貴族基礎講座 / ダンス基礎

 火曜日の午前中は貴族コースでの基礎講座から始まった。


「いいか、この授業は王国の歴史、周辺、特に帝国を中心とした世界史、並びに貴族社会の派閥や関係性、そんなことを学ぶ授業だ。だからこの授業自体が、派閥を作り、派閥を超えながら人脈を深めることを目的としている。ここに法衣はいない。だから、成績がよくとも合格証は発行しない。君たちは男女関係なく、また、未来の伴侶を得るために頑張れ。人間関係が作れなければ、貴族として生きていくのは大変だぞ。人脈作りにいそしむ様に」


 教師はそう言うと授業を始めた。


 貴族基礎講座は、1年生(レイシア以外)が貴族同士の社交を覚えるための時間。男女が一緒に時間を過ごすことで繋がりを強化することがメインの時間。そのため、2時間続けて行われる。座学1時間、交流1時間。交流が終わると、そのままランチに行くのがお決まりの時間。

 去年、レイシアがこの授業に出ていたら、王子と一緒に受けることになったので、それはそれでメンドクサイことになっていたことだろう。


 座学がおとなしく終わって、交流の時間となった。


 子供の頃から顔なじみの者たちが、小さなグループを作る。そして、グループごとに交流が始まる。


 グループに入っていない者たち、おもに辺境の下位貴族は同性のクラスメートに口をきいてもらい、異性の貴族に紹介してもらいグループに入れてもらう。初回の大切な時間。


 レイシアは、その輪の中に入れてもらえなかった。また入ろうともしなかった。


 女子だけの授業で引きまくられた前日。奨学生で2年生という話は、オヤマーのお祖母様の息のかかった貴族子女の中から悪意を持って広められる。積極的にいじめるほどの関わりもないのなら、相手にしないのが一番。一応上級生だし。


 そんな状況判断を下した各グループのリーダーが、レイシアを無視する方針にかじを切った。


 レイシア自体も、貴族としてのステイタスアップや仲間作りをする気がないので、机に座ったまま本を読んでいた。


(座っている間、靴脱いだらダメかな。履けなくなると困るよね)


 などとどうでもいいことを考えながら。



 お昼は更衣室でサチとポエムと3人でランチタイム。その後はダンス実技が2時間。ここも男女で行うため、法衣は入れない。法衣は法衣でダンス実技があり、合格した者のみ2年生から混ざることが出来る。1年間は、異性貴族同士の付き合いを強固にしてからでないと、いろいろと問題が起こりかねないから。1年間で貴族としての自覚と立ち位置を作る、そのために男女共同授業は法衣と貴族に分けられている。

 同性間の授業が法衣が混ざるのは、上下間を理解させるためと、法衣にチャンスを与えるため。バランスは大切です。


「とは言っても、ダンスはレベル差が大きいです。1年生ではワルツを踊れるようにしますので、一定の技量のある方は合格をもぎ取って頂いても結構です。この中でも自信のある方はパートナーを作ってテストを受けて頂いても結構ですよ。今さら初歩のステップなんて必要ないという方、今から踊ってください。パートナーがいなければ、私たちがお相手します」


 ダンス教師たちがそう言うと、自信のある伯爵以上の貴族子女がパートナーを組んで中央に躍り出た。伯爵男子の一人だけパートナーにあぶれたので、教師が相手をすることになった。


「では、今からテストを開始する。場合によっては、実力を合わせるためにパートナーをチェンジさせることがあるかもしれないので従うように。そちらに並んでいる者たちは、ダンスの様子をよく見ておくように。いいな。では、音楽を始めて下さい」


 男性教師が楽団に命じた。コントラバスが「ズン・チャッ・チャ ズン・チャッ・チャ」とリズムを刻むと、他の楽器もリズミカルにメロディーを重ねた。


 クルクル回りながらステップを踏む学生たち。途中何組かペアを変えさせられたが、おおむね合格ライン。伯爵男子3名と女子1名以外は合格した。


「では、合格した皆様はおめでとうございます。素晴らしい踊りでしたわ。ここで学ぶのは時間の無駄です。より高度な曲やステップを来年まで家庭教師に教えて頂いておいてくださいね。この時間は他の科目を学ぶか自主学習に当てて下さい」


 女性教師は合格者を褒め、これから習う者たちを中央に集めた。


「女子が1人多いですね。いつもよりは平均的に残ったので誤差ですね」


 そう男性教師と確認した。


「皆さんの中で、ダンスは全くの初心者という者はおりますか?」


 レイシア以下7人が手を上げた。


「正直でよろしい。では、ステップから教えなければいけません。まずは男女ペアになってもらいます」


 先ほど不合格だった伯爵の女子は、もともとペアだった男子と組んだ。残りの2人の伯爵男子2人に女子が群がる。

 2人が好みでパートナーを指名すると、なんとなく爵位ごとにパートナーが決まった。レイシアを残して。


「はい。ではこれから実技を始めるにあたり、我々2人の協力者、コーチングスチューデントを紹介する。コーチングスチューデントとは、才能ある上級生が下級生の授業を手伝う生徒の事だ。2年生の先輩が担当する」


 その声に合わせてドアが開いた。男女2名が入ってくる。


「今年のコーチングスチューデントは、アルフレッドとジャスミンの2人だ。失礼のないようにな」


(((王子いぃぃぃぃぃ???!!!)))


 会場内に緊張が走った。

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