お茶会のための計画
「オズワルド様からのご返事です。ナルシア様と現領主のセガール様が『何としてもオヤマー家の敷地はレイシア様には使わせない』と反対しているため、敷地もメイドも貸せないという事です。申し訳ないとおっしゃっておりました」
ポエムはレイシアに手紙を渡しながら先に結果を報告した。
「お祖母様にはずいぶん嫌われたのね」
レイシアは、オヤマーで過ごした幼少期を思い出しながら、「まあ、私もお祖母様は苦手だし、しかたないわね」とつぶやいた。
レイシアが学園で貴族の輪の中に入れない一因が、オヤマー現領主とお祖母様からの妨害のせい。本来中立派で後ろ盾になるはずのオヤマー領主と社交界に顔が聞くお祖母様がレイシアを受け入れない。商業、特に米にまつわる一大地のオヤマーは中立派だけあり、派閥を超えてあちらこちらに貴族づきあいのネットワークが張り巡らされている。そこにわざわざ反目してレイシアを受け入れようとする貴族はいない。親から子へ情報は流れ、周りに波及する。実質的に一人にならざるを得ない状況だった。
女教師が無理やりお茶会を開かせたのも、その現状を変えるためもあった。オヤマー元領主オズワルドがレイシアのために学園に対しいろいろと動いているのは、貴族コースの教師達の耳には入っている。もし、オヤマー家の敷地でお茶会を開ければ、レイシアの後ろ盾にオヤマーがいて和解したとの宣伝になる。駄目な時は現状維持。参加者を法衣貴族の生徒でもいいとしたのも失敗した時の保険。それに一部の法衣貴族の子を除いて、ほとんどの法衣貴族で授業に参加している生徒たちはお茶会に誘われることはない。そんな生徒にお茶会を経験させるチャンスを与えるよい機会になることも加味された
しかし、思ったよりも現領主とお祖母様の妨害が強かった。貴族街にあるオヤマーの別宅は借りることができず、メイドも料理人も揃えられない。レイシアができればいいのだが、主催者が料理を作ったり運んだりは出来ない。
「ポエムさんは手伝ってくれますか?」
「ええ。私は問題ないですわ」
「では、現状を確認しましょう。場所・未定 参加者・未定 日時・未定 スタッフ・メイド サチ ポエム 調理・未定」
……確認するまでもなく、何も決まっていなかった。
「ポエムさん。お茶会どうしたらいいでしょうか?」
レイシアはこの中で一番経験値が高いであろうポエムに聞いた。
「そうですね。場所の確保も大切ですが……、レイシア様の場合、お客様を集めることが一番のネックかと思われます。普通のお茶会では誰も参加して下さらないとおもわれます」
「どういうこと?」
「貴族ネットワークから外れているため、高位貴族のクラスメイトは誰も来ない事でしょう。それに、その方々から目をかけられている法衣貴族の方々も。そうなると、お茶会を一度経験してみたいと憧れている法衣貴族の生徒を誘い出すしかないのですが、このままでは場所もなく学園の教室を借りるしかありません。それではいつもの授業とかわりありませんよね。お茶会でプライベートが見えるお屋敷や別荘で行うことができないのは何とも痛手です。お客様を満足させる場所、食器、おもてなしによるサービスのクオリティ、それに人間関係を深めるメリットが今のままでは演出できないのです。今回に関しては、お茶会に出たことがない法衣貴族の生徒を満足させるだけでいいので、見せかけだけでもいいのですが、なにか餌になるようなイベントを考えなければ参加して下さらない事でしょう。なにかありますか? 有名な音楽家を呼ぶとか、サロン的なもの。あるいは、手に入りにくい有名なお菓子を振舞うとか」
有名な音楽家。そう言われてもレイシアにそんな伝手などある訳もない。
「お祖父様に頼んだら有名な音楽家を手配できるかな」
「無理ですね。お茶会のホスト、この場合はホステスがレイシア様ですので信用もありませんし、音楽家にメリットもございません。お金だけでは呼べるものではないのですよ」
「有名なお菓子は?」
「買えないから貴重なのです。侯爵クラスでないと無理ですね」
三人はため息をついた。
「レイシア様は財力だけは心配ないのですが。あとはレイシア様の人間関係の中で、なにが出来るのか考えましょう」
レイシアの人間関係。貴族としては先生方と王子くらいしかいない。あとは平民だけ。それだけでお茶会を開く無謀さに頭を抱えながら、それでもなんとか計画を作るために話し合いを続けた。
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