360話 研究

 レイシアは、暗闇ことドンケル先生とアルフレッド王子の二人の懇願により、月一回程度だが騎士団の訓練に参加することになった。参加と言うか指導役? 今までにない新しい訓練、暗殺者役として協力することになってしまった。


 王子と暗闇、結託したわけでもなく、どちらも自分の都合で動いただけなのだが、どちらも今のままの騎士団ではまずいと思ってのことだった。


 そのお礼として、レイシアは研究所に出入りすることを許された。もっとも、研究所の開発スタッフがレイシアの発想力を気に入り、そのアイデアを欲していたということもあるのだが。レイシアはスタッフに発想の元となることを聞かれ、ラノベを勧めると、研究所の職員はラノベ沼にハマっていった。


 職員はレイシアに魔石から魔力を引き出す基礎的なことを教えた。もちろん、一般人も頑張れば手に入る情報までだが。これらの研究をしているのは軍と一部のマッドな科学者だけなので、ここで聞かなかったら耳にすることもなかった情報。10年以上たっているので特許期間は過ぎているのだが、魔法自体が軍事にしか使われていないので、軍部が研究しないと忘れ去られる研究成果だった。


 知識を深めたレイシアは、魔法の使い方で同学年のリリーに相談を受け答えている時ふとリリーの言葉に引っかかった。


「レイシア、あなたの魔法便利よね」

「え?」

「私の魔法は破壊するだけだけど、あなたの魔法は生活に役立っているじゃない」


 生活に役立つ? 確かに便利に使っているけれどそれは威力がないから。

 威力がないから? もしかして威力がなければ生活を便利にできる魔道具がつくれるの?


 一年生の冒険者基礎。今年も冒険者の仕事の体験として下水の掃除。そこでクズ魔石を掃除して集めては処分した。


(大きな魔石はなかなか用意できない貴重品だけど、クズ魔石なら掃いて捨てているほど集まるわ。ここから弱い魔力を取ることができれば、なにかできるかもしれないわ)


 そこからレイシアの試行錯誤が始まった。弱い魔力を長い時間取るための方法を一人で考えた。研究所に通い、図書館に籠り、素材集めに狩りに行き……。


「なにか出来そうなんだけど……。何か足りない……」


 軍の知識を使っているからうかつに他人に相談できない。軍とは違う研究だから、軍にばれてはいけない気がする。


 そんな思いで、たった一人で研究をしていた。発明はそう簡単なものではない。トライアンドエラーを繰り返していたが、二年生の間では思うような結果を得ることはできなかった。

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