出発します
これから
「そうだな。それも必要なのかもしれんな。それにレイシアの言う通りだ。俺たちの戦闘スタイルは連戦には向かない。どうだろう、簡単な魔物はブラックキャッツにまかせてもいいか? もちろん、ダメな時はこちらで引き受ける」
「獲物の取り分は?」
「もちろん、狩ったパーティの物だ。協力した時は半々でいい。人数的にはこちらの方が多いが、まあサービスだ。その代わり勝手に助けに入らないこと。勝手に入った時にはお互い邪魔とみなし取り分はなし。ここら辺をあやふやにすると契約が面倒くさくなるんだ。どうだ?」
レイシアはサチを見て「いいわ」と答えた。
「まあ、君たちが危なくなったら助けるが、その時は獲物の権利は君たちで決めていいから。こちらが助けられたと感じたらちゃんとお礼はする。それを決めるのはどこまでも勝手に混ざらないための決まり事だ。共同戦線組む時は大切なのさ」
そういうことならと、理解できたのでその場は解散となった。明日に備え持ち物の確認と手入れを慎重に行い一日が終わった。
◇◇◇
翌日、ついにホワイトベアを討伐するために出発した。黄昏の旅団4人、ブラックキャッツ2人、そして、案内役の狩人3人と共に。案内役の狩人が3人なのは、クマの出る奥地への入り口まで送った後無事に帰るため。
「獣の気配がします。偵察に行ってきます」
「無茶はするなよ。見てくるだけでいいから」
「分りました。とりあえず、皆さんの武器は渡しておきます」
皆の武器をカバンから出し渡すととすぐさま「行くよサチ」と言うと、レイシアとサチは進行方向の先へ消えていった。
10分後、戻ってきた2人に「どうだった?」とククリが聞くと、「進行方向から獣はいなくなりました」とレイシアが答えた。
ククリは、(魔物が違う方向へ移動したのか)と思ったのだが、本当は、2頭いたボアを、レイシアとサチがサクッと葬り去ってカバンに収納していた。そんなことを3度ほど繰り返しながら進むと、昼頃に狩人が案内する最終ポイントにたどり着いた。
「ここから先が危険度が上がる森の深層への入り口でさあ。あっしらはここまで案内するのが精一杯でさあ。いやぁ、こんなにスムーズに着くとは思いも寄りませんでしたぜ。ここで一泊するつもりで来たんだが、今日は珍しく魔物がいない日なのか邪魔が入りやせんでした。今のうちに帰ってしまいたいんで、ここでおさらばしてもいいですかね」
狩人のリーダーがそう言うと、ククリは
「ああ。ありがとう。気をつけてな」
と送り出した。
◇
「では、こちらが皆様のお昼ご飯、パンと干し肉、それと水筒ですね」
レイシアが、旅団のメンバーの前に預かった食料を出した。彼らのいつもの旅の携帯食だ。
「サチ、私たちもお昼にしましょう」
テーブルとイスを出すと、その上に温かなスープの入った鍋と、焼き立ての肉と野菜の挟まった『バクットパン』を2皿を置いた。デザートの果物と一緒に。
別に意地悪ではない。旅団のメンバーも温かい普通の食料を預ければそのままレイシアはだしたのだが、いつもの通りの旅支度をしたため、温かい料理を預けるという発想ができなかっただけなのだ。なんとなくの常識と慣れが新しいことを考える余地を潰してしまった。
「ねえ、レイシア」
ルルが呼びかけると、「なんですか?」と答えた。
「その……、あなたたちのご飯いくらで買えるかしら」
レイシアは、(えっ)と思ったが、硬い干し肉をもそもそ噛んでいる姿を見て察した。
「そうですね。朝昼は銀貨2枚、夕食は銀貨5枚でどうですか?」
「ふっかけるわね」
「皆さんの食糧は大切に預かっていますから。困っているならともかく、充分にあるのに私たちの食料を求めるのでしたらこれくらいが妥当です」
レイシアが毅然とそう言った。冒険者としては、緊急時以外では、人の食料をあてにしてはいけない。予定通りいかずさまよい、いつ飢えるか分からないのだから。
「では頂きましょう、サチ」
レイシアとサチが優雅にお昼を楽しんでいる姿を見ながら、「失敗した」と後悔を始めた黄昏の旅団のメンバーだった。
◇
森を進んでも、レイシアとサチの動きは変わらなかった。獣の気配を感じたら、森に入りサクサク仕留める。その姿を見ていない旅団のメンバーは上手く避けたのだと思い込む。一行は危険もなくスムーズに移動していった。
書いてもらった略地図を見ながら、川沿いの開けた場所に到達した。
「獣と合わずににここまで来れた。かなり早いが、今日はここでキャンプをしよう」
ククリがそう言うと、みんな緊張を解いて伸びをしくつろぎ始めた。レイシアがテントを取り出すと飛ばないように設置をしたり、焚火を準備を始めた。作業しながら、ククリはレイシアにたずねた。
「それにしてもおかしい。今日は魔物どころか獣一匹見当たらなかった。レイシア、なにか偵察でおかしなことはなかったか?」
皆がレイシアをみた。レイシアは事もなげに答えた。
「え? 見たこともない獣が何頭かいましたが、簡単に倒せそうだったので狩りとってきましたが? 狩った獲物は私たちのものでいいんですよね?」
「「「いたのか! 何を倒したんだ!」」」
一斉に突っ込まれるレイシア。「大した敵じゃ無かったですよ」とカバンからとりあえず3頭の魔物を取り出した。
ドガッ! ドンッ! バシッ!
レイシアの3倍ほどある、大きな魔物が音を立てて転がる。旅団のメンバーは顔を引きつらせた。出した魔物は、「マウントゴリラ」「ブリザードアリゲーター」「はぐれゴブリン」どれもCランクになりたての冒険者では手を出してはいけない魔物たちだった。
「全然分からない動物でしたが、気づかれていなかったので、休んでいる所を木の上から一気に。ほら、たいていの獣は、首を刺したら終わりですよね。気づかれる前に一気に倒せました。ね、サチ」
「解体は帰ってからにしろよレイ。ここで血の匂いさせたら魔物が集まるから」
「分ってるわよ。ねえ、どの位で売れるんですか? この獣たち」
レイシアがルルに聞くと、ビクッと反応してつぶやいた。
「分からないわ……、こんなの」
レイシアは、「こんなの」と聞いてがっかりした。
「そうですか。そうですよね。こんなに簡単に狩れる獣、大した金額じゃ売れませんよね。他にもありますが同じでしょうね」
その言葉を聞いて、旅団のメンバーはパタパタと膝を折って座り込んでしまった。
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