相談
「ホワイトベアの首を一振りで切ったというのか! 骨までも……」
「さすがに骨は切れませんよ。ほら、骨と骨の間に包丁を入れればスッと刃が流れるように進みますよね」
「そんなことが出来るのか!」
「一流料理人をなめちゃ困りますぜ」
「レイ、しっ」
うっかり料理人モードになりそうなレイシアに突っ込みをいれ、言葉遣いを戻させるサチ。
「こんな感じでこいつらは次々とシルバーウルフの首を落としていったんだ。目の前で見ていたって信じられなかったさ」
ククリがそう言いながら話を戻した。
「見ての通りだ。こいつらが殲滅したんだ。しかもなぁ、本人たちは大したことなどしていないと思っているんだ。規格外にも程がある」
「待て待て待て! それが本当ならBランクどころじゃない! Aランクに上がってもいいいや、Sランクだって目指せるじゃないか!」
「そこだよ、ギルド長!」
ククリはギルド長の言葉を止めた。
「この非常識たちを有名にしてみろ! 厄災と言われるシルバーウルフの群れを息一つ乱さずに殲滅させる腕前、いくらでも重力無視して獲物を新鮮なまま運べるカバン。おまけに美少女2人だ。そいつらが平民になって冒険者を辞める。それがどれだけ危険な事かもわかってねーんだ、こいつら!」
「冒険者を……やめる? だと?」
「いや、辞めませんよ。片手間でいいかなって思っているだけです。まあ、獲物が狩れればいいだけなのでギルドカードは返してもいいんですが」
「「返すな!!」」
ククリとギルド長の声が合わさった。
「あの、レイシア様。ギルドで説明をきちんと聞いていましたでしょうか?」
ギルド長から見たらレイシアは冒険者ではあるが他領のご令嬢。自然に敬語になる。
「はい。冒険者登録する前に伺いました」
「学園で冒険者ギルドの説明は?」
「ええ、実践が中心でせつめいは……」
「説明は、あなたが終了した後にあったのよ」
ルルがフォローに入った。
「そうなんですか?」
「ええ。あの研修で辞める人をふるい落としてからの正式登録の時に説明があったからあなたは聞いていないわ」
「どうやら、存じ上げていないようですな」
ギルド長が説明を始めた。冒険者、それもCランク以上の治外法権について。戦闘力の高い冒険者は、国に利用されやすかった。特に戦時中は前線に送られ数多くの有望な者たちが散っていった。その歴史を繰り返さぬよう冒険者が集まって作られたのが『冒険者ギルド』。国には所属するが、貴族や国から独立権をもぎ取った。ゆえに税金も高いが、自由はかなり保証されている。しかし、徴兵逃れで冒険者登録だけする者が続出したため、その保証はCランク以上にしか適用されなくなった。実際、高額な税金を納めているのはCランク以上の者だからだ。
「だから、レイシアは貴族か冒険者でなければいいように国や貴族、あるいは金持ちの商人に利用されるんだよ。分かったかい?」
ククリはレイシアにそう言った。
「とにかく冒険者は辞めるな。冒険者を続けながら好きなことを見つけるんだ。いいな」
レイシアはコクリとうなずいた。
「それでだ。領主様に騎士団長殿。ギルド長もだな。お願いがあるんだが」
「なんだ? 申すがいい」
「このシルバーウルフが出たこと。レイシアたちブラックキャッツが殲滅したこと。これを全て無かったことにしてくれないかな」
…………
…………
…………
「どういうことだ! ここの偉業をない事にしろだと!」
「何を考えているんだククリ!」
領主とギルド長が叫んだ。
「無かったことにって……売ることができないんですか!」
レイシアは売ることが出来ないことに抗議した。
あれこれと思うがままに発言が続き、騒然とまとまらなくなる会場。
「いいから聞いてくれ!」
ククリが叫んだ。
「まず、レイシア。お前のカバンは時間すら止めるんだろ。だったら売るのを遅らせてくれ。そうだな、学園を卒業する前なら売れるだろうし、どうせ売るなら高い方がいいだろう? 一気に売っても値崩れを起こすだけだ。はぐれた狼をたまたま仕留めたことにして売った方が得だぞ。いい売り時は教えてやる」
レイシアは考えた。バラバラに売った方が得。そして、クリシュが学園に入学する時の軍資金になるならそれでもいいかと納得した。
「ギルド長。こいつらがこの若さでBランクになる。しかもシルバーウルフの群れを2人で殲滅させて、となったらどうなると思う? 冒険者以外の道がふさがれないか? レイシアはまだ14歳。これからの人生まだまだ何をしたいかも分かっていないんだ。もしかしたら貴族でいたいと思いなおすかも知れない。そんな時Bランクの凄腕有名冒険者の肩書は重すぎないか? せめて卒業前まで保留にさせてやってくれないか?」
ギルド長は何も言わない。いや、即決で言える問題ではないほど重い。
「まあ、すぐに返事はいい。そして領主様。今、シルバーウルフが出たと公表するのはまずくないか? 確かにレイシアたちが殲滅した。しかし、信じてもらえるか? こんな少女2人で倒しましたって言って。証拠があってもそれはそれだ。こうして目の前で見せてやっと信じられる、いや、それでも難しいだろう?」
「そうだな。説明できないな」
「それで、A級の厄災案件として国が介入してきたらどうなる? 魔法使いたちが来て森を焼き払われたら、こんな村立ちいかなくなるぞ。なあ、騎士団長殿」
「……そうなるかもしれないな。大義の前には少々の犠牲は致し方がないと考えるだろう」
「だからだ。シルバーウルフはもういない。もういないのと最初からいなかったのは今となっては同じことだ。いないのに森を焼き払われてみろ! この村の事を第一に考えればいなかったでよくないか?」
「……考えさせてくれ」
「ああ」
領主はそう言うのが精一杯だった。
「それでギルド長、次の話だが」
「なんだ?」
「俺たち黄昏の旅団をBクラスに上げてくれ。ホワイトベアを倒したんだから何とかなるだろう?」
「おいおい、解散するんじゃなかったのか?」
「ああ。解散するさ」
「解散するのにそんな手続してどうするんだ」
「ああ、レイシアのために教員になろうとおもってな」
ククリはレイシアを見た。
「こんな危ないやつ、見張りがいるだろう?」
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