平民

「ちょっとまて!」


 ククリはレイシアの言葉を聞いて頭を抱えるように叫んだ。


「お前、平民なめていないか? 冒険者も!」


 レイシアは、何を言われているのか分からずぽかんとしていた。


「あのな、お前のようなガキがあれだけの能力を持ってるんだ。例えばお前の持つカバン1つ。それ、お前にしか使うことができないんだろう? それだけでも、権力のない平民が持っていたら分不相応だ。どこかのでかい商人やら貴族やら、あるいは国が放っておくわけないだろう! 平民のお前の意思なんか無視されて、勝手に連れ去られるぞ!」


 ククリの迫力に、周りにいたメンバーが近寄ってきた。


「どうしたの? そんなに大声で説教するなんて?」


 ルルが聞くと、ククリが説明を始めた。


「レイシアがよ、平民になりたいなどとぬかしやがるんだ」

「「「えっ!」」」

「だから、今平民になるとどれだけ大変なことが起こるか説教しようとしているのさ」


 ククリはそう言うと、レイシアに聞いた。


「なんで平民なんぞになりたいんだ?」

「だって、貴族の生活は私には合わない」

「それだけ? あ、いや、俺も騎士爵とはいえ出ていった身だ。貴族社会が嫌なのも分からなくもないが止めとけ。権力はいくらでも持っていた方がいい。自分の身を守るために」


「でも無理なんです」

「じゃあお前は、国に雇われて戦争の最前線に送り込まれたいか? お前の実力がばれたら軍が放っておくわけないだろ! それとも何か? なんだかんだいいように契約させられてどこかの商会で奴隷のように働きたいのか? 力のない平民なんぞどんな扱い受けたってだれも助けちゃくれねえ。それにサチ、お前元孤児だろ?」

「ええ。今もだけど」


「元孤児なんか、どうにでも奴隷にできるんだよ。今は貴族のお抱えだから大丈夫だろうが。レイシアが平民になったらどうするんだ? レイシアから離れて自領にもどるのか?」


 レイシアとサチは考え込んだ。孤児の扱いのひどさはこの間学んだ。しかし平民の扱いまでは考えていなかった。


「だからよう、貴族というステイタスは大事にしな。権力様様よ。悪いことは言わねえ。平民になろうなんて馬鹿げた考えはなくせ」


「でも……、私は貴族は嫌なんです!」


 ククリはレイシアに言った。


「だったら、お前の能力はひたすら隠せ。今回狩った獲物は換金するな、見せるな、隠しておけ」

「え?」


「こんなAクラスの魔物を狩れる子供ってだけでもうだめだ。それを丸ごと運べる能力があるって言うのも知られちゃいけない。とにかく、学園にいる間は学園が守ってくれる。貴族として通っている限りはな。その間は貴族として守られておけ。問題は卒業後だが……ちょっと待て、一人じゃ考えつかねえ」


 ククリは、レイシアから離れて黄昏の旅団のメンバーと話をし始めた。レイシアとサチは自分たちの認識の甘さを話し合いながら考えていた。話し合いは長く続き、いつの間にか日が暮れそうになっていた。


 話し合いを終え、ククリはレイシアに近づき、こう頼んだ。


「そろそろ食事にしようか。レイシア、君たちの夕食を分けてくれないか? もちろん金は払おう。今日はお祝いにしたい。一緒に祝ってくれないか。ホワイトベア討伐の祝いと黄昏の旅団の解散を」

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