒猫甘味堂の店長のことについても根掘り葉掘り聞かれていた。


「あ~疲れた~」


 馬車から先に降りて、メイド長から一瞬離れられたサチは、心の声が口から出ていた。


「はしたないですよ、サチ」


 メイド長が馬車から降りてきてサチを窘める。


「お疲れ様、サチ」


レイシアがねぎらいの言葉をかけた。



 ヒラタの町は伯爵領。港町サカに近いため農業と商業がバランスよく発展している理想的な街。サカに行き来するため旅人や商人も多く宿も多い。しかしメイド長が宿の手配をしようとしたが、どこもいっぱいで断られ続けた。


「なにかあったのでしょうか? 長期で泊っている商人が増えて部屋が空いていないそうです」


 メイド長が困惑気味に報告した。「それなら、商業ギルドで何があったか聞きましょう」とレイシアは提案した。


 商人たちで混雑しているヒラタのギルド。レイシアたちは奇異な目で見られていた。


 レイシアは着替えをしていないので乗馬服を着たまま。乗馬服は高級だが男性が着るものとのイメージが強い。商人らしくない一行、金持ちの男装した小娘が屈強な用心棒(料理長)とメイド2人を引き連れやってきたように見えたのだ。

 つまりその異物感あふれる四人が、文句も言わず黙って商人の列に並んでいた。あまりの違和感に、休憩に行こうとしていた受付嬢が声をかけた。


「いらっしゃいませ。ギルドカードはお持ちですか? では確認を。……え? 特許複数持ち? 子爵? ギ、ギルド長をお呼びします! おっ、応接室へご案内いたします!」


 オヤマーとターナーの商業ギルドにしか用事がなかったレイシア。このような扱いがされる程だとは思ってもいなかった。オヤマーのギルドに行くときはお祖父様と一緒なので並ばないし、ターナーはもともと混んでいないし身バレしていた。


 応接室でお茶が出され、ギルド長と面会した。


「ようこそおいで下さいました。私、ヒラタの商業ギルド長を任されております、ナゴシ・ヒルでございます」


 丁寧に挨拶交わし、何が起こっているのかを質問した。


「実は今、サカの港に大型の魔物が住み着いておりまして、ヒラタの騎士団や冒険者たちが討伐のためにサカに集められているのです。ところが、その隙をついて、サカへの街道で略奪が起こるようになったのです。今サカに向かうのは危険だと、商人たちがヒラタに留まっているのです。魔物が討伐されれば、街道警備も出来るようになるのでそれまではサカへ向かわないようにして下さい」


 レイシアは王都からサカへの進路を確認した。王都からはヒラタではなく、海岸線の町をたどっていくようだ。サカへ行かなければクリシュと合流できない。


「そうですか。それでは冒険者ギルドでお話を聞いてまいります」


レイシアがそう言って帰ろうとすると、ギルド長が慌てて止めた。


「レイシア様。宿の方は私共で手配いたしてもよろしいでしょうか?」

「よろしいのですか?」

「もちろんでございます。ギルドの名に懸けてご用意させて頂きます。しばらくお待ちください」


 特権とはこういうもの。それならばとメイド長がギルド長にレイシアの着替えをする場所がないかと尋ね、ここで着替えをすることになった。

 男性が出ていき、ドレスに着替えると宿の手配も終わったようだ。


「レイシア様。商業ギルドでは、高レベルの商人と貴族様には優先的な窓口がございます。次からはどの町のギルドでも専用窓口をお使い頂けますようにお願い申し上げます。本日はご利用ありがとうございました」


 レイシアの無知をやんわりとフォローしながら、ギルド長はレイシア一行を見送った。

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