再会
翌日。
早起きのレイシアのもとにお祖父様がたずねてきた。レイシアと朝の礼拝に行く約束をしていたからだ。
レイシアは、お祖父様の隣に立っても大丈夫な程度の簡易なドレスに着替え、馬車に乗り込んだ。
◇
教会の礼拝堂には、8割程の参拝者がいた。
「最近は礼拝に来る人も増えてきたんだよ」
お祖父様が自慢げに言った。ターナーの教会に比べるとかなり広い礼拝堂。大勢の人がお喋りしながらにこやかに始まるのを待っている。
「昔は朝の礼拝などほとんど人がいなかったのだがな」
お祖父様がつぶやくと、立派な服をまとった神父様が出てきて話を始めた。
「なんか自慢話ばかりですね。レイシア様」
「本当ね」
サチとレイシアは、ターナーのバリューの話ばかり聞いていたのでどうしても比べてしまう。というより、本当に自慢話ばかり。
「いつもこんな話をしているのですか?」
お祖父様に聞くと「まあ、いろいろあるが、だいたいこんな感じだ」と答えが返ってきた。
「聞いていて辛くないのでしょうか?」
サチがぼそりとつぶやくと、レイシアもお祖父様も無言でうなずいた。
15分程度の短い説教だが、頭の中がくらくらするほどの専門用語でコーティングされた自慢話は、レイシアとサチの精神をガリガリと削っていった。
説教も終わり神父様が退堂すると、講義台が片付けられた。広くなった壇上に神官が五人出て来た。一列に並んで参拝者に挨拶をする。両端の二人はなぜかイスに座った。
センターにいる神官が手を上げると参拝者が一斉に立ち上がる。指揮をするかのように手を振り下ろすと、
チャン♪チャラチャラララ♪ チャン♪チャラチャラララ♪ チャチャチャ チャララン♪ チャラ チャン チャン♫
なじみ深いけたたましい音楽が流れてきた。
「腕を大きく開いて~」
「ス――――」
「腕を閉じて~」
「ハ――――」
「はいっ みんな揃ってスーハースーハー。腕を開いてスー。腕を閉じたらハー。ご一緒に朝の儀式を行いましょう。立てない方は無理をしないで結構ですよ。イスに座ったままできる事をやりましょう」
中央で声をかけているのはマックス神官。呆然とするレイシアとサチ。
「お前の所から戻ってきた神官が相談に来てだな。儂が教会に働きかけたんだ。おかげで朝の参拝客が増えて寄付金も増えたそうだ。マックスがお前たちと話をしたいと言っておったから、会談の場を設けた。よいかな?」
レイシアは呆然としたままスーハーを行い、お祖父様の言葉にうなずいた。
◇
「お久しぶりですレイシア様」
宿に戻り会合が始まった。マックスは嬉しそうに挨拶を始める。
「てっきり教会のどこかで話し合うのだと思っていました」
レイシアがそう言うと、「教会内部で悪口は言えんだろう?」とお祖父様が笑いながら言った。
「儂はな、ここだけの話だが今の教会の在り方があまりすきではないのだ」
「私もそうです。聖職者としてこんなこと言うのもおかしいのですが」
二人ともターナーの教会、バリューのやりたい放題に触れたおかげで教会の教えと基準がバグッてしまったのかもしれない。いや、本来の教会の本質からずれてしまった今の教会の姿が見えてきたと言えばいいのか。
「お前の所の孤児を見た後、ここの教会の孤児院を視察したが……。あまりにもひどい状況だった」
「オズワルド様には、孤児への食事の改善をして頂いただけでもありがたいのですが……」
「本来ならよりよい方向に仕向けたいのだが、いかんせん教会と対立する訳にはいかんからな」
孤児院の状況がひどいものとは聞いているレイシアとサチだが、実際の状況や雰囲気までは分かっていない。大人二人のグチを理解できなかった。
「まあ、それでもマックス神官が来てくれたおかげで大分やりやすくはなったんだよ。スーハー、あれはよいな」
「私もスーハーのおかげで信頼できる仲間ができました。スーハーを開発して下さったバリュー神父とレイシア様には感謝してもしきれないほどです。いま私は『スーハーの伝道師』という異名を頂いております」
「そ……そうなんですか」
5歳の時を思い出し、頭を抱えるレイシア。
「はい! 信者の方からも、『頭痛が直った』『肩こりが改善した』『立てなかった母が立てるようになった』など、感謝の声と献金が次々と来ております」
(へんな宗教化している!) とレイシアは思ったが黙っていた。
「そこで、感謝と功績を忘れないために、各回ごとスーハーを行う前にお二人の名前をお伝えしようと思っているのです。そうですね、例えば『偉大なるスーハーの創始者、バリュー神父とレイシア・ターナー様に感謝を捧げスーハーを開始いたします』とか」
「それはよいな。どうだレイシア」
(やめてー!)と叫びたかったが、何とか抑え込み、「私の一存では決められません。バリュー神父の許可が出るまでは行わないで下さいね」とやんわりとお断りをするのが精一杯だった。
「ところで、孤児院はそんなにひどい状況なのですか? ターナーの孤児院は特別だとは聞いていたのですが」
話を変えようと孤児院の話題を出した。
「ああ。お前たちには分からんだろうな」
「見学することはできますか?」
お祖父様とマックス神官が目を合わせてから答えた。
「レイシア。今はその時ではない」
「レイシア様。その時が来たら私が責任をもってご案内します」
レイシアもサチも、理由が分からないが心の中で、この話題は何かまずいと察したのだった。
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