衣装チェック

 片付けを終えたレイシアは、イリアに会うため図書館に向かった。入学式当日の図書館は来るものもおらずガランとしていた。図書館をほぼ独占しているようなイリアは、プロット作りに夢中だった。


(庶民派の王子か。それも萌えポイントかも。自ら馬小屋の掃除……いやダメね。図書館で本の整理とかキレイなビジュアルになる方がいいかも)


 リアルな王子が馬小屋で馬糞を取り除いている。面白いが絵にならない。というかリアリティなさすぎ。いや、そっちがリアルなんだけど、などと失礼なことを思いながらも、新しいアイデアが出まくっていた。


「やっぱりモデルの観察は重要ね」


 そうつぶやいた時、レイシアが目の前に来た。


「モデルってなんですか」

「うわっ、なんだレイシアか。モデル……うん。あんた、ほら去年まで制服と作業着だけで過ごしたでしょ」

「はい」


「貴族コースの子は制服なんて着てこないの。あんた貴族の出とはいっても辺境で社交もこなしてないって言ってたわよね」

「ええ。お母様もいなかったですし」

「だからよ! まずドレスについて知らないといけないわ。これよ」


 イリアはレイシアが来る前に、TPOに合わせたドレスの選び方が解説されているマニュアル書を手渡した。


「これをまず読むのね。一通り知識を入れたら新入生と保護者のドレスを見に行くわよ。何事もモデルの観察は重要だからね」

「なるほどです」


 レイシアは本を読んで愕然とした。


「こんなにあるんですか!」

「そう。平民と違って、貴族の女子は一日に何度も着替えるのよ」

「何度もですか!」

「そう。授業によっても着替えるらしいの。だから、貴族の女子はメイドを2人まで校内に入れることが出来るらしいのよ。男子はダメだけどね」


 レイシアは全く知らない情報に目をまるくした。


「ん? これくらいは女子の間の噂話程度の事なんだけど。知らなかった?」

「はい」

「…………もしかして友達いないの?」


「友達? ……ええっと、イリアさんは先輩だし、サチは主従関係だし、メイちゃんとかはバイトの後輩だし、リリーさんは……、知り合い? あれ? ねえイリアさん」

「なに」


「友達ってなんでしたっけ」

「そこから⁉」


 イリアはレイシアの残念少女ぶりに大きくため息をついた。


「残念ぶりが半端ないわ」

「そうですか?」

「自覚無しか。はぁ」

「大丈夫ですよ。いなくても何とかなります」

「もういい。新入生と母親のドレスをチェックしに行くよ」


 いろいろあきらめたイリアは、レイシアを連れて図書館を出た。



「なるほど! 法衣貴族と貴族とでは着ている服の感じが全然違いますね」

「そうでしょ。貴族の方でも爵位によって違うの分かる? 装飾品のグレードとか」

「そうなんですか?」

「よく見なさい。観察大事」

「はい」


 レイシアとイリアは、ホールに向かう新入生の流れを少し遠くから観察していた。


「普段は貴族のクラスには近づけないから、入学式はドレスチェックのチャンスなのよ。やっぱり観察って大事よね」

「そうですね。本当に制服を着ている人がいない」


「でしょ。去年のあなたがどれだけ目立っていたか分った?」

「はい。確かに浮きますね。あ、騎士爵の人は同じ騎士服ですね」

「あれはあれでアピールだから。親のプライドだね。騎士爵でも女子はドレス着ているのよ」

「へー、そうなんですか」

「そうなのよ」


 イリアはドレスと装飾品の鑑賞チェックポイントをレイシアに解説した。レイシアは、あまりの細かさと興味の持てなさに聞きながら大きなため息を吐いた。


「例えば、ダンスの授業と昼のお茶会の練習では着る服が変わるの」

「確かに!」

「授業によって変わるってそう言う事。ほら、作業服と制服だけでこなせる平民とは違うのよ」


「制服ってすごい万能なんですね。授業でもお出かけでも使えるなんて」

「そこ⁉」

「一生制服で過ごしたい」

「ダメよ! 制服は万能だけど、学生の間しか着られないからね」


 レイシアは「残念です」と言ってため息をついた。


「貴族コース、自信なくしました」

「がんばれ。これから覚えればいいから」


 レイシアは、きらびやかなドレスをまとった人々を見ながら、一体どれだけのお金を払っているのかを想像して怖くなった。


「イリアさんも着たんですか?」

「あたし? うん着たね。もっともあたしのは姉のお下がりだったから流行に遅れていたけどね。ほら、あそこの子。あの子もお下がりね。結構いるわよ。後は古着とか」


「古着ですか」

「ええ。成長期だからすぐに着られなくなるじゃない。貴族のお古を買う法衣貴族や、貧乏男爵はいるわよ」


「そうなんですね」

「ま、それでも結構するらしいけどね」

「けっこう? どれくらいだろう」

「さあ? 買ったことないしね」

「どうしよう」

「まずはカンナさんに聞いてみたら? 制服みたいに貸し出しあるかどうか」

「そうですね。聞いてみましょう」


 レイシアは心の中で、あんなドレス着なくてもいいのにと思いながら「貴族って面倒くさいね」とつぶやいた。





読者様へ

 いつもお読み頂き、本当にありがとうございます。


 これから更新は2~3日に1回のペースになりそうです。なるべく定期的にあまり開かずに更新したいとは思っています。

 週3回を目指しますので、更新無くても気を長くお待ちください。予約更新、休載日など、近況ノートでお知らせすることもあるので、よろしければそちらもチェックしてください。

 よろしくお願いします。

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