決闘のやり直し?

 暗闇ことドンケル先生を筆頭に、レイシアとサチ、ポエムの侍従メイド、それに王子ことアルフレッドが馬車に乗り込もうとしていた。レイシアとアルフレッドは制服。サチとポエムはそれぞれのメイド服を着ていた。


「なんでアルフレッド様がここにいるのよ!」


 レイシアが言うと、暗闇が答えた。


「これは学園内で起こったことです。立会人の私と当事者のレイシア。どちらも当事者ですね。そこに中立的な証言者を入れなければ話し合いにならないでしょう? たまたま観客席に王子がいたのです。証言者としてこれほど最適な人物はいないでしょう。王子も参加したがっていましたし」


「参加したがったのですか!」

「こんな面白いもの、俺にも立ち合わせろ! 大体、他の生徒はお前を見るだけでおびえているんだ。俺が行くしかないだろう。今回は生徒代表としていくんだ。だから制服を着ている。」


 入学式以来の、王子とレイシアの制服コラボ。王子の制服姿はレア中のレア。ある意味危ない組み合わせ?


「そう言う事ですね。ではみなさん、乗り込んでください」


 そうして、馬車は騎士団の訓練所に向かった。



「指導役の上級生が入学したての1年生に決闘を申し込んでボコボコにするとはどういう教育をしているんだね」


 応接室にはムッダーの父パワハーラ・ダメックとムッダー、それと顔の腫れている執事、メイドがいた。


「それを言うなら、元騎士で元師団長が、14歳の生徒に決闘を申し込むということの方が非常識で問題のある行為なのではないのでしょうか。それが無ければレイシア君がムッダー君に決闘を申し込むことも無かったのですから」


 パワハーラは暗闇の声を聞いて、それから顔を覗き込んだ。


「お前は……そうか貴様か。俺は騎士団の人事部長。もちろん騎士団だけでない。軍部ともつながっているし、例えば暗部ともな。私の友人の軍部や暗部の人事部長などからいろいろ聞いているよ。お互い助け合わないといけないからな。政局は繋がっているんだ。確か貴様は閑職に回されたはずだが……。嫌になって教師にでもなったのかい?暗闇君」


 暗闇という言葉だけは、周りに聞こえないように、最後のフレーズは耳元でささやいた。


「その名は出さないで頂きたいものですね」


 暗闇は苦々しい思いを隠しながらにこやかに返答した。


「とにかくだ。決闘は無効だ! 息子の名を傷つけやがって」

「それは不可能かと思われますよ」

「なぜだ!」


「俺が見ていたからだ」

「誰だ、貴様は」


 執事があわてて「アルフレッド王子です」と告げた。


「お、王子? 何故!」

「俺はレイシアと同じ二年生、騎士コースのコーチングスチューデントだ。友が決闘を申し込まれたら見に行くのは当たり前だろう」


「誰が友?」

 レイシアが小首を傾げた。


「旦那様、報告したではありませんか」

「聞いとらん! 大体お前が負けなければよかっただけだ。学生に負けた? 女ごときに負けた? フライパンに負けた? そんな話、そんなヤツの言う事など信用できるか。もういい、お前はクビだ!」


 怒鳴るパワハーラに、執事は清々しい顔で「かしこまりました」と答えた。


「え? あ?」

「では、私はお役御免と言う事でここで失礼させていただきます。今までの御給金と一方的な解約における違約金は並びに退職金に関しましては会計の方と話し合って頂いておきますのでご心配なく」


 あっけにとられるパワハーラを無視し、言いたいことを言って出て行こうとする執事。暗闇が慌てて止める。


「待て、今回の決闘の当事者がいなくなられては困りますね。解雇はご自由にして頂いて構いませんが、この場には立ちあって頂きませんと困りますね」

「では、雇用契約もなくなったことですし、自由に発言させていただきましょう」


「待て! 俺は辞めさせるなど……」

「「「言いました!」」」


 息の合った全員のツッコミが炸裂。


「俺が証人になってやろう。そこの執事はパワハーラ騎士爵からクビを言い渡され一方的に解雇された。このアルフレッド・アール・エルサムの名に懸けて」


 王子の宣言でこの話は終わらざるを得なくなった。


「では、話し合いましょうか」


 暗闇はニヤリと嗤い、執事に話を振った。



 結局、執事との決闘は問題なしそのままの結果が認められた。だが、ムッダーとの決闘に対してはどこまでも平行線。ムッダーは、いくらやめると言っても認められなかったと言い続け、パワハーラはごねまくった。


「では、再戦にするしか仕方がないようですね」


 暗闇が立会人として提案した。


「だが、そちらの生徒とうちの息子では実力差があり過ぎる。無理だ」

「では、あなたが戦ったらいかがですか? パワハーラ・ダメック人事部長」


 暗闇は、パワハーラを指名した。いろいろ恨みもある。この際ボコボコにしてやれ、などとは思っても顔には出さない。


「俺が⁉ 『直撃の黒豹』と呼ばれたこいつを倒した小娘と? 馬鹿な!」

「騎士ですよね」

「事務だ!」


 にらみ合う二人。


「ならば、代理を立てる。代理戦だ。いいな! 俺が勝ったら息子の決闘は無効。酷い二つ名も返上させてもらう」


「私に何のメリットもないんですが」


 レイシアが当たり前のことを言った。


「お前の都合など知らない!」

「でも決闘ですよね。お互い条件が釣り合わなければやる意味ないじゃないですか」


「何でもいい! 金か? 地位か? 言ってみろ!」


 イライラとしているパワハーラにレイシアが言った。


「では、私が勝ったらあなたとの決闘を改めて申し込みましょう。必ず受けて下さいね」


 パワハーラは少し考えてこう言った。


「ならば、三回戦だ。三回のうち、お前らが二勝出来たらその条件を飲もう。それでいいな! それ以外は受けん!」

「受けなければ、息子さんの名誉はそのままですけど」

「とにかく! 三回戦え! それでいいな!」


 強引に勝手なルールを作っては押し通し、パワハーラは代理人の選定のため部屋を出て行った。


「大丈夫なのか? レイシア」


 暗闇が尋ねると、レイシアは暗闇に聞き返した。


「今回は瞬殺していいんですよね」

「ああ。武器の宣言さえすれば飛び道具も可能だ」


「血が流れれば勝ちですよね」

「そうだ。血が流れる。骨折する。気を失う。それと負けを宣言する。それは変わりない」


「でしたら、すぐに終わりますね」


 レイシアは、「だったら着替えなくてもいいか」と制服のまま戦う事に決めた。

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