ビジネス作法 ②
「それでは、ここからは特許について基礎を覚えましょう。たいていの商人にとって特許は使用する側ですので、仕組みを覚えておくといいでしょう」
そう言うと教科書の該当ページを開かせて、説明を始めた。
「特許には大きくA~Cのランクがあります。それぞれのランクによって特許の保護期間が変わってきます。最高20年最低10年です。先ほど話した握り飯の特許は最低の10年ですね。10年を過ぎれば誰でも自由に使えるのです」
「どうしてですか? せっかく取った特許なのに」
レイシアが質問した。
「いい質問です。それは神が決めたからです。ヘルメス様は新しい技術開発や発見をしたものを讃えた。同時に、全ての者が幸せになる道を示されたのです。10年の間独占して富を得ようが、公開して稼ごうが自由なのです。しかし、いつまでも独占してはいけない。それまでに得た富や信用で残りの人生を歩めばよい、そうおっしゃられたと記録に残っています。まあ、偉大な発見や発明には時間がかかる者ですし、特許を取る者は50〜60代の人がほとんどです。10年もあれば残りの余生は十分なのですよ」
レイシアは10歳で特許を取ったため腑に落ちなかったが、教師の言う通り特許を取るのは大抵ある程度の年になってからの方々。研究に研究を重ねると歳を取るのは仕方がない。それに、特許自体十年に一度出るか出ないか出ないかのようなもの。黒猫甘味堂の店長のように、思いついても特許を取るという考えにならないのが普通。レイシアでさえもお祖父様がいなかったら握り飯で特許を取れるとは想像できなかっただろう。そうなれば、ふわふわパンを見ても特許を取る発想は出てこなかったはず。
その一点を取っても、あれほど嫌だったオヤマーでの経験は、レイシアにとって無駄な事ではなかったのだ。
「特許を使用する時は、商業ギルドで使用権を買い取ってください。その際最低限のやり方を書いた紙を貰えます。より詳しく知りたければ特許取得人にお金を払って聞いて行かなければいけません。そこは交渉次第です。商品が売れたら売値の数パーセントを納めなくてはいけません。パーセンテージはそれぞれ違いますので確認する様に。ちなみに、握り飯は自家消費なら無料です。あくまで売り上げに対してです。また、貴族が料理人に作らせるなどした場合は、その食事は売り物としてみなされるため、契約の際記載された特許使用料は払わなければいけません。ここは間違えている方が多いので気をつけなければいけません。神との契約が特許ですので、あまりにひどいと天罰が下ることもあるそうです」
レイシアは最初の特許を取得した時の事を思い出していた。確かに神の声を聞き、神の奇蹟に触れた。特許を通じて神と対面したレイシア。10年で握り飯やメイド喫茶の特許が切れるのは残念だけど、神様の願いなら仕方がないと思うことにした。
しかし、この期間限定が、レイシアにとってこれから先プラスになっていくことになるのだが、それはまた別のお話。
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