お祖父様との会合
「なんで……」
呆然としたレイシアに職員は答えた。
「冒険者ギルドからの入金がほとんどですね」
レイシアたちは、普段使い出来る程度の金額の獲物を売った時には、銅貨や小銀貨を貰っていたのだが、大物の時は現金で貰わずにギルドカードに入れて貰っていた。大体の冒険者はそうしている。大金を持ち歩いても危険なだけだから。特に生活費に困っている訳でもなく、新鮮な食材確保、害獣退治、腕試し、修練、などの目的で余った獣を売りさばいた結果、ギルドカードを手に入れたこの9ヶ月程度で恐ろしい程の利益を上げていた。
もし、クマデで狩ったシルバーウルフや他の大物を売っていたら、こんなものではないのだが……。
レイシアは「あわあわわ……」と声が出なかったが、なんとかサチに冒険者ギルドカードの残金を確認させた。
401万4800リーフ。金貨40枚相当。
レイシアほど狩りに出ている訳ではないが、レイシアと一緒に移動しながら狩りをしている時は、ギルドへの売り上げを折半していた。その他にも、王都へ来てからのメイドの給料。実はターナー式メイド術の相伝者となってからは給金が倍になっていた。だが、特に使うこともないので、見えない金は気にしていなかった。黒猫甘味堂のバイト代も少々入っている。特にメイド喫茶を立ち上げる時の指導料はそれなりにあった。
「外、行きましょうか、レイシア様」
「そうね。出ましょう」
ぎくしゃくとしながらギルドを出る2人。もうこのまま寮に帰りたくなっていた。
そこに、ポエムが現れた。
「レイシア様。旦那様とのお約束の時間が近づいてまいりました。他にご予定がなければご案内いたしますが」
「「うひゃあ」」
レイシアとサチは虚を突かれて驚いた。ポエムが見張っているのは日常茶飯事なのに。それほど金額の多さに動揺していたようだ。
「あ、あの。今日はサチも一緒でいいですか?」
レイシアはポエムに聞いた。動揺しているサチを放っておくのが心苦しかったから。
「サチ様もですか? それでしたら私も混ざりましょうか。店に連絡。2人追加。旦那様にもお知らせを!」
ポエムは部下に指示を出した。
◇
「今日はどうしたレイシア。何かあったのか?」
レストランの個室。お祖父様、オズワルド・オヤマーは、サチを連れてきたレイシアに普段と違う雰囲気を感じていた。
「私、なぜか貴族コースを受けることになりまして。全然分からないんですよ。なんで貴族コースを受けることになったのか。お祖父様、なにか致しました?」
お祖父様は、レイシアを見て言った。
「ああ。以前学園長に頼んだが、お前は断ったと聞いたよ。まあ、知り合いの教授は議題に上げると言っていたのだが。しかしだ。儂の力だけでは通らなかっただろうよ。まあ、お前に関してはいろいろな方面から注目されているようだな」
「私が注目されているのですか? なぜ?」
「さあな。お前だけでもなく学園長に嫌がらせをしたいという勢力もあるようだ。まあ分かっていることを教えよう」
「はい」
「一つは儂がお前に貴族コースを取らせたいと思っている。よければ授業料を肩代わりして普通の生徒として通ってほしいと思っているんだがな」
「それは、お断りしたはずです」
お祖父様は苦笑いをしながら続けた。
「ああ。まあ気が変わったら相談してくれ。次に王子に近い者たちだ」
「王子ですか?」
レイシアは、昼間の王子を思い出した。
「ああ、今のお前の成績が問題だ。表に出ないとはいえ全てにおいて学年1位。目障りと思っている勢力がいるんだ。お前の苦手としている授業を受けさせて平均点を下げたいと思っている勢力がいるんだ」
「はあ? なんですかそれ。そんなことしても王子の成績は変わりませんよね」
「評価は絶対評価と相対評価がある。後は学園長と対立しているグループだな」
「は? それこそ私関係ありませんよね」
「学園長は改革派だ。保守派の勢力からは若造が勝手に変えようとしていると不満だらけだ」
「はあ」
なんとなく不満げなレイシア。
「気づいていないのか? 学園長室に頻繁に行き話をしているお前が、外からは学園長の秘蔵っ子に見えていることを」
「えっ?」
「普通の学生は学園長室に入らないんだレイシア。それに、学園長もお前の事を利用しようとしている。やたらレポートを求められているだろう」
「はい」
「お前の成績を落とすことで学園長の足を引っ張ろうとしているんだ。お前の成績を落とすことで利用価値を下げたいんだな。お前が奨学生で使えるお金がないのを知っているんだろう」
「学園長に私が巻き込まれているのですか?」
「そうなるな。あとは騎士の方で動きがあるようだが、どういうラインか儂には分からん。他にもあるかもしれんが、好意と敵意が、いやむしろお前に対する足の引っ張りがこの結果になっているようだ。まあ、儂としてはお前が貴族コースを受けるのは楽しみなのだがな」
レイシアは「はぁ」とため息をついた。
「私、成績とかどうでもいいのに」
「それだけ目立っているんだ。自覚しなさい」
レイシアはもう一度、今度は大きくため息をついた。
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