閑話 お父様の困惑

 うちの娘はどうなっているんだ?

 レイシアが帰ってくるたびつぶやいているような気がするが……。


 いや、しかしだ。王都からの道のりを走って帰って来たとメイド長に聞いた時は誰がまともに信じて取りあおうと思う? 無理だろ! いつの間にそんな体力馬鹿になったんだ?


 帰って来たレイシアは、弟のクリシュと仲よさそうにしていた。それだけ見ると普通の娘なのだがな。まあ、やり過ぎる所はあるが若さゆえかな?


 そんな日々を送っていたら、学園からシャルドネ先生がバリューとレイシアを訪ねて来た。シャルドネゼミと言えばあの『変わり者の巣窟』。バリューのいたゼミだな。学園にいた頃は、あのゼミには近づかないようにしていたなあ。

 バリューから報告があったので、シャルドネ先生を迎えることが出来るように、晩餐の用意と客室の準備を大急ぎでやるように命じた。


 晩餐では、学園でのレイシアの事をクリシュが聞きたがったため、先生がそれに答えていた。学力は素晴らしいと褒められていた。武術も素晴らしい? 夏に見たから知ってはいるが……。えっ? なんだって! ああ……。 なにをしているんだ、レイシア。王子の意識を失わせるのは笑い話なのか? 「あの時はびっくりしました」じゃないだろう! 頼むから王子なんかに近づかないでくれ。


 翌朝、教会でバリューと一緒に怒られた。いや~学園を卒業してから先生に怒られるとは思いも寄らなかったよ。教会に喧嘩? ああ。ずうっと喧嘩を売っているよな。なんだか学生時代に戻ったようだなバリュー。

 レイシアが2年生では貴族コースを取らなければいけなくなったと伝えられた。レイシアの思う学園生活にしてやりたかったが、奨学生として、と言われては仕方がない。しかし、衣装代かなりかかるのではないのか? そもそも奨学生は貴族になれないのでは? なんだって、学園長が画策している最中だと? 初めて聞いたな。オヤマーの義父が資金援助を? 断る! 絶対に断る! ああ。これは俺の意地だ。



 レイシアと一緒に行った冒険者たちから報告があった。もちろんレイシアとサチも一緒に。狩った獲物を秘密にしながら見せたいというので、ギルド長とバリューを連れて領の外の平原まで行った。


「「「なんだこれは!」」」


 レイシアの良く分からないカバンから出て来たのは、「マウントゴリラ」「ブリザードアリゲーター」「はぐれゴブリン」それと大量の「シルバーウルフ」。


「あ~、これはなぁ、俺たちが手を出していない……レイシアとサチが2人で倒した獲物だ」


 どういう事だ? ギルド長が固まっているぞ。


 「ですから、私とサチで倒した魔物ですよ、お父様。黄昏の旅団の皆様は、ホワイトベアを見事に倒したんですよ」


 いやいやいやいや、言っている事分かりたくない、じゃなくて分からない。ほら、ギルド長もありえないって繰り返しつぶやいている。


「いえ、本当に俺たちは手を出していない、というかシルバーウルフに関しては手が出せなかった」

「厄災のシルバーウルフを2人で? ランクはどうすればいいんだ」


 ギルド長が魂の抜けたような声を出した。


「その件だが、これはここだけの秘密にして欲しい。クマデの領主と騎士団長なんかも知ってはいるが秘密にして貰っている。この件が公になれば、こいつら、あ、失礼レイシアとサチを巡って騒動が起きるだろう。せめて卒業時期まではレイシアの能力を秘密にしておきたいんだ」


 学園で大分やらかしているらしいが、その比ではないな。


「それから、レイシアの才能と家宝のバッグは一般に知られたら大事になる。だから、俺が学園の教師になってレイシアを監視しようと思っている。ここにいるルルも講師として働かせる。女同士相談できる相手がいた方がいいだろう? もう一人ゴートは王都のギルドで働く予定だ。これでレイシアに何かあっても対応できるはずだ。だから領主様。俺に学園の推薦と身元保証をして欲しいんだ。クマデの領主からはすでに書いてもらった。2枚以上あれば推薦を受けられるんだ」


 冒険者のリーダーのククリは私にそう頼んできた。これはレイシアに詳しく聞いてからだな。ギルド長とも相談をしよう。


 ギルド長は、この獲物をどうするのか。ランクはどうするのかといろいろ聞き取りを始めた。そのやり取りを聞きながら、私は心底疲れ果てた。


 レイシア。一体どこにいこうとしているんだ? 何がしたいんだ? そう聞いたら

「出来ることをやっているだけですよ。難しく考えなくて大丈夫です」

 と答えられた。


 お前の出来ることって、おかしすぎないか! なあ!


 大声で叫びたかったがなんとか心の中に収めたのは、領主としての矜持だったのかもしれない。推薦文、いくらでも書いてやろう。頼む。レイシアの手綱、しっかり引いてくれ! そう願うしかなかった。



 レイシアの冒険話をクリシュが目をきらめかせながら聞いている。


「僕もお姉様のようになります!」


 やめてくれ、クリシュ! お前くらいは普通に成長してくれ。

 そう執事のセバスチャンに溢したら「旦那様、今さら無理ですよ」と言われた。

 隣ではメイド長と料理長が頷いている。


 お前ら、何か仕込んでいないだろうな。背筋に寒気が襲ったのは気のせいだろう。気のせいだよな。


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