報告
次の日。シルバーウルフの群れがいなくなった森は以前の様相を取り戻し始めた。魔物はレイシアたちに大分狩られ、残ったものも森の深層深くの元々のテリトリーに帰ろうとしていた。
そのせいなのだろうか。帰りは大きな魔物に会うこともなく、小物のウサギなどをレイシアたちが片手間で倒しながらも、ほぼ真っすぐ男爵領に戻ることができた。
森を見回っていた冒険者が黄昏の旅団を見つけた。
「お帰りなさい! いかがでした? ダメだったのですか?」
彼らは、旅団のメンバーが何も持っていないので、がっくりと肩を落とした。
「大丈夫だ。ホワイトベアは倒した。ほら、これが証拠だ」
ククリは自分のリュックからクマの爪を出して見せた。
「これが証拠だ。もう危険は過ぎたぞ」
そう言った途端、冒険者たちは「ウオ————」と雄叫びを上げ、飛び上がって喜んだ。
「今すぐ伝えに行きます!」
そういうと、村まで一目散に駆けて行った。
◇
村では村民が集まって出迎えをしていた。領主とギルド長、それにククリの兄トトリが一番前で出迎えていた。
「今戻った。諸君、これが憎きホワイトベアの指の爪だ! 邪悪なクマは我ら黄昏の旅団とブラックキャッツで討伐を終えた! もはや災害の芽は
そう言うと、ククリ以外のメンバー、ケント・ゴート・ルル・サチ・そしてレイシアが5枚の爪を一枚ずつ持ち、両手で頭上に掲げた。
「「「ウオオオオ—————!!!」」」
地響きが起きたような歓声が村中に広がった。黄昏の旅団やブラックキャッツを讃える声がいつまでも鳴りやまない。ククリが歓声を収めようと両手を上げて叫ぶが、それでも人々の興奮と歓声は収まらなかった。
レイシアは、掲げていた爪をカバンにしまった。そして、大きく息を吸うと、美しく澄んだ高い声で「あ—————」と発声した。
レイシアの周りが静まった。何事かと人々は耳を傾け始めた。
「あ—————」
澄んだ声はどんどん遠くの歓声まで鎮めていった。人々はレイシアから目が離せなくなった。
♪遥かーな———
むかしよ——り 人は、神と、共に————
見守られ——て 抱かれ————て
レイシアが聖歌を歌うと、人々は息を飲んで聞き入った。中には涙をこぼすものまで現れた。
歌い終わると、領主を導き耳打ちをした。領主は
「皆の者、聞け! この者達のおかげでホワイトベアは倒された。これから、私と勇者たちで今後の事を決めなければならない。その間、勇者をもてなすための支度をしておいてくれ。肉と酒は備蓄庫から出す。今日は無礼講だ。勇者のための祭りを行えるよう夕方まで準備をするように。よいな。では勇者たち。我が屋敷へ」
芝居がかった演説で、黄昏の旅団とレイシア、サチを馬車に誘導した。関係者一同馬車に乗って移動を始める。村人は凱旋パレードを見るように、手を振り声をかけ馬車を見送った。
◇
「なんで歌ったんだ?」
馬車の中でククリが聞くとレイシアは「だって、黙らせるのは神様を持ち出すのが手っ取り早いですし」としれっとした顔をして言った。
「神様の話を始めると、聞かないといけませんよね。まあ、あの時はみんなうるさかったので、大きい声で不自然にならないように歌を歌ってみたんですけど成功しましたね」
ククリ始め黄昏の旅団のメンバーは(((それだけ?)))とがっかりした。あれだけ感動した歌が、ただ単に民衆を黙らせるためだったとは。もっと深い意味でもあるのかと思っていたメンバーは聞かなきゃよかったと後悔した。
「どうでもいいがレイシア、それ神父には言うなよ。絶対がっかりするから」
ククリはどうでもいい助言をすると、ちょうど馬車が館の前で止まった。
◇
館に迎え入れ、貴賓室に通そうとした領主に、ククリは一番広いホールへ場所を変えるようにお願いした。それも人払いをするように。
不審に思いながらも、領主は言う通りガランとしたホールに案内した。
「人払いは大丈夫なんだろうな」
ククリは兄のトトリを介して確認した。ここにいるのは領主と執事とメイド長、神父、冒険者ギルド長、騎士団長とトトリ、それと黄昏の旅団とブラックキャッツ。計13名。ククリは全員の顔を見渡してから話し始めた。
「ではこれから報告に入る。ここから先はいろいろ秘密にして欲しいことだらけだ。なにとぞ協力をお願いしたい。まずは一つ目だ。森の深層部に『シルバーウルフの群れ』がいた」
会場内が一気に凍り付いた。
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