Aクラスの実力テスト

 2年生最初の授業。それはクラス分けのための実力テスト。クラス分けのためなら、1年の最後にやればいいのにと思いがちだが、長期の休みの間は、真面目に学習する者と遊びほうける者がいる。出来ない者に自覚をうながすためには、学期の初めにテストをする方がよいという配慮からこうなった。

 テストは前年のクラス単位で行われ、内容もクラスに応じたレベルになっている。


「と言う訳で、Aクラスはアルフレッドとレイシアの2人だ。問題はかなり難しくしているがあなた達なら大丈夫でしょう? 90点以上だったら修了書渡すから、絶対合格すること。私の研究時間確保のためにね」


 シャルドネは自分が授業を持ちたくないのかそう言った。


「今回は手を抜かない。今度こそ勝つ!」


 アルフレッド王子はレイシアを指差して言った。


「前回は手を抜いたのですか?」

「ああ。だが今回は違う。全力でお前を倒す!」

「はあ。頑張ってください」


 王子は本気でレイシアに挑んでいた。しかし、レイシアは勝とうが負けようがどうでもいい。まったくと言っていいほど相手にしていなかった。


「うっ、くっ!」っと、息を詰まらせる王子。レイシアの態度にすでに敗北を感じていた。

 レイシアに勝ちたい、そう意識しているのに、当のレイシアは王子の事など眼中にない。そんな状況でレイシアに張り合おうという王子が痛々しく見える。仕方ないよね。14歳男子だから。そして相手がレイシアだから。


 そんな2人をあきれたように眺めていたシャルドネは、黙ってテストの用紙を配った。



「2人共、書き終わったみたいだからそこまで」


 一教科目の国語、残り時間の半分をすぎる前にシャルドネはテストの終了を告げた。


「どういうことですか、先生! まだ時間残っています」


 王子が声を上げると、シャルドネは


「あなたはもう書くことがないでしょう? それに……」

「それに?」

「これ以上時間があったら、レイシアが余計なこと書いてプラス点があがるのよ。去年、それで教授会がめたんだから。 あなたも、勝ちたいなら同じ条件じゃないと勝てないでしょ?」


 レイシアが、答案用紙の裏にことわざの原文が聖書におけるどの箇所のものか、など豆知識を書き出していた。


「レイシア、おしまい」


 シャルドネは素早く用紙を回収した。


「早く終わって、明日の分のテストもやってしまうわよ。そうしたら、明日のテスト時間あなた達は自由時間になるわ。わたしにもあなた達にもメリットしかないからそうしましょう。じゃあ15分休憩したら算数のテスト始めるよ」


 と、勝手にスケジュールを変えると、テスト用紙を持って出ていった。


「…………」


 2人残された教室。間が持たない……。


「お、お前さ」

「何?」

「お、おう……。ラノベ好きなのか?」


 …………言いたいことはたくさんあったはずなのに、なぜかラノベの話題を振ってしまった王子。


「ラノベ、いいですよね」


 ラノベ歴7年のレイシア。母親の血を継いだのかラノベに対しての愛が深い。まだ薄い本にはたどり着いていないが……。

 王子のラノベ話題のチョイスは、レイシアにヒットしていた。


「どんな本読んでいるんですか? 男性ですから恋愛とかじゃないですよね。オレって強すぎイイイイイイイイイイイイーシリーズとか? 追放物とか? もしかしてスローライフ……」


「いや、昔読んで感動したんだが、家庭教師共に取り上げられたしまってな。それ以来読む機会がないんだ。読んでみたいものだが」

「読めますよ」

「え?」


 事もなげに言うレイシア。


「学校の図書館。奥の隅の方にひっそりとラノベの棚があります。王子も学生ですから誰にも邪魔されず読むことが出来ますよ」


 王子は予想外の話に目を見開いた。


「なんだと! ラノベが図書館に! なるほど盲点だった。ならば気づかれないように探してみるか」


 王子の表情に、ラノベ愛を感じたレイシア。「よかったですね」と返事を返した。


「ありがとう。それからレイシア。俺の事を王子と呼ぶのは止めてくれ。アルフレッドと呼べ」


「はあ。何でもいいですけど。ではアルフレッド様」

「ああ」

「まあ、今後会うこともないでしょうが、よろしくお願いいたします」


 レイシアは、自然な感じで失礼な挨拶をした。


「なんで会わない前提?」

「いや、2人とも基礎講座は合格するでしょうし、もう騎士コースで会うことも厩舎で会うこともないでしょうから。現実的に接点ないですよね」


 レイシアは淡々と言った。


「まあ、そうだが……」

「ああ、図書館で会うことはあるかもしれませんね。でも図書館ですから話はしないですよね」


 王子はレイシアを見ながら、自分に近づこうとしない女生徒が存在していることを不思議に感じていた。


 シャルドネが帰って来て話は終わった。次の試験が始まる。2人は黙って席に着いた。

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