目先の利益より

 ククリの説明を要約すると、もともと学園から講師の要請が来ていたそうだ。まあ講師ならと思っていたが、レイシアが心配になってフォローしようと思ったら講師ではどうにもならない。Bランクになれば、講師でなく教師の資格がとれる。今年は無理だが来年は大丈夫だろう。来年なると分かっていれば発言力も増す。それに、ルルにもチャンスが広がる。ルルはもともとギルド職員を狙っていたが、レイシアのために講師をするのもいいと思った。講師なら実績もあるからすぐに契約できるだろう。ゴートは王都のギルド職員として働くことが決まっている。しかしBランクになればギルドでの扱いも影響力も変わる。レイシアがやらかした時や、大物を売りさばきたいとき立ち回りが上手くできるようになる。ケントは、まあ自由にしながらいろいろやるようだ。


「という訳で、Bランク冒険者として登録してくれ。できれば面倒くさいことはしたくなかったんだがな」


 Bランク以上になると、冒険者を辞めた後も影響力と義務が生じる。それを面倒くさがってわざとランクを上げない冒険者も多い。若い時は血の気も多く更に上を目指すためになりたがるが、辞める前にわざわざ取るのは何らかのメリットを享受したい時くらいだ。わざわざ厄介ごとに足を踏み入れるのを嫌うものは、そのままCランクで問題がない。


「その話に、レイシア様のメリットはあるのか? お前たちが利益を得たいだけなのではないのか?」


 騎士団長がククリに聞いた。確かに端から見たらレイシアは魔物を倒した功績も、販売するはずの利益も何もない。名誉や栄誉は全て黄昏の旅団が持っていくようにも見える。


「あ~、そう見えるよな。でもな、ホワイトベアで儲けようと思ったらこんな面倒くさいことはしないさ。レイシアを利用すればいくらでも稼ぐことが出来るんだからな。ホワイトベアを一頭そのまま解体せずに王都まで運んだらどうなると思う? オークションが沸き上がるぜ」


「そうだな」


「そうなると、レイシアの存在が明らかになる。商人、軍、いろんなところから目を付けられる。王命や軍命が下ればいつでも前線送りだ。今は平和だが、いつ帝国が仕掛けてくるとも限らない。レイシアを守るには、こいつが何かやらかす前に止めたり隠したりしないといけねえんだよ。大体、俺は貴族止めたくて冒険者になったんだ。こいつら旅団のメンバーはみんなそうだ。なんでわざわざ貴族に戻らなくちゃいけねえんだよ。仕方なくだ」


「貴族に戻る? どういうことですか?」


 レイシアが不思議そうに聞いた。


「ああ、学園の教師は貴族でなくちゃいけないだろ。平民が貴族様に教えるなんてできないからな。最低でも法衣貴族か騎士爵にならないといけないんだ」

「なるほどです」


「クマは全部解体クマデのギルドに売る。多分オークションなら。50倍で売れるだろう。目先の利益よりレイシアたちの将来を大事にする。俺たちはその覚悟だ。それでもダメか?」


 ククリは騎士団長を見据えた。ククリの決意に満ちた目を確認した騎士団長は「分った。こちらも善処しよう」と約束し、領主との話し合いをし、明日返事をすると回答した。



 様々な条件を提示し合った話し合いが終わり、黄昏の旅団とブラックキャッツもメンバーは広場でのパーティーに向かった。

 広場では人々から大歓迎を受け、英雄として迎え入れられた。


 村の危機は全て去った。明日からは村を上げてホワイトベアの解体と加工が始まる。現金収入を村人が得ることが出来る。復興は目の前だ。


 人々からの感謝を受け、この村へ黄昏の旅団の方々と一緒に来てよかったと思うレイシアだった。

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