仲良しなサチとイリア
黒猫甘味堂でお嬢様方の刺さるような視線を浴びたレイシアは、良く分からない緊張で疲労感を覚えていた。
「なんなの? お茶飲んでいるだけなのになんで疲れるの? これなら働いている方が疲れないのでは?」
そんなことをつぶやきながら、寮まで歩いて帰った。
◇
「カンナさん、ただいま」
「おや、遅かったね。夕飯は出来ているよ。早く着替えておいで」
「ありがとうございます」
レイシアが着替えて食堂に行くと、イリアとサチは先にテーブルへ着いていた。
「お帰りなさい。レイシア様」
「お帰り、レイシア。大丈夫だった?」
2人がそれぞれ声をかけた。イリアもサチも、レイシアが先に帰ってると思っていたから心配していたのだ。まあ、トラブルに巻き込まれても無事に勝ち抜けることは知ってはいるのだが。
「ごめんなさい遅くなって。それからサチ、仕事は終わり。もうレイでいいよ」
「わかった。レイ」
サチが普段の下町言葉に戻した。
「はいはい、いいから。あんたたち、早く食べるよ」
「「「は~い」」」
全員で祈りの言葉を唱え、食事を始めた。
「遅かったね。学校から帰った後なにしてたのさ。疲れてたみたいだからすぐ寮に帰ったかと思ってたよ」
「あの後ですか? 刃物屋さんに行ったり、以前のバイト先を巡っていました」
「そうそう。あたしの借りてる部屋の喫茶店に来たんだけど、いろいろあって先にかえったのよ。あの時はごめんね」
「何? 何があったの? 小説のネタプリーズ!」
「いやいや、あたしの話なんか大したことないから!」
イリアとサチは、プライベートでは下町言葉で話すほど仲が良かった。
「いつの間にサチとイリアさんはそんなに打ち解けているのですか」
レイシアはなんとなく嫉妬していた。大好きな2人が仲が良いのは嬉しいんだけど、サチもイリアさんもレイシアに対する態度よりざっくばらんな感じが自分に対する対応と違う事に疎外感を感じていたのかもしれない。
「え~。気にしすぎなんじゃない?」
イリアがスープを飲みながらそう言った。
「そんなことないよ。2人とも私より話している時楽しそうにみえるの」
「そうかな〜」
「そんなことないと思うよ」
「「ね〜」」
「ほら息ぴったり」
「そうだね~、あたしは小説のネタを仕込むためよく話をしてるからかな」
「そだね、レイのちっこい時の話とか」
「面白いよね、教会での話とか」
「いやホント、変だったからねレイは」
「大変だったね、サチ」
「うん、本当に」
「2人して、何話してるのよ!」
レイシアがむっとして言うとカンナが口をはさんだ。
「まあ、イリアとサチは年も近いし気が合うんだろう。イリアは学園じゃ下町言葉使えないし。サチもこっちにあんまり知り合いがいないんじゃないの?」
レイシアは、2人の体型と自分の胸を見比べた。大人として成長している二人に比べて、まだまだ子供体形な自分にため息が漏れた。
「う〜、年齢はしょうがないけど、下町言葉なら私だって」
「「「あんたのは、特殊すぎ!!!」」」
「レイ、調理人モードの言葉づかいは、残念だけど下町女子の言葉づかいじゃないからね!」
「ってゆうか、ならず者の言葉に近いっていつも言ってるじゃん。教えているのに抜けないよね、それ」
「そうなんだよねぇ。あたしが朝市に連れて行っても怖がられてねぇ。ほんとに……」
3人は「「「はー」」」とため息をついた。話を替えなければ! レイシアは必死に話題を探した。
「そうだ、カンナさん。ドレスって制服みたいに貸し出しありますか?」
カンナは、肩をすくめて言った。
「ああ、イリアに聞いたけど、ここは平民になるための寮だ。平民にお貴族様のドレスは必要ないからねぇ。残念だけどここにはないね。まあ、教師からでも聞いてみたらいいさ」
そもそも奨学生が貴族コースを取ること自体想定外だし、平民街に存在しているオンボロ寮にドレスなど置いているはずもない。考えれば分かることだった。
「そうですね。じゃあ学園長にでも聞いてみます」
「「いきなり学園長⁈」」
イリアとカンナは声を上げた。
「だって、貴族コースを取るように言ったのは学園長ですし、貴族コースの先生は知らないですから。イリアさん、貴族コースの先生知っています?」
「知らないよ。名前ぐらいしか」
「ですよね」
イリアにもカンナにもどうすることが出来ない。仕方がないので全員、考えるのはお終いにすることにした。
「じゃあこの話は終わり。食事もすんだみたいだし片付けるよ。レイシアは風呂を入れておくれ。サチ、あんたも入っていくだろう、お風呂」
「ありがとうございます」
「じゃあ片付けだ。食事を終えるよ」
「「「ごちそうさまでした」」」
そうして、今日の夕食の時間は終わった。
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