閑話 レイシア担当者の苦悩②

   報告書

 日時 5月23日(金)午前10時~午後1時まで

 場所 騎士団訓練所


 騎士団の訓練所に於いて、パワハーラ・ダメック人事部長(以下パワハーラ)の申し立てによる決闘の再試合が行われた。息子ムッダー・ダメック(以下ムッダー)への決闘の無効を申し入れる。

 対戦相手は学園生レイシア・ターナー子爵令嬢(以下レイシア)。

 立会人 ドンケル・ダークベ(学園指導教諭。以下ドンケル)


 なお、パワハーラの提案により、代理による3回戦形式。


 勝利時の条件

  パワハーラ 息子の決闘の無効。

  レイシア  パワハーラとの決闘。


第一回戦

  騎士対従者 騎士惜敗のため レイシア側勝利


第二回戦

  騎士対従者 ルール上の不備のため無効試合 


第三回戦

  騎士対友人 友人としてアルフレッド王子が参戦。レイシアが同学年であり同じ騎士コースの補助員として見学に来ていたところ、レイシア側の人材不足により急遽参加した模様。騎士は王子に花を持たせるため惜敗を選んだ。レイシア側勝利。




 レイシア側勝利により、レイシア対パワハーラの決闘が行われる。



 勝利時の条件

  レイシア  王子アルフレッドに一日人事部長の権利を要求

  パワハーラ レイシアの従者2人を請求


 騎士団とは言え事務方のパワハーラと、学生とは言え騎士コースのコーチングスチューデントを務める実力のレイシア。

 絶対的な不利の状況にも関わらず、5分以上攻撃に耐え善戦を尽くしたパワハーラ。

 第一回戦が数十秒で終わったことと比較した時、騎士団としての誇りを胸に戦い抜いたパワハーラの矜持は、負けたとはいえ称賛を送らなければいけない。


 結果、パワハーラの惜敗。勝者レイシア。


 なお、勝利条件の王子アルフレッド様の一日人事部長については、後日関係者の話し合いのうえ日程調整する。



 なんだこれは……。


「お前の名前と勝利条件がこれだったので事情を聞こうと呼んだのだが、あまりにも書いている内容とお前の話がずれているのだが……、いや大筋では間違ってはないが内容がな。どうにもおかしくはないか?」


「間違ったことは書いてないのですが、あまりにも騎士団を美化していますね」


「まず、従者というのはメイドなのか?」

「メイドです」


「メイドに負けたのか」

「一方的でした」


 ああ、やはり見ないと分からないよな。変な顔になっている。何を答えても、どれだけ説明しても、説明する俺の方がおかしく見えるよね。そりゃあそうだ。話しながら(何を言っているんだこいつ)と冷静な自分が突っ込みを入れているのだから。


 それでも、騎士団のセクハラ男とパワハーラの腐った人格は伝わったようだ。


「それで、一日人事部長で何をする気だ?」

「パワハーラとダダン、ああ、2番目のセクハラ男ですね、の解任をしようかと思っています」

「だめだな」


 は? どう見ても解任でいいだろ。


「帝国の動きが中々香ばしい」


 えっ?


「騎士団、衛兵はじめ、各部署に帝国のスパイが混ざり込んでいる。まあ元からいるし全排除してもそれはそれで問題があるから泳がせていたり、逆に間違った情報を与えたりしていたんだが最近の動きが焦げ臭くてな。少し動こうとしていた所だ。パワハーラは騎士団の中でやり過ぎた男だ。アルフレッド、どうせなら背後関係を洗って粛清してみたらどうだ? 王太子としてここらで一旗揚げておくのもいいかもしれん。まあ、背後関係は調べ上げてはあるが儂から聞いたのでは面白くもないだろう。お前の実力を評価してやろう。騎士団、好きに改革して見ろ」


 父に認められたのか? いや試されているんだ。俺は「はい」と返事をし、期待を胸に抱いて家に帰った。



 翌日、ドンケル先生に相談に行った。話を聞いた先生は俺にアドバイスをくれた。


「そういう事でしたら、私の以前の職場にご案内いたしましょう。参謀部の資料室には全ての書類の写しが保管されています。その書類を読み解ければ、不正の証拠も情報の流れも分かるはずです。読み解ければの話ですが。読むべき書類の方向性はお教えいたしましょう。解答を知りたければ、王子として命令下さればお教えしますが、それではせっかくの課題が台無しでしょう? いかがいたしますか?」


 ドンケル先生は俺の事を試している。口元がニヤついているのはわざとだな。俺は生徒会の仕事を休み、空き時間は全て資料室に通った。



 ある日、レイシアが上級生を連れて俺に会いに来た。あれは以前に会ったラノベ作家のイリア・ノベライツ。なんだ? あの決闘の取材をしたい? ああ、同じ寮だからレイシアからは話は聞いているのか。なら伝わるな。俺は聞かれていないことまで話した。だって話して理解出来るやつなんかそうそういないのだから!


「王子の表現までこうだと、書きがいがあるわ」

「まて、この話をラノベにするのか?」

「もちろんです! こんなネタほっとけないじゃないですか」


 目をキラキラさせながら話すイリア・ノベライツに俺は言った。


「書いても売れないぞ」

「なぜですか!」

「俺がいくら話をして説明しても誰も理解できなかったんだ。真実は小説より奇なりとは言うが、ありえなさ過ぎて受け入れられないだろう」


 イリア・ノベライツは我に返ったようにおとなしくなった。


「いけると思ったのに」

「そうだな。だが騎士がメイドにフォークやトレイで負けると思うか? レイシアを知らない状況で」

「……無理ですね」


 話しながらいいアイデアがひらめいた。


「だが、これがドキュメンタリーだったらどうだ?」

「へ?」


「俺が王子として解説文を書いてやろう。それから俺と戦った騎士にもインタビューさせてやろう。レイシア側、騎士側、それに俺だ。中立なものになると思わないか」

「それいい! 全力で書かせて頂きます!」


「だが、条件がある」

「はい?」


「書いたら俺にチェックさせろ。それから出版のタイミングは俺が決める」

「見せるのはいいですが、出版のタイミングはなぜ?」


 ああ、今俺悪い顔しているんだろうな。口元が緩んでいるのが分かる。


「一番売れるタイミングに出させてやるよ。明日騎士に会わせてやる。一週間後に初稿を提出。いいな」


 俺はイリア・ノベライツを使って、世間に騎士団改革をアピールする手段を得た。

 見てろよ。俺に任せたことを後悔させてやる。


 俺はイリア・ノベライツに、書いてもらいたい騎士団内部の秘密情報を話し始めた。

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