閑話 魔法少女の指導

「風の魔法を使えるのは君だけなんだ。頼む。コーチングスチューデントを引き受けてくれ、リリー」


 騎士コース魔法基礎の先生やコーチたちに囲まれ、私は断ることなんてできなかった。それに風魔法を使っているのはこの王国では今のところ私とアサシンレイシアだけ。そしてアサシンが風魔法をつかえるの、先生たちは忘れていることでしょう。まあ、私が第一人者だからね。先輩として面倒見てやりましょうか。


 そうして、私はコーチングスチューデントを引き受けることになった。



 風の魔法で登録した一年生は5人。男子4人に女子が1人。みんな一属性。私は二属性だから、私の四倍に威力を持っているはず。属性が増えるたび、威力は落ちるのが魔法の不思議。二属性なら二の二乗で四分の一になるし、三属性なら三の三乗で二十七分の一。六属性なら四万六千六百五十六分の一。アサシンはこれしか威力がない。だから魔法の先生や騎士団の魔法部隊の方からは、危険性がないと放置されている。


 私より四倍威力のある魔法使いを作るのか。


 気が重くなってきた。今までは唯一の風魔法使いだったのに、これから先は劣化版の風使いになるのか。そう思うと、ため息の一つも吐いても仕方ないじゃない。まあいいわ。先輩指導者としての道を切り開いていこう。


 そんなことを考えながら、私は初の授業に向かった。



「ウインド」


 まずは実践して見せた。アサシンから聞いた呪文を唱え、危険性の少ないウインドを披露すると、一年生から驚きと称賛の声が上がった。


「まあ、こんな感じね。ほら、あなた達もやって見なさい」


 1人ずつ前に立たせ呪文を唱えさせる。3回目で女の子メリーだけが成功した。


「まあ、最初だからこんなものね。男子はイメージトレーニングしておくこと。魔力切れになると体調崩すから、今日の練習はここまでね。じゃあ、向こうで基礎体力トレーニングに戻りなさい」そう言って、騎士コース基礎に戻らせた。



 5回目の授業。まだ男子は魔法を撃てていない。唯一出せたメリーもトルネイドは無理。なんで? 男子に風魔法は無理なの? 指導教員も頭を抱えていた。


「風魔法は、俺たちじゃ全く分からないからな。リリーに頑張ってもらうしかない」


 そんなこと言われても。その時、騎士コース基礎の団体にアサシンがいるのが見えた。


「ちょっと借りるね」


 先生に事情を話し、アサシンを連れてくることに成功した。私は今までのやり方をアサシンに話し、生徒たちを見てもらった。


「そうですね。みなさんにはイメージが足りないようです」


 私も含め全員がポカンとした。


「火と水は、普段の生活に必要ですからイメージもしやすいですし、魔法を構成しやすいですよね。でも、普段の生活で風を意識することはあまりないのです。今も爽やかな風が吹いていますが、言われないと気がつかなかったのではないでしょうか」


 そう言われれば、そうかも。


「リリーさんの時、丁寧に説明したのですが、覚えていませんか? まあ、一度できれば細かい理解はなくともできるようになりますから、別に困らないのですが。教える時は困りますよね」


 そうだっけ。そう言えばいろいろ説明されたような覚えが。

「まあ、いいです。科学的に説明した方が分かりやすいので、風の前にまず空気とは何かから説明しますね。前はもっと簡単な説明で済ませましたが、リリーさんが指導員になるならこのくらいの知識は覚えていた方がいいでしょう。二年生ですし大丈夫ですよね」


 アサシンは、空気が風になるメカニズムを話した。一応一年生でも理解できたみたいだけど、気圧? 気流? 温度による変化? 難しいよ!


「まあ、ほんの基礎ですが、ウインドでしたらこのくらいの理解で大丈夫でしょう。みなさん一度試してください」


 ……一年生全員成功した。


「では、それが回転する条件を教えます」


 待って! あなたの説明イメージは出来るけど理解できない! 上昇気流に熱風と冷風? どこの言葉よ!


 一年生もイメージだけは出来たようで、試してみたら全員が成功した。おまけに私の四倍の威力! 恐ろしいわ、レイシアも一年生も!


「ここまでできれば十分ですね。もう魔力も少なくなったことでしょうから魔法はこのくらいにしておきましょうか。どうでしょうリリーさん」


「そうですね」と答え、一年生を解散させた。


「では、リリーさん、私も戻りますね。これから指導する時はこれくらい簡単な説明でいいですので、まずは科学的な理解をさせてあげて下さいね」


 アサシンは爽やかに言い放って元の訓練場に戻っていった。


「できるかー! そんな説明!」


 私は叫ばずにはいられなかった。アサシンが言った内容、どうやって覚えればいいの? 何を言ったか全然覚えてないんですけど! 簡単な説明? 嘘だ! 科学って何? 


 理解できないまま、その日は帰った。


 後日、先生たちから一年生全員が魔法を使えるようになったことを褒められた。


「どうなるかと心配していたが、素晴らしい指導だ。これからも指導員として活躍することを楽しみにしているよ。ああ、新しい魔法の開発も期待しているからな。いや、素晴らしい生徒を受け持てて嬉しいよ」


「違います! これは私ではなく……」

「謙遜など必要ありませんよ」


 聞いちゃくれない。いくら説明しようとしても伝わらない。脳筋だらけだ!


 仕方がない。今度アサシンに教えてもらおう。科学って何って! 勉強苦手なんだけどな。どうしてこうなったんだろう。


 嬉しそうに話している先生たちに「ありがとうございました」と挨拶をして逃げるように立ち去った。


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