第五章 二年生後期授業 14歳~15歳

とりあえず、五章は鬱回から始まるけど、次の回から平常運転だよ!

 レイシアが自領に帰っている中、貴族女子の生徒たちは王都に残り、お茶会を中心とした社交や、学園祭の準備、あるいは仲の良い友達とのバカンスなどを行い、派閥の結束や情報交換、あるいは気になる男子とのアプローチにいそしんでいた。そこに関しては、保護者達も出来る限りの応援と援助は惜しまない。娘の利用価値を上げるためには手を抜いてなどいられない。王子を始め、有力な男子生徒はあちらこちらでお声がかかる。


 レイシアはマイペースなので、その流れには一切乗らない。というか乗れない。

 王子は大人気なのだが、その流れには乗りたくない。というか忙しすぎて断る理由があり過ぎた。


 かくして、レイシアと王子は、全く関わりもしなかったのだが、どちらもクラスメイトから見れば、理解不能な夏休みを過ごしている事になっていた。



 そんな中、レイシアに『悪役令嬢』という二つ名が付いた。お茶会でお嬢様たちが噂を始めたからだ。いわく、王子を独占する女。王子と唯一親し気に会話する女。王子の弱みを握っているはずの女。王子より強いことをカサにして、王子をあごで使う女。きっと王子を狙っている女。王妃の座を狙って、王子に取り入っている女。


 確かにレイシアは王子を(ダンスの授業で)独占状態にしたり、親し気(好き勝手)に話したり、弱み(温かい食事)を握っていたり、王子より強く(事実)あごで使ったり(決闘を代理でやらせたり)。


 まあ考えようによっては半分以上が事実なのだが、そこに悪意と、面白おかしくする会話術と、嫉妬と興味がごちゃ混ぜになり、レイシアと言う人間像がかなりおかしなものになっていったのだ。元もおかしいのだがそれはそれ。貴族女子の中で、王子を独占して王妃を狙う悪役令嬢レイシアというイメージが一気に広まった。たまたま、王都で新進気鋭の劇作家が、ラノベの要素を混ぜた歌劇『悪役令嬢の涙』が大ヒットしていたのもその噂を押し上げるのに一役買った。もっともその歌劇は、教会から「王族を愚弄し、人民を惑わす作品である」と目を付けられ上演禁止を言い渡されたのだが。


 教会はラノベを認めたくない。新しい思想など広めたくないから。しかし、文学の神カク・ヨームが認めたことを知っているため、公には禁止できない。神を否定しては教会がなりたたない。だから、こうして本以外で(カク・ヨームが文学の神であって芸術の神ではないという理論のもと)目立つところを因縁をつけて潰しながら、「ラノベ的なものは悪いものである」と、印象操作をしているのだった。


 お嬢様方は盛り上がった。「「「悪役令嬢から王子を救わないと!」」」


 結束して教師に掛け合ったり、噂を流したり、悪評を広めたり、王子をお茶会に誘ったり、いろいろ頑張った。しかし、王子がお茶会に来ないことも、悪役令嬢に取り込まれているからだと妄想を刺激することになったのだった。



 夏休みが明けた最初のダンスの授業で、レイシアはいきなり合格証を貰った。


「王子とあれ程激しいダンスが踊れるのなら、もうこの授業に出なくてもよろしいですよ」


 お嬢様達が、教師に進言してレイシアを追い出したのだ。もっとも、メイド術で鍛えた足さばきと体幹で基礎は十分すぎるほどクリアしていた。お嬢様達は「これで王子様は自由になった。私達も王子様と踊ることができるわ」と期待をしていたのだが、レイシアとは関係なく王子は全てのコーチング・スチューデントを辞退していた。騎士団の改革に本腰をいれるため。それと生徒会での経験が王子に危機感を募らせたこととが理由でレイシアとは関係ないのだが、ダンスの相手が出来ると思っていたお嬢様たちにとってはショックでしかない。


「「「王子様がお辞めになったのは、悪役令嬢のせいよ!」」」

 

 レイシアにどんどんヘイトが溜まっていった。最初の頃は無視するだけだったお嬢様達も、レイシアに対して聞こえるような影口を叩くようになった。


 田舎育ちで、悪意にさらされた経験のないレイシア。無視されてぼっちなのは今まで特に気にもしていなかったが、悪意を受け流す経験値がなさすぎた。


 お嬢様達の、嫌味の意味が半分も理解できない!


 思えば、入学式でイリアがやっていた人間観察と会話の説明。あれを勉強するの忘れていた!


