休日のレイシア①
「レイシアさん。あなた休日のお茶会に何回出席しましたか?」
女性貴族基礎学講座が終わると、女教師がレイシアに近づき尋ねた。
「はい? お茶会ですか? いえ一度も」
「そうですか。これから私の部屋に来なさい」
レイシアはそう言われて教授の部屋について行った。
◇
「あなた、なぜお茶会くらい開かないのですか?」
レイシアは「そう言われても」と言いながら答えた。
「お茶会、どうしたらいいのか分からないんですよね」
「分からないとは?」
「お茶会に呼ばれたことがないのでどのように行えばいいのか分からないのです」
教師は信じられないという表情でレイシアに言った。
「お茶会の練習なら授業で行っていますよね」
「はい。ですが誘う方法とか手紙の書き方は習っておりません。もちろん誘われたことがないのでどのようにしていいのか分からないのです」
教師は頭を抱えた。
「それは小さい頃から各家庭で習う事なのですよ。お母様から習わなかったのですか?」
「母は早くに亡くなりましたので。それに辺境で社交はおこなっていませんでしたから」
教師はため息をついた。
「まあ、私が異色なのは分かっています。ですが先生? 後ろで聞いている法衣貴族の中にも同じように感じている人がいるのではないでしょうか」
そう、法衣貴族はお茶会を開くという習慣はない。参加するとすれば上位貴族から呼ばれた時だけ。法衣貴族がお茶会を開くのは上位貴族に対する不敬に当たる。名前と少しの違いを作り、『ホームパーティー』を行うのは抜け道としてあるのだが、優雅にお茶を飲むそれとは違って、がっつり食事を出すのが一般的だ。
お茶会とは貴族が誇る、格式ある行事。見栄と予算を惜しんでは恥になるもの。学園では、その練習として簡易なお茶会があちらこちらで行われる。そのためレイシアたちがいるオンボロ寮ですら土日は練習用お茶会や練習用夜会を行う前提で食事が出ないのだ。金のない平民落ち確定の法衣貴族にとっては厄介な制度なのだが。
「あなたは、貴族の一員としての自覚はないのですか。級友と仲良くなろうと贈り物をしたり話しかけたりすることはしておりますか?」
レイシアとて何もしなかった訳ではない。しかし、もともとの基盤のない貴族社会。上級生で奨学生というだけでも距離があるのに、オヤマー家の妨害や兄姉先輩から降りてくる情報、今までのレイシアのやらかしの噂、ダンスでの王子の独占などのせいで周りから嫌厭されるのは仕方がなかった。
「では、あなたは休日は何をしているの? お茶会にすら出られないのならさぞ優雅にすごしているのでしょうね」
レイシアにも分かるように嫌味を交えて教師は言った。それならばと、どれだけ忙しく過ごしているかレイシアは話し始めた。
◇
「土日どの様に過ごしているかですか? その状況によって変わりますので何とも……。そうですね、先週ですとこんな感じでした。土曜日は朝4時に起床」
「は? 朝4時ですか?」
「いつもですよ。朝市を開く方々はみんな5時には起きますよね」
「貴族は優雅に寝ている時間です」
「もったいない。すがすがしい時間ですのに。体操と基礎訓練、そうしていましたらメイドのサチが来ましたので二人で組み手を」
「何ですか! 基礎訓練とか組み手とかって」
「戦闘訓練ですが」
「なぜ! なぜ戦闘訓練をやっているのですか? 非常識な」
「辺境貴族には必要なのです」
「聞いたことがありません!」
辺境貴族にも普通は必要がないのだが、面倒くさいのでそういう事にしておこうとレイシアは続けた。
「中央の方には分からないかも知れないのですが、辺境は大変なのですすよ。6時に朝食の準備をし、6時半にメイドと朝食」
「朝食の準備? メイドが行うのですよね」
「メイドには食卓の準備をしてもらいましたわ。私の作る料理の方が美味しいので。適材適所ですね。私、料理人として師匠から一人前の認定証を書いて頂いておりますので、どこのお店でも働けるし、個人でも開店できるのです」
レイシアは胸を張って答えた。あっけにとられる教師を放っておいて話を続けた。
「食事は寮の先輩の分も作っておきましたよ。それは取り置いておきましたので安心して外出しました。そして学園の厩舎に見回りに」
「厩舎? 馬小屋ですか? なぜ?」
「私、騎士コースのコーチングスチューデントですから。土日は交代で1年生が馬小屋の掃除に来ますので、ちゃんとやっているか確認に。最近は自覚ができてきたのか、皆さん真面目に掃除しています」
あんな決闘を見せられた騎士団コースの1年生。レイシアとお馬様に逆らう怖さを骨の髄までしみ込まされていた。
「あなた貴族子女ですよね。なぜ騎士コースなど手伝うのですか!」
あの件と騎士団での決闘は、学園と騎士団によって守秘義務が課せられている。貴族コースの教師が知らないのも仕方がない。
「あら、王子も騎士コースのコーチングスチューデントですわ。王子にも同じことおっしゃられるのでしょうか?」
レイシアは王家の威光を使った。
「あなたは女子です」
「騎士コースにも女性はおりますわ。むしろそんな女性のサポートのために女性のコーチングスチューデントの役割は高いと思うのですが」
レイシアが期待されているのはそこではないのだが。
「厩舎の掃除が終わるのを確認、ダメ出しを行いやり直しを見届けてから冒険者ギルドへ向かいました」
今度は冒険者ギルド。女教師はあまりにも意外な展開に、ツッコミの言葉もでず呆然としてしまった。
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