代理決闘(一回戦)

 野外訓練場。そこに騎士一団とレイシア一行が集合した。


「ではパワハーラ・ダメックの申し出により、レイシア・ターナーとムッダー・ダメックの決闘の再試合を行う。なお、両者の力量に差があり過ぎるため今回は代理人が行うこととする。両者相違ないな」


「はい」

「ああ。僕が出ないのならそれでいいよ」


 どこまでも他人事のムッダー。


「では俺の方は騎士団の精鋭が戦う。2の7,貴様が行け」


 第二師団の7番コリーが呼ばれた。パワハーラはいちいち名前を覚えようとはしないのでいつも番号で呼んでいる。もちろん騎士たちからは嫌われていた。


「俺ですか? ああもう、素人と戦うなんてしたくないんですがね」


 そう言いながらも人事部長には逆らえないのか、訓練場の中央の仮設闘技場まで出て行った。


「では、私も」


 レイシアが歩き出すと、パワハーラが叫んだ。


「お前はダメだ。代理戦だろう、代理人を出せ!」


 執事より数段強いレイシアを決闘に出したくないパワハーラ。


「ハハハ。代理人がいないのでは戦いにならないな。俺の不戦勝か?」


「先生、あんなこと言っていますけど」

「いや、レイシア、君が出るのはルール違反ではない。しかし、この空気は嫌だな」


 パワハーラは立場を最大限に利用して、騎士たちにブーイングを言わせていた。


「面倒くさいわね。いいわ、サチお願い。フォーク投げて当てればいいから」

「分かりました。ちゃちゃっと勝ってくるよ」


 暗闇は(大丈夫なのか)と思ったが、レイシアもサチも不安がっていなかったので認めることにした。


「代理人・メイドのサチ」


 暗闇が宣言した。サチが中央に歩いて行く。


「なになに、こんなかわいい子が俺の相手? 決闘なんかよりデートしようよ。そうだ俺が勝ったらデートね。それでいい?」


 女っ気のない職場に若いメイド。男たちは色めきだった。


「ずるいぞコリー」

「お前ばっかりいい目見やがって」

「俺に変われ!」


 ワーワーと騒ぐ騎士たち。白い目で見るサチ。


「じゃあ、あたしが勝ったらその剣寄こしな。高く売れそうだ」


 お互いの条件がそろった。


「武器は短剣でいい。お嬢さんを傷つけるのは忍びないけどかすり傷は仕方がないな。傷が残らないようするから恨まないでね」

「武器は持っていないから、フォークとステーキナイフでいいや。かすり傷位付けられるだろ」


 騎士たちは大笑い。勝ちを確信していた。


「じゃあ、終わったらディナーにでも行こう。そのナイフとフォークであ~んしてあげるよ」


 軽口を叩くコリー。冷たい目をするサチ。


「条件はそろったな。では始めようか。コインが地面に着いたら決闘開始だ。名乗れ」


「第2師団、団員コリー」

「レイシア様のメイド・サチ」


 名乗りが終わった。二つ名はなさそうだ。


 暗闇が投げたコインが、コツンと音を立てた。


 コリーは


(大声で威圧したら体がすくむだろう。怪我させたくないしな)


 と、優しさを優先し、まずは大声で気合を入れた。


「うおりゃ―――! ……ギャ―――!」


 コリーが気合を入れている隙に、手の甲にサチの投げたフォークが刺さった。


「フォークは刺さっているが、まだ血は出ていない。試合続行」


 暗闇は冷静に判断した。


「フォークを抜くな! 血が出て負けになるぞ!」


 パワハーラが叫ぶ。しかし手の甲にフォークが刺さっているのは本気で痛い。さらに振り回せばすぐにフォークは抜けてしまう。もはや詰んでいた。


「ターナー式メイド術・瞬歩」


 その声にコリーが気づくと、いつの間にかサチが背後にいた。サチの手には刺さったはずのフォークが握られ、コリーの手の甲から三筋、血が流れていた。


「勝者、サチ」


 勝利宣言がなされたが、会場は水を打ったように静まり返っていた。



「何やっているんだ!」

「分かりません!」


 そう、コリー自身なにが起きたのか分からなかった。周りで見ていた騎士たちもなにが起きたのか理解に苦しんでいた。


(((あれが首に刺さっていたら死んでいたな)))


 腕の立つ騎士たちは心底震えた。あれはヤバい。なぜメイドが……。


 そんな空気は気にせず、サチは剣をぶん取ってレイシア陣営に戻った。


「お疲れ様」

「あれでよかった?」

「上出来よ、サチ」


 勝つのが当たり前すぎて騒ぐこともないレイシア陣営。暗闇と王子が混乱しているだけ。


「レイシアは、仕えているメイドまでおかしいのか」


王子がボソッとつぶやいたのは無視された。


「え~い! 次だ! 2の2、負けることは許さん! それから、こっちは対戦者を変えるんだ。そっちも今のメイド以外を出せ!」


 騎士たちも「そうだそうだ」と叫び出した。あんな相手に勝てる気がしない。


「では、私が行きますわ」


 ポエムが中央に向かった。







※※※


 お知らせです


 貧乏奨学生レイシアですが、現在アルファポリス様にも移植中です。

 と言いますのは、いつ何がきっかけで作品が喪失するか分からないと不安になったためです。


 カクヨムが主ですが、せっかくなのでこちらでタイミングを失った、以前書いた限定ノートのSSを1話アルファポリス様で公開しました。


 ギフトを頂いたサポーター様のために書いたものですが、数人しか見ることも出来なかったのと、そろそろ期間も開いたこと、このチャンスを逃すと差し込む所がなくなるという判断で入れました。


 よろしければ、そちらの方ご覧ください。


2部2章、イリア・ノベライツ作の、『王子と制服少女 オープニング』です。


なお、今後アルファポリスにおけるこの手のお知らせは、本文にては控えたいと思っていますので、アルファポリスの本作を登録なさるか、近況ノートがみられるよう、作者フォローなど何らかのつながりを保って頂けると便利だと思われます。


よろしくお願いします




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