一刀両断

「シルバーウルフの群れだと! 本当なのか! まだ深層内部なんだな。付けられたりしていないだろうな! ヤツらが村を襲ったら……」


 ギルド長の言葉と態度に騒然とし始める。


「なんだ、そのシルバーウルフとは」

「『厄災の狼』とも言われる狼の群れです」

「「「厄災の狼か!」」」


 そのワードは噂として広がっていた。子供に言う事を利かせたいときによく使うフレーズ。「悪いことすると厄災の狼が来るぞ!」と恐れられている言葉。


「ご心配なく。シルバーウルフは殲滅しました。ここに証拠があります。レイシア」


 声をかけるとレイシアは、バックから狼を取り出した。

 首の取れかかった狼。首のない狼が1頭2頭と積みあがっていく。

 ありえない状況に悲鳴を上げる者、息を飲んで声すら出ない者。

 カバンから次々出てくる状況にもはや頭がついてこずパニックを起こすもの


「もういいもういい! レイシア止めて!」


 6頭出した時ククリがレイシアを止めた。


「この鞄に関しては、ターナー領の秘宝と言うものです。レイシア様しか使うことができません。それ以上の詮索は子爵への無礼となります。驚くのは分かりますがご容赦ください」


 カバンについてはそう言う外なかった。レイシアがカバンの中を広げて見せると、そこには何も入っていないように見える。その後、ククリに言われてホワイトベアも出した。

 狼より何倍も大きい熊が出てきて、またも騒然とする会場。そんな中でギルド長が興奮しながら叫んだ。


「お前たち、ホワイトベアを倒して、その後厄災まで殲滅させたのか! そんな実力があったとは! 今すぐ公表して冒険者ランクを……」

「あ~、そのことなんだが」


 ククリは興奮しているギルド長の言葉をさえぎって一度周囲を静かにさせた。


「俺たち黄昏の旅団が倒したのはホワイトベアだけだ。そして、シルバーウルフを倒したのはブラックキャッツ、こいつら2人さ。俺たちは手の一つもだしちゃいねえ」


 ククリは真実をそのまま告げたのだが、そのまま受け取る者などいない。


「おいおい、どうしたククリ。今さらそんな嘘なんかついて」

「おい、ククリ! 領主様の前だ。いくら何でもそんな冗談言うもんじゃない。いくら兄としてもフォローできんぞ」


 ギルド長とトトリが、場の雰囲気を変えようと頑張った。他の者はどうしたものかと黙っている。


「領主様、騎士団長殿、武器の確認をお願いしたい」


 ククリは武器を持ち出すことの許可をもらい、騎士団長の前に並べた。もちろんレイシアに頼んでカバンから出してもらって。


 

「我々の武器はこれだ。ロングソード、ショートソード、短剣、弓。ごくごくありふれた武器を使っている」

「ああ、そのようだな」


 騎士団長が、一つ一つ手に取り確認する。


「これにしびれ薬を塗り、獲物の体内に薬を仕込みながら長期戦で戦う。それが我々黄昏の旅団の戦闘スタイルだ。ホワイトベアの傷跡がそうなっているだろう」


 騎士団長がホワイトベア近づき傷跡を確認する。あちらこちらに剣の跡や折れて刺さったままの矢じりを見つけうなずく。

 ギルド長が「一般的な大物狙いの冒険者の形です」と伝えフォローした。


「では、こちらのシルバーウルフの首を見てくれ」


 騎士団長がシルバーウルフの首元を見て唸った。あまりにもきれいすぎる切り口。


「まさか……一刀両断なのか!」


「見ての通り、俺らとは違うスタイル。俺らには出来ねえ業だ」

「誰が! 誰がやったんだ!」


「だからこいつらだよ」


 ククリはレイシアとサチに手を向けた。


「こいつらがあれで切ったんだよ。シルバーウルフの首をな」


 ククリがそう言っても誰も信じようとしない。こんな若い女性が2人で大量のシルバーウルフを仕留められるわけがない。そう思うのは当たり前のこと。ククリは騎士団長に武器を見せるように2人に指示した。


 レイシアとサチが武器を差しだす。騎士団長は手に取って確かめるが、想像と違う見たこともない武器に戸惑っている。短い剣の豪華な装飾に首を傾げ、長い剣の刃の美しさには魅入られたかのように目を引かれていた。


「これは何だ?」


 騎士団長が聞くと2人は答えた。


「ウエディングケーキナイフです」

「マグロ包丁です」


「「「はあ?」」」


 予期せぬ解答に会場中どよめいた。うえでぃんぐけーきないふ?  まぐろぼうちょう? なんだそれ?


「ウエディングケーキナイフとは、ウエディングケーキを切る専用のナイフです」

「マグロ包丁とは、マグロという巨大な魚を捌くための専用の包丁です」


 解説している様で、文字通りのことしか言っていない2人。いや、文字通り以外何も言う事は出来ない。そのままだから。


「ケーキ用ナイフに魚用包丁だと! ふざけているのか!」


 真面目に解説していただけなのに怒られる2人。ククリは親指でクマを指差し「首落とせるか?」と小声でレイシアに聞いた。


 頷いてクマを見るレイシア。


 ただならぬ殺気を感じてレイシアに視線があつまる。

 大きく「スー」「ハー」と深呼吸をし、息を整えるレイシア。


  シュッ!


 レイシアの体がブレた様に人々には見えた。

 レイシアは布で包丁を拭い始めた。


  ゴトン! ゴロゴロゴロ


 ホワイトベアの首が大きな音を立て床に落ちた。レイシアは包丁を鞘に戻すと、両腕でクマの大きな頭を「よいしょっ」と抱え上げ、騎士団長の前に持って行き


「私が斬りました。ご確認ください」


と言って、クマの頭と包丁を置いた。

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