冒険者は片手間?

 あっさりとシルバーウルフを殲滅せんめつさせたブラックキャッツの2人。レイシアはポイポイとカバンに獲物を詰め込んだ。切り取られたシルバーウルフの首だけ残して。


「頭部は売れる所ありませんよね?」


 レイシアはゴートに聞いた。


「あ、ああ。売れる所はないな」

「じゃあ、これから寄ってくる獣への撒き餌ということで置いておきましょう。餌があれば動くこともないでしょうし。とにかく血の匂いで獣が寄ってくるでしょうから、とっととここを立ち去りましょう」


 リーダーのククリはハッとして、「そうだな、村は向こうだ」と進むべき方向を指示した。



 森の深層を抜け、川の近くの平原にたどり着いた。日没までは3時間。野営をするにはギリギリの時間だ。

 ククリとルルは獣の血で汚れた武器の手入れを、ケントとゴートはたき火の準備を、レイシアとサチはテントの設営と寝床の準備をした。


「毎回思っているんだが、お前たちはいつ武器の手入れをしているんだ?」


 緊張から解き放たれたククリがレイシアに聞いた。小型の投てき用のナイフなら引き抜いた時血をぬぐえばそうでもないが、あれだけの戦闘をした剣は血と脂で酷いことになっているはず。まして自分たちの剣は叩き潰したり刺したりするための剣。ナイフならともかく、あのように斬れる剣など普通にはありえない。


「あ、何頭か斬ったらすぐに水で流して切れ味を戻しているので大丈夫です。終わった後もすぐに手入れしているんですよ」

「私も斬ったあとすぐにレイから水をかけて貰って、すぐにナプキンで拭いているので、そこまでひどくならないのです」


 戦闘中に水で洗い流す? あまりの発想のおかしさに理解できないククリ。


「えーと、まあいい。その剣見せてもらってもいいか?」

「いいですけど、これ剣じゃないですよ。包丁です」

「包丁だと! そんな包丁あるか!」

「あるんですよ、これが」


 レイシアがニヤニヤとマニア特有の笑顔で包丁を解説し始めた。


「これはですねぇ、東方の技術で作られた『マグロ包丁』なのですよ。マグロという巨大な魚を捌くための、それだけにしか使うことのない特注品! ほら、一枚の柔らかな金属を固い金属でくるむことにより、切れ味と耐久性を兼ね備えた……」

「もういい!」

「え~、ここからなのに」


 レイシアは言い足りなさそうで不満顔になった。


「包丁を武器にしているのか。俺たちにはない発想だな」

「料理人ですから」

「料理人?」


 ククリはまたまた理解できない。


「え? だって素材を手に入れるためには自分で取ってくるのが一番早いし、新鮮じゃないですか」


 レイシアの斜め上発言炸裂! ククリは混乱しっぱなしだった。


「え? あれ? レイシア? 君は一体何を目指しているんだ? えーと、貴族のお嬢様だよね? 冒険者? 料理人? なんで? なに? どうしたいのかな?」


 レイシアは混乱しているククリの質問に対して、自らも悩み始めた。


「え? そうね。貴族にはなりたくないし、冒険者は片手間でやれるし、料理人は生活が楽になるから職業としては目指していないし、メイドは出来るけど職業としては違うわよね? あれ? 私何になりたいんだろう? とりあえず平民?」


「平民は職業じゃないよ、レイ」


 あきれたようにサチが言った。

 

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