300話 落ち着く場所はやっぱりこっち
靴屋から馬車に乗って、貴族街と平民街を分ける門がある広場まで送られた。
「ここから降りていく方が平和になるよね。馬車はここで待ち合わせることにしていいかな?」
レイシアがポエムに確認した。ポエムもそれを了承した。
「じゃあ、私の貴族コースは月曜日と火曜日だけなので、それ以外は歩いて通いますね」
ポエムが「毎日送ります」と言ったが、レイシアはていねいに断りを入れた。
「残りの曜日は騎士とか冒険者のコースだから。馬車では入れないのよね。それに、皆さんもお仕事があるでしょうし」
「これも仕事です!」
ポエムが言い切った。
「今の私の仕事は、レイシア様が
お祖父様の命令は極端! レイシアに対して、甘やかしたいのだが何も受け取って貰えない事で、何かこじれたのかもしれない。
「とにかく、週に2日だけにして下さい!」
なんとか週2日、貴族街の中で待ち合わせにしてもらい、レイシアはサチと2人で平民街に進んだ。
◇
「ずいぶんおそかったねえ。貴族コースは大変なのかい?」
「あっ、馬車じゃないんだ! てっきり帰りも馬車かと思ったよ」
カンナさんとイリアが帰ってきたレイシアに声をかけた。
「ただいま」
「お帰り! 今日はあたしが料理作ったからさ、着替えてきなよ」
イリアがお皿を並べ始めた。サチはもう帰ったので、レイシアは部屋に行き着替えをして食卓に着いた。
「じゃあお祈りして食べるよ。イリアの料理だ。いつもより落ちるけどね」
「ひどい! カンナさん」
お祈りを終えて食事を始めた。
「そこそこおいしいだろ。あたしだって頑張ってるんだからさ」
「イリアさん。十分おいしいですよ」
「だろ。あたしも今年で卒業だからさ。レイシアの料理見習って覚えておきたいのさ」
「あんた、もう5年生になったんだね。月日の経つのは早いね」
カンナがイリアを見て「ホントに大きくなったもんだね」と感慨深く言った。
「今年は新入生来なかったしね。まあ、レイシアがいるうちは寮は存続すると思うけどね」
「レイシア入んなかったらどうなってたんだろう」
「そうさね。あんたが卒業したら終わっていただろうね。レイシア、イリアが残っていなかったらこの寮なかったんだから。感謝しときなよ」
レイシアは温かいスープを飲みながらイリアを見た。
「イリアさんとカンナさんに会えたの、最高に幸せです」
「そうかい。そう言ってもらえると嬉しいねぇ」
「あたしもレイシアに会えてよかったよ。それでどうだったの? 貴族コースは」
イリアはネタを貰おうと話を変えた。
「足、痛かったです」
「足?」
「靴が合わなくて」
レイシアは、合わない靴を履いて足先が痛くなったこと、貴族とメイドの立ち方の違い、靴屋に行った事などを話した。
「大変だね」
「大変です。イリアさんは書けているんですか?」
「あたし? あたしはそう、今書いているわ」
「どんなお話なんですか?」
レイシアはファン心理として聞いた。
「……(制服少女)ボソッ」
「はい?」
「制服少女」
「またですか! また私をモデルに⁈」
「違わないけど違うの! 去年のとは別シリーズよ。まあ、全然入っていないっていったらウソだけど、設定から変えるから! ヒロインは新入生の男爵令嬢。ほらレイシア子爵でしょ? もちろん貧乏じゃないの。
「そうですね。ドレス一人じゃ着られませんしね」
レイシアは、今日の着替えを思い出しながらしみじみ答えた。
「でしょ! あとはそうね、聖女なの。光の魔法持ちよ。貴族で聖女。ほらここまですればレイシアとは違うでしょ?」
レイシアは、「光魔法できますよ」とイリアに言った。
「ほら、ライトの魔法、あれ光魔法ですよ」
「え? 光魔法って治癒の魔法でしょ? 明るくできるなんて聞いたこともないわよ」
「私の魔法、1属性の方より46656分の1しか威力がないからライト使っても大丈夫なんです。昔、普通の聖女が使って、王族含め何人もが目を潰す事件が起きたらしいの。だから聖女はライトの魔法は使っちゃダメとだけ教えられるらしいわ」
「ふうん。いいこと聞いたわ。ありがと」
そんな話をしていたらカンナが声をかけてきた。
「さ、そろそろ片付けようか。イリアは食器、レイシアはお風呂を入れて。そのまま入っていいから、しっかり脚をほぐしときな。いままでヒールのない靴履いてたんだ。明日は筋肉痛になるよ」
カンナが今までの寮母としての経験からそうアドバイスをした。
「お風呂! そうか、あたしが温かいお風呂に入れるのってあと一年しかないってこと!」
イリアが当たり前の事実に気付いた。
「そうだね、あんた今年で卒業だからね。まあ、あたしはレイシアが卒業するまでは温かいお風呂に入れるけどね」
「カンナさんずるい~!」
カンナは笑いながら「早く片付け」とイリアに言った。
レイシアはお風呂に入って足をほぐしながら、
「やっぱり貴族で集まるより、こういう平民街の感じや田舎暮らしが私にはあっているわ」
とつぶやいた。そして、お湯を温め直すと寝巻に着替えた。
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