240話 クマデの村へ
いくつかの町を経て、予定より早くクマデの村に到着しようとしていた。レイシアのカバンのおかげで、普通にかかる日数の三分の一で来ることが出来た。それほどポーターが荷物を運ぶと言うのは大変な事。非常に楽な旅に黄昏の旅団のメンバーも満足していた。
「あと1時間ほどでクマデの町に到着できそうだ。クマデは俺が育った村だ。俺はクマデで騎士爵の次男として育った。村に着いたら騎士爵を継いだ兄に会わせるから、少しいい服に着替えてくれないか?」
ククリの言葉にうなずくメンバーたち。女性組は少し離れた所まで行き、レイシアが組み立てられたまま収納したテントを出しては、一人ひとり交代で着替えをした。
レイシアは学園の制服姿。これで貴族の子女だと分かるので便利。
サチはもちろんメイド服。隠しナイフも装備完了。
ルルはブラウスにジャケットぴったりとした黒のパンツスタイル。厚めのコートを羽織っている。いつでも戦闘に入れるように動きやすい服を選択した。仕事が出来るお姉様風。
男共は、まあ、適当に小綺麗な格好をしていた。
◇
「よく帰った、ククリ。おう、仲間も一緒か。今はクマのおかげで商隊も来なくてな、ロクなもてなしも出来なくてすまんな。ん? お客様か? 初めましてだな。ああ、俺の名はトトリ。トトリ・ガーナだ。ここで騎士のリーダーをしている」
ククリが家に入っていくと、すぐに家主である兄が挨拶を始めた。レイシアとサチを見て、どこのお嬢様を連れて来たのかと不思議がった。
「初めまして。私はクリフト・ターナー子爵の娘、レイシア・ターナーと申します。こちらは私の侍従メイドのサチ。よろしくお願いしますわ」
制服のスカートを軽くつまみ、貴族として礼をするレイシアと、美しくメイドの礼をするサチ。あわてて襟を正し挨拶をやり直すトトリ。
「自分は、クマデ領騎士団第3師団師団長、トトリ・ガーナです。レイシア様、お初にお目にかかります」
ガーナ領は男爵領。その騎士団の者が、子爵のお嬢様に失礼な態度を取ってはならない。騎士爵の者として最高の礼を尽くさなければいけない。
「そんなにかしこまらなくてもいいですわ。ククリ様にはお世話になっています。今はこのような学園の制服を着ておりますけど、昨日までは同じ冒険者の後輩として指導いただいていました」
「冒険者……ですか?」
トトリは理解できなかった。こんな小さな女の子が冒険者? 本当だとしても駆け出しのEランクだろう? なぜ? そんな思いでいっぱいだった。
「私とサチはCランクですわ。こちらが証拠です」
レイシアは冒険者ギルドカードを見せた。
「たしかにCランクのギルドカード。この年で? しかし……」
「兄貴、こいつらCランク相当の実力者だ」
ククリは思わず助け船を出そうとした。
「おまえ、そんな言葉づかいで!」
「いいんだ。俺たちは冒険者同士の付き合いだ。レイシア、それでいいな」
それに対し、レイシアは姿勢を崩さずに首を横に振った。
「いいえ、今は父クリフト・ターナーの名代です。トトリ様、領主クマデ男爵にお取り次ぎいただけませんか? 父より手紙を預かっておりますので」
黄昏の旅団のメンバーは、昨日までの冒険者としてのレイシアと全く変わった態度に、そういえばお嬢様だったんだと再認識させられた。
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