閑話 祝勝パーティー
「イリア、今日の夕食レイシアたちが用意するって連絡があったよ」
「レイシアたち? ああサチさんも今日はここで食べるのか」
「なんか他にもいるみたいだね。使いのものという人が、学園の先生の許可証を持ってきたんだよ」
カンナさんから渡された手紙には、宴会場として寮を使う事を許可する旨が確かに書いてあった。ドンケル先生の署名があったが、誰? 知らない先生だ。
「なんだか、大きなイベントがあってその打ち上げにこの寮を使いたいんだとさ。まあ、あんたとあたしとレイシアしかいないし、あんたも賑やかなただメシは好きだろ」
「もちろん! あれ? でもここ男子禁制だよね。女子だけなのかな?」
「そりゃそうさ。女子寮なんだから」
「そうだね」
あたしはその後、男子禁制を恨むことになるとは思ってもいなかった。
◇
メイド服を着たレイシアとサチさん、それにもう一人メイドさんが来た。
「ポエムと申します。学園でレイシア様のお世話をしております。レイシア様の祖父オズワルド・オヤマー様から派遣されました」
◇
「ここどこ!」
いつもの食堂がパーティー会場になっている! テーブルクロスが引かれ贅沢そうな料理が並んだ机には、高級そうな食器類が置かれ、綺麗な花が飾られていた。そして、見慣れない瓶たち。あれは酒!
「何でお酒が! ここ飲酒禁止よね。寮では飲んじゃダメなのに」
もちろん5年生にもなれば、17歳だから飲酒OKな年になる。卒業パーティーで急に飲むのは危険だから、少しずつ慣れなきゃいけないんだけど、ここは寮だよ。持ち込み禁止のはず。
「許可は取りましたわ」
ポエムさんが答えたけど、あれ? 服が? 三人ともメイド服を着替えてワンピース姿になってる。
「じゃあ、仕事はここまでね。サチもポエムさんも、ここから先は今日の祝勝会だからね。あのストレスを発散するのよ!」
「ええ。存分に」
「ああ。グチるよ。グチらずにやってられるか!」
黒い笑みだ! 三人からうっすらと殺気が放たれてるよ! 何があった! さっきまでの準備中のキャッキャした感じはどこに行った!
「あ、カンナさんもイリアさんも座って。イリアさんお酒飲む? 私はジュースにするけど、イリアさん17歳だよね」
「あたしもジュースがいい」
不吉な予感にアルコールはやめようと思った。
◇
「お疲れ様でした。じゃあ今日は無礼講ということで、かんぱーい!」
「「かんぱーい」」
なんかよくわかんないけど、宴会が始まったよ。カンナさんも戸惑っているよ。あ、カンナさんが動いた。
「レイシア、一体なんのパーティーなんだい! あたしらにゃ何が始まったのか分からないよ」
その通り。カンナさんナイス!
「え〜と、そうですね。説明不足でしたね。今日は騎士団の方に呼び出されまして」
「「はい?」」
「みんなで決闘してきたんです」
あ、カンナさん固まってる。っていうか決闘? 騎士団と?
「相手がセクハラとかカマしてきて、とにかく最低だったんだよ」
サチさんが肉を頬張りながら話す。
「あら、サチの相手はカワイイものじゃない。私の相手なんて」
「「最悪!」」
サチさんとポエムさんの声が揃った。
「大丈夫でした? なにかされたり……」
「大丈夫。される前にコテンパンにしたから。まあ、踏んづけて首絞めただけだけど」
「はあ?!」
首絞めた? 首絞めたって言ったよね?
「殺してないから大丈夫よ」
え〜と、話題変える?
「ちなみにサチさんは?」
「あたし? 手にフォークぶっ刺しただけ。ちゃんとやればよかった」
はあ? 手にフォークぶっ刺しただけ? だけって何、だけって!
「あんたらの説明じゃ何も分かんないわ」
カンナさんナイス! いいツッコミありがとう。
「それで、発端は何? どうして騎士と決闘なんてすることになったの? 怪我は? 決闘って何をしたのかな」
あたしは、なるべく丁寧に聞いた。そう、取材をするときのように。相手が落ち着いて話をしやすいように。
「発端は、馬小屋の掃除」
「はぁ?」
「お馬様のお世話をしない生徒がいてね……」
レイシアが長い説明をしてくれたよ。サチさんとポエムさんはカンナさん巻き込んで飲んだくれてるよ。セクハラセクハラうるさい!
「って言うか、おかしくない? 何でそこで王子が出てくるの!」
「暇そうだったから」
「暇そうだから? 王子をあごで使わない!」
「本人ノリノリだったよ〜」
分かんない! こいつら何やっていたんだよ!
「あたしなんてフォークを手に刺しただけだよ〜」
だから! 刺しただけって何! 刺すなよ!
「一番酷かったのレイだったんだから」
「そうね! レイシア様が一番酷かったわ」
「大したことしてないよ〜」
「「嘘だ!!」」
「そう。それはそれは残虐。全身金属鎧で身を固めたおっさん相手に、肉叩き棒で撲殺」
「はあ?!」
「そうですね、クリケットのボールを転がすように、鎧ごと右へ左へと打ち飛ばすレイシア様」
「えっ?」
「いやあ、あれは猫がモグラをいたぶっているような感じだったね。ポーンと投げ飛ばしてはダッシュで近づいて、またポーンと投げ飛ばしては近づいて……。死んだほうがマシってあの状態だね。あはは」
「あははは。最高〜!」
サチさんとポエムさん! 何がそんなに楽しいのですか! 分かんないよ〜!
「まったく物足りなかったのに、ちょっと一息ついた途端に試合終了になるし」
レイシア! 何言ってるのよ!
「「「あの程度じゃ怒りの矛先がおさまらないのよー!!!」」」
「だからあたしが『こんな時は憂さ晴らしに打ち上げだ〜!』って提案したのさ」
「私もあのセクハラ男からの暴言の数々、いまだに怒っていますのですぐに乗りましたわ」
「でもね、王子が『コイツラを野に離してはだめだ〜!』って叫んだの」
うん。王子ナイス!
「『飲まずにいられるか〜!!』って私とサチが叫びましたの。そうしたらドンケル先生がこの寮で打ち上げするようにと言って下さいました」
「いやぁ、あの先生こう言ってたぜ。『貴女達が飲んだくれて暴れたらどうなるか心配です。おまけに物騒な会話を他人が聞いていたら騎士団の評判が……。とにかく他言無用です』ってさ」
「王子と先生もお誘いしたのですが、女子寮だから遠慮するって来なかったのよね。とにかく内緒にってしつこく言われたわ」
今、目一杯喋ってるよね!
「ここで飲めって言うのはそういう事だろ」
どういう事?
「いいからイリアも飲め!」
「そうよ。私の酌が呑めないっていうの!」
目、据わってるよポエムさん!
結局、グダグダな飲み会に付き合い散々飲まされた。でもいいの? あたし作家よ。こんな面白いネタ書くに決まってるじゃん!
毒食わば皿まで! あたしは彼女たちの武勇伝を楽しく引き出す方に、気持ちをシフトした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます