250話 死闘②
レイシアとサチは黄昏の旅団の戦い方を木の上から見学していた。
「ヒット アンド アウェイか。長くなりそうね」
「そうね、レイ。ゆっくり見学しましょう」
「あ、わきの下に隙が! ああ、チャンス逃したか」
「レイ、ルルさん気づいてなかったよ」
「そうなの? 残念、仕留められたのに」
「攻撃が単調ね、サチどう思う?」
「ヒット アンド アウェイ だと、そうなるか」
「なに? 休憩に入ったの?」
「長丁場になるからね」
「おなかすかない? バクットパン食べる?」
「食べよう食べよう」
レイシアたちは、木の上で楽しいランチを始めた。
「(もぐもぐ)弱点攻めきれないねぇ、サチ」
「(もぐもぐ)矢は確実に当ててしびれ薬を仕込みたいから、どうしても大きい場所狙いたくなるよね」
「(もぐもぐ)ククリさんは剣が大きいし盾役だからどうしても攻撃範囲が狭まるしね。機動力のルルさんに期待しよう」
「(もぐもぐ)いや、狙ってないと思うよレイ。危険だし」
「そうなの! (もぐもぐ)あとどれくらいかかるんだろう。手伝っちゃダメかな?」
「ダメよレイ。人の獲物には手を出さない(もぐもぐ)」
「は~い。あ、お茶いる?」
「ちょうだい!」
そんな感じでのほほんと見学していた2人。時間はかかるが安全に、ってこういうことかと眺めていたが、急にクマの動きが変わったのに気づいた。
◇
「追い付けねえ」
自分の攻撃を無視され、守るべきケントの方に急に走り出したクマ。なんとしても止めようとククリが追ったが、瞬発力とスピードが違う。もはや打つ手が見つからない。ケントは弓を投げ付けたが何の役にも立たない。目前に迫るクマの恐怖で立ちすくんでいた。
クマは立ち上がり、右の前足を振りかぶった。ケントが死を予感したその時。
クマの左目に深々と、レイシアが投げたペティナイフが突き刺さった。と同時にサチがケントに体当たりをして、その場からどかした。
クマはいきなりの痛みに、思わず右前足で左目を覆った。そのため、ナイフがクマの目の中に押し込まれてしまった。
ギャァァァ——————————
あまりの痛さに転がりながら叫び続けるクマ。倒れたケントに手を差し出すサチ。当面の危機は脱出した。
手を引かれ立ち上がるケント。目の前にはメイド服を着こなした見目麗しいサチ。独り者のケントの胸がドキドキと鳴っているのは命の危機のためだけなのか? ケントがお礼を言おうとしたその時、サチはさっとレイシアの側に移動し、
「「お邪魔しました〜! じゃあ私たちはこれで!」」
と、あっさりと木の上に戻って行った。
「え?」
「えっ?」
「なに?」
「はぁ?」
クマを囲むように四方に散らばっている黄昏の旅団のメンバーは、一斉に間抜けた声を出し呆然としていた。その中央では、もんどり打って苦しんでいるホワイトベア。旅団と黒猫とクマの温度差が酷すぎる! 絶対に交じり合わない三者の状態はもはやカオスという他なかった。
ウギャァァァアア—————!
何度目かのクマの叫びに我に返ったククリ。
「気を抜くな! まだ危機は去ってないぞ」
今の今まで呆けた顔をしていたリーダーが声を限りに叫ぶ。我に返ったメンバーたち。弓を拾うケントに構えを取るルル。ゴートが指示を出そうとするが、クマのあまりの動きに近寄るのは危険と判断した。
パシュッ パシュッ と定期的に遠くから矢を打ち込み様子を見るのが精一杯。
結局、20分ほど矢を打ち込みながら暴れるクマを観察していたら、クマはしびれ薬が効いたのか、目に刺さったナイフが致命傷を与えたのか、そのまま倒れてしまった。ククリが慎重に近づき、クマの心臓の上部、大動脈の位置に剣を突き刺した。
素早く身を引くと、巨大な噴水のように血が噴き出した。長かった戦いもやっと終わった。黄昏の旅団のメンバーはリーダーの周りに集まり座り込んで笑った。
「やった」
「やったぞ!」
「終わった……」
「勝ったわ!」
緊張が解け、体は動けないほど疲弊していたが、テンションは高い。倒れたホワイトベアを見ながら4人は幸福の絶頂にいた。
「お疲れ様でした。では後の処理はお任せください」
レイシアはそう言うと、サチに矢の回収を指示し、クマの血が収まるのを待ってから、ペティナイフを回収すると、カバンにクマを収納した。
「あの巨体を丸まる運べるなんて……、解体も帰ってからゆっくりできるとは。本当に規格外だな」
本来、使える所だけ解体するのも数十分かかる。連れてきたポーターの数で持っていける数も変わる。後から回収に来ようにも、森の中ならともかくこの深淵では村人も来てはくれない。いや、守りながら進むだけでも困難を要する。しかも、他の肉食の魔物が群がっていることも多い。
それが、丸ごと持って帰れる。これがどれだけの利益をもたらすのか。
今になってその凄さを目の当たりにして身震いをしたククリ。レイシアの事は何としても他に漏れないようにしてやらないと、レイシアを守ってやらないといけない、そう思った。
しかし、そんな平穏を叩き壊すかのように、「ウォォォォ—————」と魔物の雄叫びがレイシアたちの近くで上がった。
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