学園長からの提案
落ち込んでいる王子は放っておくしかない。レイシアはシャルドネ先生に言われた通り、学園長室へ向かった。
◇
「あれ、ククリさんとルルさん! なんで学園長室に? 本当に先生になられたのですか?」
学園長室には、学園長、シャルドネ、そしてククリとルルがいた。学園長は驚いた顔をしているレイシアを見てこう言った。
「本当に知り合いのようだな、ククリ先生。ならば、先日報告にあった事は本当の事なのだな」
「はい。この冬の出来事です。レイシアは非常に活躍してくれました」
ククリは学園長にクマデ村の一件を、とにかく軽く簡単に、ヤバいところはとことん隠しながら報告をしていた。非常にククリとルルにとっては薄い話をしたつもりだったが、学園長にはそれでも刺激が強すぎたようだ。
学園長は、話を思い出しながらもレイシアを見ては、こんな小さな子が本当に彼らが話したようなことをしたのだろうかと改めて疑問に思った。なんだかんだ授業の報告は聞いていても、実際の授業風景は見ていなかったのだから。それでも、用意している話を進めた。
「レイシア。君に提案がある。彼らからの要望なのだが、1年生の冒険者コースの補助員とならないか?」
「はい? 補助員ですか?」
「ああ。君は冒険者コースの基礎単位はもう取っている。さらに冒険者もCランクだ。学園のシステムに、才能優秀なものが下級生の指導をすることが出来る『コーチングスチューデント』という制度があるんだ。主に貴族コースで、上級生と下級生の仲を取り持ち深めるためのものなのだが」
「はあ」
「受けてもらうと様々なメリットがある。まずは成績の加点。学園内外での評価の上昇」
「どれも私には関係ないですよね」
奨学生であることと、王子が同年にいることで評価から外されているレイシア。故にレイシア的にはどうでもいいのだが、学園長としては教授会の決定に不満を持っていることは確か。そこで、学園長は特別な報酬を教授会に認めさせていた。
「そうだな。奨学生だとそうなるな」
「はい」
「だから君には他のメリットを用意することにした。1つは図書室の重要書類の閲覧条件の解放。いつでも好きな資料を読む権利が与えられる。もちろん学生の間だけだが地下に入ることができるぞ」
「本当ですか!」
地下は基本的には教授たちのためのスペース。その資料を学生が借りるためには、いろいろと制約が大きい。もっとも、一般の生徒は1階の本すら読まない者も多いのだが。
「ああ。それと施設利用の優先権を上げる。研究者になるなら、上げられるだけ上げていた方がいい。研究がしやすくなるぞ」
「そうですか? 私はまだ専攻がきまっていないので」
「ならば上げておけ。可能性に投資しないのはもったいないぞ」
「投資ですか。そうですね! 投資は大切です」
レイシアは投資という言葉に反応した。貧乏と神父の教育、お祖父様の教えが、レイシアを商人志向にしていたのだった。そこにククリが被せて言った。
「それに、俺の手伝いなら自然にお前と関係していても不自然にならない。お前をフォローするためには受けて貰わないと難しくなるんだ」
「そうよ。女同士にしか相談できない事もでてくるしね」
ルルがニコッと笑いながら言った。
「分りました。冒険者コースの補助員、
「そうか。よかった。では君たちはここまでだ。これからレイシアと別の話があるので下がってくれ」
「ああ。分かった。行くぞルル」
「レイシア、よろしくね」
そう言いながら、ククリとルルは部屋を出て行った。
◇
「それで、相談したいことがあるというのは何かな?」
学園長は、レイシアに尋ねた。レイシアから相談したいという話は2日前に来ていたのだが、入学式やそれに伴うパーティーなど雑務に忙しかったため、待たせることになったのだ。
「はい。貴族コースについて相談したいことがあるのですが」
「何でしょう」
「まず、貴族コースのイメージが全くないんです。それと、貴族コースになると私服のドレスが必要と伺いましたが、私ドレスを持っていないんです。学園に入ってからは一着も作っていないですし。簡単な私服で過ごしてきたので。ドレス、制服みたいにお借りすることは出来ないのでしょうか」
「貴族コースか。女性のコースは女性から説明を受けるといいだろう。シャルドネ先生、説明を」
学園長はシャルドネに話を振った。制度と実感は違うもの。とはいえ、貴族としてより研究者としての色が濃いシャルドネ。簡単な話しか出来ない。
「私か? そうですね。いい、レイシア。女性の貴族コースは基本的に社交界にデビューすることを目標にカリキュラムが出来ています。1~2年生ではそのための基礎を学ぶ事になります」
「はい」
「座学では、場所、季節などに対応する衣装の選びかた。宝石、貴金属、装身具の基礎知識。会話術。こういったものを学ぶの。TPOに合わせるための基礎知識は必要よ。実技では、パーティー基礎。これはお茶会、ホームパーティーから、正式な夜会までを実戦形式で学ぶ授業よ。休日に、ホスト、ホステスとしてお茶会を開くことも必要になってくるわ。ドレスが必要なのは実践授業があるからだわ。お茶会やパーティー、学園に入る前に何度か経験しているでしょう?」
パーティーの実践授業。レイシアは『お帰りなさい、お母様パーティー』を思い出した。楽しかったパーティー。でも、あのパーティーはラノベから読み取った知識で行った想像上のもの。本物は違うのだろうなと思いながらも、パーティーの様子が分からない。そういえば、お祖父様の所でも一度出席したことを思い出したが、あの時はよく分からないまま終わっていた。
「私、パーティーにもお茶会にもまともに参加したことがないのですが」
「「は?」」
2人は困惑した。派閥を意識させるために、10歳になったらお茶会から始め、それなりのパーティーに連れて行くのはどんな田舎貴族であっても常識のはず。
オヤマーのお祖母様がレイシアを呼んで淑女教育を行ったのは、入学までに何度かパーティーを経験させてあげたいという貴族女性としてはまっとうな考えと、アリシアの娘が貴族としての常識を持ってもらいたいという孫へのいくばくかの愛情からの行動だったのだ。
「パーティーに出たことがない?」
「はい。あ、正確には一度だけ。11歳の時にオヤマー家で経験しましたが、それ以来オヤマーとは疎遠になってしまいました」
「母方がオヤマー? ああ、駆け落ちしたあの子ね。なるほど」
クリフトとアリシアの話は、当時社交界の格好の
「ターナー領の派閥はどうしたの? 確か中立派のはずよね」
「あまり他の領とは関係していませんでしたし、災害で母が亡くなってからは切られたみたいです」
代々、中央とは関係の薄いターナー領の気質。田舎にこもっているのが好きな血筋だった。
「お母様の件でオヤマーに気を使ったら、たいていの貴族はターナーの方を切りますよね」
あっさりと言うレイシアを見て、学園長もシャルドネもレイシアの貴族としての危機意識の無さに呆然とした。
「そうですか。レイシア、私は学園長として教授会の意見で君に貴族コースを受けさせなければいけなくなったことを心苦しく思っていたのですが、結果的にこうなってよかったと今思えました」
学園長が、真剣な目でレイシアをみた。
「君の行動が、ターナー領の全てだとは思いませんが……、君には弟がいますよね。領主候補の」
「はい!」
「弟に同じ
学園長は強い口調でレイシアに命じた。
………………………………………………
連休中、更新頻度下がるかもしれません。 忙しいのね、と思ってください。
第一章長くなりそうなので、章のタイトル変えて分割します。第一章は「前期授業」から「2年生の授業登録」になります。まもなく第一章が終わって閑話を挟みたいと思っています。以上の点、よろしくお願いします。
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