閑話 暗闇の暗躍
どうせ俺のことなど忘れられているだろうよ。以前2回ほど出た参謀部の者だ。コードネームは……現在は暗闇と呼ばれている。覚えてない? 本当かい? ……いいんだ。エージェントはむしろそうでなくては。安易に顔や素性を覚えられたら仕事にならない。俺たちは影のもの。悲しくなんかないぞ。影が薄いのは俺としては立場上成功なんだ。泣いてない! こんなことで泣くもんか。
卒業パーティーでレイシアの近状を知って、俺はあせりにあせった。
あんな逸材、俺の手の中に入れておきたいじゃないか。なぜ騎士コースを受けない!
脳筋だらけの魔術師どもめ。利用価値がどこにあるのか分からないのか。
威力が低い? それがどれほど応用力になるのか考えろよ。
団体行動がとれないから向いてないだと? 馬鹿か! ソロで動けるヤツってそれはそれで才能だろう。
なんとかレイシアを引き留めるため、騎士科の講師の席を勝ち取った。せっかくだ。レイシアには今のうちにいろいろ仕込んでおこう。
俺はレイシアの情報を集めた。二つ名が7つもあるのか! 学力・体力・度胸、申し分ない。なに、Cランク冒険者? この若さで。ふむ。お付きのメイドもかなりのやり手。
暗殺者かボディーガード向きだな。
教授会で影響のある金に汚い教授数人に金を握らせ、レイシアに貴族教育を受けさせるように頼んだ。他の教授には、学園長を陥れるのにレイシアを使う事を提案した。ヤツらはすぐに乗って来た。大丈夫か、ここの教授たち。簡単すぎないか?
レイシアに貴族教育を施せば、王女のSPとしてつけることも可能だし、パーティーにもぐりこませることも出来る。SP、スパイ、エージェント、何にせよ貴族でも平民でも振舞えるようになれば選択が広がる。
つながりを持つためには、貴族教育をさせながら騎士コースも選択させること。学園長と冒険者クラスの先生が話しているのを盗み聞いていた時、妙案を思いついた。騎士コースの事務に手を回し、許可を取り付けた。
◇
「レイシアくんだね。初めまして。今年から騎士コースを担当するドンケル・ダークベだ」
「はい? レイシアは私ですが……」
中庭で、図書館に向かうレイシアを呼び止めた。騎士コースに興味ないのがありありと分かる。
「君は去年基礎コース全てでトップの成績だったね。馬の手入れも完璧だったと聞いているよ」
フレンドリーを装い、誉めてみた。
「はあ。馬に関しては王子に負けますが。それに私は成績がカウントされないはずです。トップは王子ですね」
レイシアは面倒くさそうに言った。
「何か御用でしょうか?」
「ああ。君に騎士クラスのコーチングスチューデント、要は補助員をやってもらいたいと思っているんだ」
にこやかな笑顔を崩さぬよう提案した。レイシアの興味はどこだ? 知識と金。それも報奨金でない、自分で稼げる金。特許に並々ならぬ興味を示しているのは情報として持っている。
「補助員なら、冒険者コースで間に合っています」
ここでおすんだ! レイシアのウイークポイント、それは金の匂い! まずは現状を確認させよう。
「それだ! 君は冒険者コースで補助員をする代わりに、いろいろと恩恵を受けたね。図書館使用の制限の解除とか」
「はい」
「あれはね、成績優秀者であれば当たり前に該当するものなのだよ。元もと君に与えられるべき報酬なのだが、君が奨学生、しかも王子より成績が良かったために起きたエラーで与えられなかっただけのものだ。元々あった権利を回復させただけなんだよね」
「はあ。そうなんですね」
さあ、交渉開始だ。
「僕からの報酬はもっと特別なものだ。僕はね、君をとても高く買っているんだ。もし受けてくれるなら、君だけに特別、軍の所有している魔道具を見せてあげることが出来るのだが」
「魔道具? ですか」
食いつきそうな感触が来た。魔道具と言っても聞いたことがなかろう。
「そう。魔物を倒すと魔石が出るだろう? あれ、宝石として流通しているんじゃない。でも、あの中には魔法の元みたいなものが入っていることが分かってきてね。魔導具はその魔石に込められたエネルギーを魔法に変える道具。実用化できないか実験をしている者たちがいるんだ」
「聞いたことがありません」
「そうだろうな。この価値が分かるものは少ない。少なくとも君くらいの学と好奇心と実力がある者でなければな。僕は軍部にも顔が聞くんだ。この間、軍部でひとつ試験的に購入したのだが……。どうだい? 興味ない?」
レイシアは、聞いたこともない魔道具という響きに興味を持ったようだ。
「魔法を使う道具、ですか・」
「そう、正しくは魔法を出すための道具。魔法を使えない人にも魔法が使えるようになる道具さ」
「それは、便利そうですね!」
かかった!
「そう言ったものを研究しているヤツらがいるんだよ。いくつか軍で保持しているものがある。手伝ってもらえるなら見せてあげることが出来るんだけど」
「やります! 見せて下さい」
思った通りの反応が来た。すぐに見せることも出来るが、少しじらした方がよいかな?
「ああ。すぐにとはいかないけれど、君の働きを報告しながら見ることができるようにするから、補助員真面目にがんばってね」
「はい!」
そうして、俺はレイシアに騎士コースの補助員をさせることを約束させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます