まだ足りない?

 小麦の袋が積みあがった。


「持ってきた小麦はこれだけです。こちらの領民はどれくらいおられるのですか?」

「りょ、領民か? 1500人程ですが」


 慌てながらも執事がそう答えた。


「1500人ですか。小麦だけではたりませんね」


 レイシアはそう言うと、一角ウサギをポイポイと出し続けた。その数50。続いて火炎狐を10匹ほど。鳥類各種60羽。鹿1頭。ボア1頭。次々と大型の動物になり、それがどんどん積みあがる。大がかりな猟をしたってこんなに獲物が取れることなどない。


「狩りたてと同じくらいの状態です。もちろん血抜きはすんでいますわ。捌くのは、皆様にお任せしてもいいかしら」

 あまりの事にまたしても固まった一同。いち早く立て直した執事が御者に命じた。


「村人を……解体できるもの全員集めよ。道具を持たすのを忘れないように」


 御者はあわてて御触れを伝えに行った。


「レイシア様…………、これは……」


 領主が聞くとレイシアは事もなげに言った。


「小麦はお父様から預かってまいりました。獣は…………、私とサチがあちらこちらで狩ったものですわ。あまり大量だとギルドで引き取ってもらえなかったのでお気になさらず」

「お気になさらずの量じゃないだろ、レイシア」


 旅団のリーダーククリがそう言った。


「これだけあれば、金貨何枚になると思っているんだ! 20いや30はするぞ。売値でだ。肉にして買おうものなら」

「まあ、片手間で狩ったものがほとんどですから」


「「「えっ?」」」


「鳥やウサギや狐は、移動中狩ったものばかりですわ。ナイフ投げて狩っていたじゃないですか」

「そういや、サチが変な動きしてたな」

「狩った獲物を回収に行ってたのです。すぐにカバンにしまってましたので。あれ、もしかして気づいていなかったのですか?」

「なんか変だなとは思っていたが、お前ら後方だったから気にしていなかったよ」

「なるほど」


「なるほどじゃないわ!」


 ルルがツッコんだ。


「量がおかしいでしょ! 私達同じ道を一緒に歩いていたのよ」

「夜の見張りの時、サチと交代しながら獣狩っていたから」

「はあ?」


 ルルの声に、サチが答えた。


「いえ、夜はほとんどレイシア様が狩りを行っておりました。みなさんを起こすのは忍びないと。私は夜目が効きませんから」


 全員がレイシアを見つめた。おかしなものを眺めるように。


「ですから、動物は旅のおみやげです。お気になさらずお納めください」

「あ……ああ」

 領主はそう言うのが精いっぱいだった。



 やがて、領民が集まって解体が始まった。噂を聞きつけ集まってくる領民が次々に手伝い、配給が始まった。レイシアは他にも野菜などを取り出し、村の女性と共に大掛かりな炊き出しを行った。さばいた肉は惜しげもなくスープに入れられた。



「この度の食糧難を救ってくださったのは、こちらのレイシア・ターナー令嬢と、私の弟が率いる『黄昏の旅団』達だ。皆、感謝して貰うように」


 レイシアたちは広場の端に立たされ、領主から領民に説明が行われた。領民一同感謝の声と拍手で、広場はもの凄い騒ぎとなった。

 領民は配給の肉と炊き出しのスープを貰うと、その場でたき火を始め肉を焼く者が次々と現れた。どこからか酒を持ち出すものが現れ。広場は一気に宴会場と化した。

 皆笑顔だった。久しぶりに笑顔で食事をしていた。今までのうつうつとした日常をを払拭ふっしょくするかのように、笑い、歌い、語り合った。


 そんな様子を見ながら、領主ルドルフ・クマデの目には涙が溢れていた。


「ありがとうございます。レイシア様。よくやったククリ」


 何度も何度もお礼を感謝の言葉をかけ続けた。


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