 レイシアは、ラノベを読み込み、イリアを質問攻めにした。

 イリアも忙しい中、よい気分転換だと締め切りを忘れたいのか親切に教えた。そして、図書館に解説書があることをレイシアに教えた。


 レイシアは司書に頼み、解説書をとにかく読み込んだ。一部、ビジネス作法で習っていた言葉遣いと被る所があったため、それを手掛かりに理解していった。


 レイシアは一年生のクラスメイトを相手に実践を始めた。最初にイリアとラノベで理解したためか、悪役令嬢がベースになった。


 さらに、幼少期から身に着けた、「料理人やさぐれモード」もお嬢様言葉に変換され、攻撃性が天井知らずに上がっていった。


 レイシアの思考は基本的には単純。


「善意には善意を。悪意には悪意を」

「質問には答えを。嫌味には的確な返しを。悪口は正論で叩き潰す」

「親切には笑顔を。悪意には殺気を」

「腕力で負ける気がしない。口喧嘩でも負けない強さを」

「結局口喧嘩は、頭の回転の速さとボギャブラリーの多さよね」


 こうして二年生が終わりを迎えるころには、図らずも、立派な悪役令嬢としての風格をみにつけてしまった。


 そんな中でも、レイシア特製のお茶会に出た法衣貴族子女達からは憧れの視線を受けていたのだが、それには全く気がつかず二年生を終えたレイシアだった。




【現在のレイシアの二つ名】

 制服の悪魔のお嬢様(略称 制服/お嬢様)(市場)

 黒魔女様   (メイド組女子生徒)

 マジシャン  (料理組男子生徒)

 やさぐれ勇者 (法衣貴族組生徒)

 メイドアサシン(騎士組生徒)

 死神     (冒険者脱落組)

 黒猫様    (メイド喫茶)

 悪役令嬢   (1年生貴族子女)



(おまけ)

制服の、悪魔のお嬢さまは黒魔女で、マジシャン並びにやさぐれ勇者、メイドアサシンは黒猫様の死神。それが、悪役令嬢たる私ですわ。おーほほほほほ。(イリア作・二つ名の名乗り方)



…………………………あとがき…………………………



 え~と。第四部、急に思い立って別枠にしたので、向こうであとがき書けなかったよ。閑話の後も何書こうか迷いながらだったから書けなかったし。


 今回が第5部に始まりだけど、内容的に暗いから第四部のラスト扱いでいいよね。ってことで、ここであとがき書かせてもらって、嫌な雰囲気一回リセットしましょう!


 たまにさ、クリシュといい雰囲気にしないとブラコン設定忘れるよね、って始めたクリシュ・レイシアほのぼの回。2話位で終わるはずが長くなったよね。

 いやいや、クリシュもさ、王都来たら黒クリシュ全開だし! 


 クリシュに惚れたお嬢様、きっと本編絡んでくるんだろうな・・・どうしましょうか? 予定外に登場人物って増えるね。サチも最初は使い切りの一回だけ登場キャラのはずだったのに・・・


 サチと店長! 店長何してるんですか! レイシアが4年生になってからの告白予定だったのに、なに先走った! まあ、タイミング的にね、今しかないと思ったんだよね。

 ここはすんなりと付き合えません。プロットが早まったためではなく、二人を取り巻く環境が困難すぎるからです。どうなるのかは考えているのですが、キャラの暴走で思い通りいかないのがこのお話です。


 王子の閑話も・・・書いたらあんな感じでした。生徒会長のお姉様、ちょくちょくご登場して頂いていたのですが、きっちりとして出たのは今回が初めてかも。重要なキャラなんだけど、こんな性格でしたのね。出来る姉と、出来るのに姉に振り回される弟。王子とクリシュ、出会ったら気が合うか同族嫌悪に陥るか。書いてみないと分からない組み合わせですね。


 さて、貴族のお嬢様方との絡みはこれで終わりだと思うよ。少しいざこざは出るかもしれないけど、鬱っぽい授業風景は二年生ではなしだね。パーティーとかは・・・あるかな? どうだろう。


 まあ、お陰でオープニングのレイシアに近づいてくれたね。忘れているかも知れないけど、まだオープニング回収できてないから! その前にアリアも入学させないと。何年生での話だっけ?


 次回からは、他の授業や暗闇のコーチング・スチューデントの褒美とか、騎士団との絡みとか、魔道具開発とか、そんな感じの話を書きたいと思っているので、お気楽ファンタジーのレイシア、お楽しみ下さい!


 楽しんでくれていますか? みんな~、あちこちで宣伝してくれてもいいんだよ! 

 レイシア沼にはめようよ! 被害者増やそう!


 コミカライズで「スーハー」を見てみたい欲望が止まらない、みちのあかりでした!


 では、第五部お楽しみ下さい!



 

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