実力テスト終了
「アルフレッド、もういいか?」
王子がうなずくと、シャルドネは解答用紙を回収した。
「では、ここで丸を付けてしまおう。2枚だけだしすぐに終わるわ。それまでアルフレッド、レイシアに貴族コースの事をレクチャーしておいてね」
シャルドネは、大した説明もせずに王子に頼んだ。しかし、王子としてはどういうことだか分からない。
「何をしろと言うのですか? レイシアに貴族コースとは?」
あれだけ平民になると言いながら、破格の戦闘能力を見せつけられている王子にとっては、レイシアと貴族コースと言うのが結びつかなかった。
王子としては、(いや、前に厩舎でそんな話はされた覚えがあるが、本当だったのか! いや、無理だろ! だって学費入れていないのに! あの時、適当にいい人ぶって助けてやることもあるかもとか言ってなかったか?) と混乱するしかなかった。
「私、今年は貴族コースを受けなくてはいけなくなったのです」
「何で⁉」
「奨学生なので」
王子は、去年の貴族クラスの顛末を思い出していた。
「奨学生って、貴族コース取れないんじゃなかったか?」
「それが、座学全般と平民お仕事コースを全て取ってしまったため、騎士コース以外ではもう貴族コースしか残っていないらしく」
「なら騎士コースを取ろう!」
レイシアが騎士コースを取らないと知ってがっかりしていた王子は、間髪入れずに騎士コースを受けるように押した。しかしレイシアは首を振った。
「真面目に騎士を目指している人に失礼です。騎士になる気はないので」
「そうか。確かにお前が無双するのは他の生徒に迷惑かもしれないな」
護衛対象の王子が無双する騎士コースも、それはそれでどうかしているのだが。
「とにかく、今年はゼミにも入れないので、貴族コースを取るしかないんです」
その言葉を理解した王子から、地の底から沸き上がるような「フフフフフ」という
「そうか。やっとこちら側のフィールドに立ったか。騎士コースは確かに俺の居場所とは言えなかったな」
別に騎士コースはレイシアの居場所でもないのだが。
「貴族同士が、貴族コースで覇権を取り合う。これこそ当たり前の勝負。レイシア、こちらでは俺は負けない!」
よほどレイシアに勝てないことがプレッシャーになっていたのか、王子のテンションが上がりまくっている。そう。常に1番を求められている王子の普段からのプレッシャーは半端のないものだった。特に生徒会長である姉からのチクチクした嫌味には、事実であるがために言い訳が通用しなかったのだ。
「ふはははは、これで勝てる……」
「アルフレッド、落ち着こうか」
採点を終えたシャルドネが止めに入った。
「あなた、このテストで勝つ気じゃなかったの? 2人だけの誰にも邪魔をされない勝負。それが今回のテストだったのでは?」
シャルドネの言葉に我に返る王子。
「そうだ。俺はどうしたというんだ。今まさに戦いが終わったばかりだというのに」
冷静になり少し落ち込んでいる王子を見て、シャルドネは「よし」とうなずいた。
「そう。それでいいわ。それに、レイシアが受けるのは新入生と同じクラスになります。基礎が出来ていないのに2年生のクラスで授業など受けられるわけがないではありませんか」
そう。またしても王子はレイシアと一緒に学ぶ事は出来ないのだった。
「おまけに、男子と女子は受ける授業も違うじゃない。一緒なのはダンスとパーティーの実技くらいじゃない?」
貴族にとって男性と女性では求められている
その基礎と人間関係を作りだせるのが貴族コースの大きな意義。
そのため、2年生から貴族コースに参入しても、出来上がった派閥に受け入れられることはむずかしい事になる。何も分からない1年生に混ぜるのが手っ取り早かったりする。
「そうだ。貴族コースでレイシアと競ったところで、俺の魂の渇きが
別にレイシアは戦う気もないないのだが、王子の迫力に負け、「はあ」とだけ答えてみた。
「じゃあ答案を返します。アルフレッド。レイシア。おめでとう、2人とも合格よ。どちらが勝ったかは2人で確認すればいいわ。それから、今後の事もあるので、レイシアは30分以内に学園長室に来ること。いいわね」
「はい」
シャルドネは答案をまとめて返すと、イスに腰掛け2人を眺めていた。
王子はレイシアに言った。
「さあ勝負だ!」
「勝負、しなくてもよくないですか?」
「いや、やる。国語100点」
「はあ。私も満点です」
「算数、100点」
「私も100点ですね」
「さすがだな、レイシア。地理100点だ。どうだ!」
「満点です」
「歴史……98点」
「100点ですね」
「まだまだ! 合計点の勝負だ。 科学……98点」
「……ごめん。満点ですね」
「あやまるな。こちらがつらい」
「なんかごめんね」
座って見ていたシャルドネが言った。
「アルフレッド。午前中は良かったんだが、午後から姿勢が崩れていたな。間違えた所は簡単な問題で
「…………おまえのせいか……」
王子はレイシアを見て悔しそうに言った。食事が美味しすぎた。しかし、レイシアの作った食事が2度と食べられない、そのショックに集中力が一瞬抜け、ケアレスミスをしたのか? まさか。しかし……。
「私のせいじゃ……ないと思うよ」
レイシアはそう言ったのだが、王子からすればそれが真実であり、結局全て満点を取っていたとしても、引き分けまでしか出来ない事実に肩を落とした。
(やはり王子には食べ物を与えちゃダメなのね。まあ会うこともほとんどないみたいだから大丈夫だと思うけど。そう。王子に食べ物は与えない! 心に刻んでおきましょう)
レイシアは、どうでもいい決意を胸に刻んだ。
王子はこうして、レイシアのご飯を食べることが出来る可能性を自ら潰していったのだった。
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