ネタ提供よろしく

「それでドレスを借りることは出来るのかい?」


 夕食をとりながら、カンナが聞いてきた。


「ドレスの貸し出しはないそうです」

「どうするんだい?」

「困っています」


 するとイリアがとっておきの情報を教えた。


「お金のない男爵家の生徒が通っている古着屋があってさ、そこでパーティーがあるたび、古いドレスを買っては、終わった後同じ店に売るみたいよ」

「そうなんですか?」


「うん。買値の3割くらいでしか売れないらしいけど、買っても売ったら、新しく作るより3割程度ですむみたいだね」


 成長期の子供のドレスは作っても次のシーズンには着ることが出来なくなる。また、上流になればなるほど、パーティーでドレスの着回しなど出来なくなる。下級貧乏貴族にとってはありがたい制度だ。ようは買い取り可のレンタル業なのだが、どんな状態でドレスが帰ってくるか分からないため一度購入してもらう事になる。だから借りた者は、パーティーでも汚さないように気を遣う事になる。


「それいいですね」

「いいのかなあ? 古着だから流行遅れになるらしいけど。男爵だからまだ許されるって話みたいだよ」


「私は奨学生なので、男爵以下の立場でいいんじゃないかな?」


「そんなもんなの? じゃあお店の場所後で教えるね。お風呂入ったらレイシアの部屋に行くよ」

「はい! 待っています」


 そんな会話を聞いたカンナは、イリアに


「だったら片付けはいいから、早くお風呂に入っておいで。ほら、レイシアお湯入れておいで」


 と珍しく片付けをしなくてよいと言って食事の終わりを告げた。



 イリアがお風呂に入っている間、カンナは片づけをしながらレイシアに言った。


「イリアはあんたのためにいろいろ聞きまくっていたみだいだよ」

「そうなんですか?」

「ああ。お礼くらい言ってやりな。まあ、あんたならあたしが言わなくてもお礼くらい言うだろうがね」

「はい。いつもイリアさんには感謝しています」


 カンナは笑顔でレイシアを見つめた。


「あんたはそのまま真っすぐ成長するといいんだがねえ。あんたが貴族教育を受けるのかい。そんなこと必要ないだろうに」


 カンナの顔が真面目になった。


「いいかい、貴族になる気がないのなら手を抜くのもありだよ。人生に必要のない授業は成績が悪くても、身に着かなくてもいいんだからね」


「はあ。とにかくやれるだけ頑張って見ます」

「ああ。ほどほどに頑張りな」


「あがったよ~」


 イリアの声が響いた。


「さ、あんたも風呂に入っておいで」

「はい」


 レイシアは着替えを取りに部屋に向かった。



 レイシアの部屋に入ったイリアは、部屋が光球で明るい状態にため息をついた。


「相変わらずすごい魔法ね。分っちゃいるけどうらやましいわ。その魔法があれば執筆が楽になるのに」


 ため息をついたイリアを見てレイシアは聞いた。


「煮詰まっているんですか?」

「行き詰ってるよ、レイシア。いや、煮詰めるほど材料がないの」

「はあ」


 イリアは勧められたイスに座って、レイシアにメモを手渡した。


「はいこれ。古着屋の住所と店名よ。よかったら使って」

「ありがとうございます。カンナさんに聞きました。私のために調べて下さったんですよね」

「なんだ、カンナさん言わなくていいのに」

「本当にありがとうございます」


 レイシアはクッキーとお茶をだしてイリアをもてなした。


「あっ、このクッキーおいしいやつじゃん。いいの?」

「手作りですから、原材料費は安いんですよ」

「そこがいいんじゃん。いただきます」

「この程度でお礼になるかどうか」


 2人はクッキーを食べながら話し始めた。


「じゃあなんだ、お礼代わりにネタの提供してもらおうか」

「ネタですか?」

「ああ、今日テストだったんでしょ? 王子と2人で。その状況を詳しく教えて」

「はあ。特に面白くもないと思いますが」

「いいから」


 レイシアはイリアに語った。王子と勝負になったこと。テストの時間が短縮され全部終わったこと。ラノベの話をしたこと。お昼に一緒に食事をしたこと。結局王子の凡ミスでレイシアが勝ったこと。2人とも合格したこと。


「……何が特に面白くもない話だって? 最高じゃん!」

「そうですか? 王子といるといつもそんな感じですよ。普通ですよね」

「普通じゃない! 普通は話すらしない!」


 イリアはすかさずツッコんだが、レイシアには理解されない。


「そうなんですか? あっ」

「何?」

「王子から、『王子でなくアルフレッドと呼べ』と言われました」

「まさかの名前呼び⁉」


「まあ、そう会うこともなくなるのでアルフレッド様と呼ぶことになりました」

「そこのとこ、詳しく!」


 レイシアは、「大したことないですよ」と言いながら話した。


「これよ、これだわ! やっぱりあんた最高ね」

「はあ」

「また王子情報があったら教えてね」

「じゃあ、明日もですね?」

「は? テスト終わって明日は何もしないんじゃないの?」


「はい。だから王子が『明日はラノベの棚を教えろ』と帰りがけに言われまして。私もどうせ図書館に行くつもりでしたので、会うことになりました」

「それって図書館デート!」


 イリアの目が輝いた。


「案内です。司書に聞けばいいのにと言ったのですが、ラノベを読むのを禁じられているらしく、司書にも知られないように読みたいとのことでしたので、まあついでに教えればいいかと」

「いや、これはデートよ! デートと言う事にしておきなさい! 私にネタを!」

「嫌ですよ。案内だけです」


「そうね。いいわ案内だけで。どうせあんた達いろいろやらかすだろうから。報告よろしくね」

「はあ。まあいいですけど……」


 納得いかない感じで、レイシアは答えた。


 イリアとレイシアの話はまだまだ続く。

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