いろいろあったけど、もうすぐ夏休み(第二章完)

 慣れない貴族コースに、なぜか引き受けてしまったコーチング・スチューデント。王子との食事会(月一)にお祖父様とのお食事報告会(月一)。メイド喫茶黒猫甘味堂の視察(月二)に毎日の厩舎小屋掃除点検。そこに加え急な決闘騒ぎやお茶会の開催など、二年生の前期は恐ろしいほどの忙しさだった。


 お茶会は提出したレポートと、参加した法衣貴族の聞き取り(レイシア抜きで先生が聞き取りをした)により合格。問題点として、高位貴族が出ていない事と予算の使い過ぎが挙げられたが合格なので問題はない。ちなみにお茶会の一般的な予算は金貨1枚程度。気合を入れても金貨3枚になることなど滅多にない。会場費も人件費も経費に入れなくていいのだから。お茶とお菓子があればすぐにでも開ける気軽な会がお茶会というもの。今回のレイシアがかけた金貨30枚の予算は、それなりの夜会を開くことができる程の大金。黒猫甘味堂の貸し切りを一日の売り上げで換算したため、あほみたいに高くなったのだ。それ以外でも食器を新調したり、馬車を借りたり、何にせよ一から始めるのはお金がかかるということ。そればかりは仕方がない。


「お茶会。こんなに予算がかかるなんて。もう二度としなくていいわ」


 レイシアはレポートを書くため会計報告書を作りながらつぶやいた。あれだけ楽しんでいた法衣貴族のお嬢様たち。翌日誰も声をかけてくれなかったこともレイシアは地味にショックを受けていた。


「本好きのお友達ができると思ったのに」


 レイシアが声をかければ喜んで友達になれたであろう法衣貴族の女子たち。しかし、法衣貴族から子爵令嬢に声をかけてはいけないルール。ここが冒険者コースであったり騎士コースであったりしたのならば自然に会話もできたのだろうが、残念ながら貴族コース。慣れない環境で猫をかぶり過ごしているレイシアは、人間関係が受け身になっていた。貴族の常識としての、法衣貴族から先に挨拶をしてはいけない、というルールも知らなかった。授業で教えすらしない程の常識だったため、知る機会が無かったのだ。法衣どころか孤児と一緒に育ったレイシアの常識では理解すらできていなかったのも仕方がないのだが。


 あまりにも膨大な予算と、結局お友達ができない結果に、二度とお茶会は開かないと心に決めたレイシアだった。



 イリアは、お茶会のための立ち居振る舞い特訓の他に、無欲の聖女と無自覚な王子の続編の執筆。さらに王子から依頼された騎士団のドキュメントの制作。

 ドキュメントは何度も王子とレイシアからのチェックが入り、完成までに十数回打ち合わせが行われた。内容.・構成共に王子の思惑通りのドキュメント。解説に王子直々に書き下ろしが付いた。王子が一日人事部長を行い、人事権を行使した後噂を流し、噂が広まる10日後に出版する予定になっている。内容がきわどいため、ペンネームも変えた。ドキュメンタリー作家、ナナセ・クライム。それが新しいペンネーム。その後、王子からナナセ・クライムに様々な依頼が来るようになるのだが、それはまた別のお話。書物による社会変革が行われた王国初の事例となり、後の教科書に取り上げられるようになるのだが、それもまた別のお話。



 暗闇ことドンケル先生は、レイシアを組織に引き入れようと計画を練っている。とにかくレイシアが興味を持ちそうなものを提示しようと画策していた。夏休みに、軍が開発中の兵器を特別に見せようと提案したが、夏休みはレイシアが領に帰ってしまうため予定が合わなかった。レイシア自体残念がっていたので、休み明けに見学できるように調整中。暗闇としては、まだ身分をばらす段階ではないと判断しているため、アプローチとしてはこれが限界だった。



 喫茶黒猫甘味堂は、相変わらずおっさんがたむろしている気楽なお店。レイシアが平民コースを手伝っている木・金曜日のランチタイムは、二階を住居として借りているとしてサチが手伝いに行っている。

 店長は相変わらずだが、メイド喫茶黒猫甘味堂の方の売り上げが尋常でないため、毎月多額の現金がオーナーの給料として入ってくる。もともと贅沢ができない小心者のオーナー。現金は貯まるばかり。


「ダメです! 儲けた分は還元しないと。これからは投資をして下さい!」


 レイシアが店長を説得し、お祖父様と計画中のメイド喫茶黒猫甘味堂オヤマー店のオーナーとして資金と名前を出す事になった。オヤマー店は年末開店予定。ゆっくりしたかった店長は巻き込まれて忙しくなるし、次年度からさらに大金が入ってくることになるのだが、それはまた別のお話。



 学園長は、学園改革に奔走している。若いということもあり、また伝統が大切と思っている教師や保護者が多い中での改革。教会勢力からも悪い意味で関心を持たれてしまっている。そんな中での王子による騎士団改革は、若干の追い風と大きな混乱を巻き起こしそうだった。

