閑話 レイシア担当者の苦悩①

 レイシアがまたトラブルを起こしそうだ!


 いつの間にかレイシア担当みたいになってしまった俺。なぜ王子の俺が⁈ 仕方ないんだ。Aクラス相当の学力と俺が全力を出しても対応できる武力持ちのレイシア。それなのに貴族としての常識も、人間関係も、とりなし方も知らない田舎者なんか誰がフォローできる? 俺ですら振り回されているんだ。他のやつらが耐えられるわけないだろ? 教師たちからもレイシアがいると無言のプレッシャーをかけられるしな。うん。仕方ないんだ。


 まあ、真面目ではあるし努力家。それは認めよう。しかし今度は何で呼び出されるんだ? 俺が! 決闘? 誰と? 元騎士団員? 何で! 姉に手伝わされている生徒会の事務仕事を放棄して会場に向かった。



 フライパン……。またこいつは……。ああ、辛いよな、あの終われない感じ。そうだよな。プライドがあるしね。

 ああ、負けてもいいんだよ。あれは規格外だから。


 おれは下手な三文芝居を見るような気持ちで、この戦いの終焉しゅうえんを見守った。



 で、なんで騎士団に行く! 何しでかすか分からないレイシア。俺がついて行かないとダメじゃないか! ドンケル先生に掛け合い無理やりついて行くことにした。今思えば、ドンケル先生にはめられた気もするけど。


 酷いな。特に二人目。女性に何を言っているんだ。これが騎士団か? 騎士の誇りとはなんだ。ああ、ボコボコにされている。どうなっているんだ?レイシアの周りは。メイドってみんなあんな感じじゃないよな。あれ? 俺がおかしいのか?



 三人目がいない。え? 俺? 俺出てもいいの? 待てまて、感情を悟られるな。しぶしぶって形で交換条件を出してと。まあそれっぽく言っとけばいいや。後で考えよう。……よっしゃー! 俺はうきうきした気持ちで闘技場に立った。


「では決闘の条件を」

「ありません」


 おや、王子相手に何もないのか? 大概の事は叶えられるぞ?


「ないのか?」

「ええ。好きで出向いた訳ではないので」

「そうか」


 やる気がないだけか? それとも存外真面目なのか? 先の二人とは違う感じがするな。


「アルフレッド君は?」


 先生が聞いてきた。そうだなあおってって見るか。


「なら、俺も条件なしでいい。だが、このままでは騎士団に失望するばかりだ。騎士の強さを見せてくれ」


 まだ足りない? いや目の感じが変わった? ならば!


「メイドに負ける騎士は必要なのか?」

「確かに。おっしゃる通りですね」


 間髪入れずに返してきた。ははは。そうでなくてはな。

 身構え剣を合わせる。


 ……強い。ああ。俺はまだまだだ。手加減されているのが端々はしばしから感じる。


 俺は呼吸を整え、全力で渾身の一打を放った。


 切られた! そう思った腕は痛みしかなく出血は無かった。峰打ちか。


「勝者、アルフレッド!」


 会場から歓声が上がる。だが今のは相打ち。いや、わざと切られたのか?


「わざと切られたな」

「当たり前です。王子を守るのが騎士ですから」

「ふふふ。その態度はいいな。お前のような騎士ばかりだったらどんなによいだろうか」


 俺は周りの騎士とパワハーラを見て心からそう思った。


「騎士団の最高司令は王です。王子が王になった時にはぜひ改革を」

「分かった。心に留めよう」


 俺のなすべきことが見えた。まずはあの男を追放しなくては。


 そしてレイシアの戦いが始まる。

 やり過ぎだ、バカ! 騎士の方たち引きまくってるよ! テニスの試合じゃないんだから! それ以上やったら虐殺だ! 先生、早くやめさせて~!


 これから祝賀会? 飲ませるな! 先生めて! せめて他人のいない小屋かどこかで! 寮で? だったらいいか。えっ? 俺も? お断りだ!



 レイシアたちと別れ学園に戻った俺は生徒会室に行った。会長の姉に報告をすると鼻で笑われた。そんなことより書類をまとめろ? はいソウデスネ。見ていない人に伝わるわけがないな。一応報告はしたからな。それにしても書類多いな。



 王都での俺が使っている別荘に帰ると王宮に明日来るようにと伝言が来ていた。今日の騎士団の騒ぎが伝わったようだ。正式に父に伝わっているといいんだが。独り冷たい料理を食べながら、レイシアたちが祝賀会をしている事を思い出した。


 わきゃわきゃと楽しくやっているんだろうな。温かい料理を食べながら。


 冷めたスープを飲みながら、そんな妄想をしていた。



 父に騎士団での出来事を話した。先に報告が上がっていたようで、話し終わるまでは黙って聞いてもらえた。黙って聞いてもらえたのはありがたいが、リアクションがないと自分で言っておきながらなんとも嘘くさい話に聞こえるのはなんでだ⁉ 噓偽りなく話せば話すほど、自分でもありえない話に聞こえてくる。シーンとした中で、メイドがトレイとワイン瓶で騎士を手玉に取る様を語っているのは辛い。まだレイシアのくだりも残っているのに。


「信じられんな」


 ああソウデスネ! 俺だって目の前で見ていて信じられなかったですよ!


「しかし、報告書の内容と筋だけはあっているな」

「報告書、確認させてもらえますか?」


 執事から報告書が手渡され、目を通した。なんだこれは―――! 思わず叫びそうになった。いや、父の手前心の中だけで収めたけど。


 それは、あまりにも淡々と書かれた報告書だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る