代理決闘(二回戦)
「お前もフォークを投げるのか?」
代理として立たされた騎士・ダダンは尋ねた。
「私があの子と同じことするわけないわ。刃物を投げるなんて真似はしないですわ」
ダダンの目が光った。
「投げないのか。そうか、なら安心だ。あんた色っぽいな。さっきのメイドは可愛いが、あんたは綺麗だ。そうだな。俺が勝ったら一晩付き合うってのはどうだい。いい目見させてやるよ」
余裕が出たのか冗舌に口説き始めるダダン。ポエムが不潔なものを見るように睨んだ。
「そうですね。私が負けたらお付き合いしますわ」
「「「おおお―――!」」」会場がざわめいた。
「私が勝ったら……そうですね、あなたに二つ名を送りましょう。『下心丸出しの変態野郎』。私が勝ったら皆さんそう言ってあげて下さいね。もちろん試合のたびに名乗るんだよ、このスケベ野郎が!」
ポエムは下ネタに厳しかった。会場内が盛り上がる。所詮他人事。勝っても負けてもこれ以上の面白い出来事はないだろう。
ダダンは怒りに燃えた。
「武器の宣言を」
「こうなりゃ手加減はなしだ。俺の武器はレイピア。突き刺すには最適だ。一瞬で終わらせてやる。そしてお前をヒーヒー言わせてやる!」
ポエムの周りの温度が下がった。殺気が満ち溢れている。
「レイシア様。カバンから私の武器を出して頂けませんか?」
ポエムがレイシアに頼むと、「預かっていないけど?」とレイシアはカバンを持ってポエムのもとに近寄った。
「丸いトレイと安いワインボトルにワイングラス、それに腕にかけるナプキンを貸していただけますか?」
「ええ。あるけど。これでいい?」
武器には見えないメイドの基本セット。左腕にナプキンをかけ、ワイングラスとワイン瓶を乗せたトレイを持った。
「私の武器はこれです。あと一つありますがよろしいですか?」
(((武器ってどういうこと⁈)))
どう見てもパーティー会場にいるメイドそのもの。どうやって戦うのか理解できない騎士団員たち。
「最後の武器はこの液体」
ポエムはどこからか小瓶を取り出し「フフフフフ」と笑いながら歌うように解説を始めた。
「本当は知らせず使うのがいいのですが、後から聞いてなかったとか言われるのは邪魔くさいので教えてあげますね。これは軽い劇薬です。皮膚にかかれば三日三晩痛みに襲われ、背中に掛かると横になることも出来なくなる程度の軽いものです。もちろん一週間もたてば普通の生活に戻れますわ。髪に掛かれば、二度と毛が生えなくなりますが、日常生活には何の問題も無いかと。女性ではないのですからね。それから、万一股間にかかったら、一生女性とあれこれいたすことが出来なくなるほどの痛みが」
「「「うわ――――――!」」」
会場中から叫び声が上がった。
「やめろー! それは反則だ!」
「おかしいですわね。大怪我するほどのものではないのですが」
「だめだ! 止めろ! 立会人! お前も男だろう!」
暗闇はポエムに液体の名前をこっそりと聞き出し、「問題なし」とした。
「今回は薬の効果を先に宣言している。場合によっては、そのことで自分にかけられるリスクも背負ったことになる。暗器が暗器でなくなった今、通常武器としての使用は許可する。ただし、使用に関しては顔より下だけを狙うこと。首から上にかけた場合は反則負けとする。以上だ」
(((下半身! 股間はいいの⁈)))
男どもの股にギュッと力が入った。
闘技場では、メイドとして美しく立つポエムに対し、股間を気にし前かがみになるダダン。
「では、勝負をはじめる。名乗れ」
「負けだ! 俺の負けだ!」
武器を捨て、両手で股間を隠しながらうずくまったダダン。
「どうします? ポエムさん」
暗闇は試合放棄が有効かをポエムに確認すると「仕方ないですね」と答えが返ってきた。
「勝者ポエム」
「ありえん!」
パワハーラが叫んだ。
「神聖なる決闘の場で毒を持ち出すなど言語道断。恥を知れ!」
「いや、勝手に再戦をごり押ししたり、騎士を代理人にしたり、代理人でなければいけないと勝手にルール変更するのも、大概恥だと思うのだが」
王子が間髪入れずにツッコんだ。
「ググググ。しかし劇薬はないだろう! あまりに非常識! 反則だ! 反則負けだ!」
「いえ。まだ戦ってもないのですが」
ポエムもツッコむ。
「大体、毒も劇物もありませんよ。ただの水です」
そう言うと、グラスの液体をクイッと飲み干した。
「ブラフに簡単に引っかかるなんて、騎士団は脳筋しかいないのでしょうか? 取られたら自分が危険になる劇物を、あんなに丁寧に説明するはずないじゃないですか。よくそれでエリートなどど……片腹痛いですわ。あはははは」
乾いた笑い声が訓練場に響き渡る。顔を真っ赤にしたダダンがレイピアを拾い上げポエムに向かった。
ポエムは、ワイングラスをサチに向けて放り投げると、右手でワインボトルの首をつかみ、左手でトレイを盾代わりにレイピアの軌道をずらした。体制の崩れたダダンは隙だらけ。ポエムはダダンの後頭部をワイン瓶で殴った。
「ゴツ―――ン」
快音を上げヒットするワイン瓶。態勢がさらに崩れ、転がり倒れるダダン。
その背中を踏みつけ、ナプキンで力いっぱい首の頸動脈を締めた。
「ウグググググググ……グァ」
唸り声を漏らし、やがて力が抜けたのか、ガクンと首が落ちた。
「一時的に気を失っただけです。すぐに目を覚ましますわ。私の勝ちですわね。これから二つ名を名乗らせること、忘れないで下さいね」
騎士たちに向ってそう告げると、ポエムはレイシアのもとに戻っていった。
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