Aクラスでの報告会

「それでは、夏休みにどんなことをしていたのか報告してもらいましょうか。あなた達の事ですから、普通の事などしていないのでしょう?」


 シャルドネ先生が二人しかいない生徒に対して質問を投げかけた。Aクラスに宿題など必要ない。自主的に何を行ったかが問題だと課題をだし、夏休み前に教師としての仕事を放棄した結果である。もちろん、王子とレイシアと言う二人を信用しているからという理由もあるのだが。


 先にレイシアが報告をした。


「私は自領に戻り、領地の発展のために何をすればよいのかと言う事を、お父様と考えていました」

「ほう」


「そこで、法衣貴族・平民・孤児と3パターンに分け、それぞれ、目標値と目的、それに指導法を分け各階層に適したそれぞれの基礎教育を施せるように計画を練る、と言う所までは話し合え、現在領の官民と父が計画を練っている所です」


「なるほど。確かに貴族と平民では必要な知識は変わりますね。貴族、平民、孤児の順に簡単になるのかしら?」


「いえ。孤児、貴族、平民ですわ、先生。孤児が一番勉強しております」


「「はあ?」」


「当たり前じゃないですか。孤児は後ろ盾がない分生きる知恵がないと困るじゃないですか。法衣貴族は学園でも学べるのですよ。平民は、今まで学ぶと言う事をしてこなかったのですから、慣れる所からですね。食事で釣りながら学ぶ意義を教えないといけませんよね」


「どういうことだ?」


「詳しくはレポートにまとめてあります。平民の食事に関しては「給食」と銘打ち、昼の食事を提供する形です。孤児院の食事を参考にすれば安く提供できそうですね」


「孤児院の食事って。そんな粗末な」


「あら。オヤマーのお祖父様が毎日食べにくるようなおいしい食事ですよ」


 シャルドネ先生も、アルフレッド王子も理解不能になっていた。子爵とは言え裕福度では貧乏伯爵に資金を貸せるほどの圧倒的な富豪貴族。その前当主が毎日食べにくるほどの料理が孤児院にあるのか? と不思議がるのは仕方のないこと。


「ああ、以前食べさせてもらった料理。もしかしてあの料理の事か?」


 シャルドネは解体作業を含めて、孤児院で食べたあの内臓料理の事を思い出した。そうして、ターナー領の孤児が常識で計れないことも。そう、思い出さないように封印していたのだ。しかし思い出したがため分かった。これはきっと教え子バリューとレイシアの暴走に違いないと。


「バリューはかんでいるのかな?」

「もちろんです」

「だろうな」


 状況を理解したシャルドネに対し、何も分からないアルフレッド王子。


「なんだ? その教育改革は?」

「興味あるのですか?」


 レイシアが不思議そうに尋ねた。


「ああ。俺も俺の側近たちを教育し直さなければいけないと思っているんだ。その参考にでもならないかと思ってだ」


 アルフレッド王子は王子としていろいろ悩んでいるようだな。シャルドネはそう思った。レイシアはレポートを出し「みます?」と言ってみた。


「参考にさせてもらおう」


「他にはありませんか? レイシア」

「後はそうですね。石鹸作りをしていました」

「石鹸? ですか?」


「はい。孤児の仕事場を作るために新しい石鹸を開発しています。現在、特許を取れる製品を目指していますので、詳細は秘匿させて頂きます」

「そうですか。孤児の仕事場ですか? それはどういうことなのです?」


「孤児が卒園した後の職場づくりです。いつまでも孤児院にはいられませんから」

「確かにそうですね」


「平民より学のある孤児が大勢いて、平民の仕事を奪っていくといろいろと軋轢が起こってしまいますよね。それならば孤児だけの職場を作った方が早いですよね」


「「なんで?」」


 レイシアの言っていることが分かるようで分からない。もういいや、と二人とも思った。


「ではアルフレッド。あなたは何をやっていましたか?」


「俺は前期に起きたレイシアと騎士団の決闘騒ぎを契機として、騎士団の改革に乗りだした。その中で、本による世論の誘導を行えることを体感した。それに関してレポートを書いた。騎士団改革はまだ秘匿しなければならないことが多いため、今回は発表を控えさせてもらう」


 騎士団の話は王都で評判になっている。シャルドネも理解している。理解していないのはターナー領に帰っていたレイシアだけだった。


「なんかすごいことになっているの? イリアさん忙しそうだったけど」

「ああ。レイシア、それについて頼みがある」

「はい?」


「お前とメイドたちで、騎士団を鍛え直してくれ!」

「はあ?」


「鍛え直すというか、騎士同士の対人戦は慣れているんだが、メイド相手は慣れていない」


「当たり前でしょ! メイドと戦う事なんてないんだから」

「そこなんだ。暗殺者に対しての訓練がまるでなっていない。今までは平和でそのような事件や事例は行われていない平和な国だったが、いつまでもその考えではいけないと思わないか? ぜひ訓練相手に」


「嫌です! 国の中枢にいるのでは?」

「そんなもの表に出せるか!」


 わーわーと言い合っていたが、レイシアが訓練相手になることはなかった。

 報告が終わり、授業を終えた二人とシャルドネ先生は、レイシアが提供する温かい食事を始めたのだった。

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