 騎士コースの魔法選択では、従来の火・水だけでなく、風の属性の者を取るようになった。これもまた、学園改革に小さな追い風となっている。

 レイシアの目線だけで見れば、本来の学園は低レベルに見える。しかしたった2年で学問の基礎や武術の基礎を教え込み、5年で領主見習いの自覚や、商人として雇われる程の勉強をさせることができる学園の体制は、それはそれで素晴らしいものとも言える。もし、13歳まで、質の良い家庭教師の雇えない者たちが、一斉に学園入学前に基礎教育を学ぶ事ができれば学園の授業がもっと深めることができるのではないか。あるいは、身分の壁をもう少し緩めることができれば……。そんなことを思っている時、学園にレイシアが入学して来た。


高位貴族(土地持ち子爵)でありながら平民を差別しない。5歳から英才教育を受け、独自の発想ラノベおたくで魔法に革命を起こしかねない才能。領で祭りをひと月で作り上げる発想力と企画力、それにカリスマ性。騎士団を凌駕りょうがする武力と側近。


 こうして見ると、世間に出すにはあまりにも危うい。出る杭は打たれるが、出過ぎた杭は抜かれるか切られる。


 学園長は、学園改革にレイシアが必要だと確信しているが、情報の出し方に悩んでいた。次々とくるレイシアからの報告に、歓喜と胃痛が同時に起こる。処理が追い付かなくなっていた。



 お祖父様、オズワルド・オヤマーは、息子の尻ぬぐいに忙しい。領主として権力を持ち、なにか結果を出さないといけないと焦っている息子は、思い付きで事を進めるため各所に反感が持たれている。父親を超えないといけないというプレッシャーは残念ながら自分の実力の範疇はんちゅうを見失わせる。そして、父親に助けられたという事実は、「よけいなことをしやがって」という反発に変わる。


 妻ナルシアに、クリシュを預かることを告げた。レイシアがあのような結果であったため、ナルシアの機嫌は悪いのだが、貴族として孫の後ろ盾として振舞わないのは、それはそれで社交界での悪手。仕方なしに、ナルシアは了承した。


 メイド喫茶黒猫甘味堂に関しては、多大な期待を持っている。一番は女性の雇用問題と王都への流出を減らすこと。どうしても若い女性は、仕事を求め、また楽しみを求め王都に居を移してしまう。最近では親の縁談を断って王都で一人住まいをする女性が増えた。


 レイシアの働くメイド喫茶を見た時の衝撃と言ったら言葉にもならなかった。店長も料理人も男性がいない。お客様も全て女性。料理屋の厨房など怒号にあふれ女性は蔑まれているというのに、明るく楽し気な職場などあることが理解不能だった。客も女性ばかり。しかも長時間並んで待っている。ほんの2~30分しかいられないのに1時間も並ぶのか? それでもクレームも来ない。

 

 今、オヤマーに必要なのはこの場所だとオズワルドは確信した。若い女性が生き生きと働ける場所。男性がいない所でくつろげる空間。まったく新しい考え方が必要だったのだと思い知らされた。レイシアから情報を貰い、2号店を作る準備は整った。年末には開店させようと頑張っている。



 他にも、レイシアの周りでは様々な思いと思惑があふれているが、レイシアは貴族コースの授業でいっぱいいっぱい。知識は増えるが友達は出来ない。猫をかぶり、大人しく授業が過ぎるのを待つ。声さえかければ法衣貴族とは仲良くなれたのに、その方法論が分からず機会を失ってしまった。


 二年生の前期はまもなく終わり。今年はすぐに帰ることに決めた。



………………………………あとがき…………………………………


 やっと終わったよ~! 第二章いかがでしたでしょうか?

 一年生で書いた時点で、二先生でやることがなくなったのです。全部ネタ突っ込んでしまったので・・・


 なんてことでしょう! じゃあ、3年生のネタを持ってくればいい。って訳には行かなかったのです。2年生まではゼミでないし、基礎学なので。


 仕方が無しに、貴族コースへぶち込まれることになったレイシア。いつの間にか騎士団ボコボコにするレイシア。調子に乗って騎士団改革する王子。


 やめてー! 勝手に話し膨らませないでー! 伏線貼りまくらないでー!


 作者の動揺や困り感が分かるでしょうか?


 三章の夏休みは、クリシュも途中でいなくなるので、そんなに長くならないはず。

 もう伏線増やしたくないです。


 みんな落ち着いて! 暴走しないでと作者は思っていますが、読者様は暴走した方が読みたいのでしょうか?


 あと、最近1話ごとの字数が増えているのですが、大丈夫でしょうか? 今画面に約3900文字と出ています。長いですか? ご意見あればお書きください。


 自由過ぎるレイシアとその仲間たち。これからもよろしくお願いします。


 みちのあかりでした。

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