商人の末路(ざまぁは終わっていなかった)
「レイシア、サチ、聞きなさい」
ククリは真面目な声で話し始めた。
「冒険者の先輩として言っておく。君たちは強い。だからこそ力の使い方を間違えてはいけない。身を守るための攻撃と、いたぶるための攻撃は全く意味が違う。身を守るときに手加減しろとは言う気はない。だが、戦意喪失している相手に実験と評して攻撃するのは冒険者として違反行為だ。まして急所を狙うのは言語道断だ」
「そうよ。女性はね、いろんな危険に巻き込まれやすいわ。身に危険が及んだときは思いっきりやりなさい。でもね、安全な時はだめ。どれだけ悪人でも、嫌な奴でも過剰な暴力を振るっていい訳ではないの。もちろん、襲われた時に殺してしまうことはあるわ。それは仕方がないこと。自分の身を守るのが第一よ。でもね、戦意喪失しているヤツは法の下で裁かれなければいけない。私刑はだめなのよ。私達は一般人より力を持っている冒険者だからね」
レイシアとサチは、先輩冒険者の言葉にうなずいた。
「さ、説教は終わり。せっかくの食事だ。再開しよう」
ククリはリーダーらしく、空気を変えるために焚火の所に戻っていった。
◇
食事後レイシアは、片付けをしながら提案した。
「こんな所にいたくありません。もっと遠くに離れましょう」
「こんな暗くなってからか?」
ククリがリーダーとして言うと、レイシアは光の球をいくつもだした。
「このくらい明るくなれば大丈夫ですよね。移動しましょう」
あんなことがあった後だ。口ではなんとでも言いながら寝込みを襲ってくることもある。これだけ明るければ2~3キロ先まで歩いても大丈夫。みんなでそう結論を出し、その場を立ち去った。サチは、
「すみません。この子いろいろ出来てしまうので便利なんですけど、冒険者として一人前に育てたいので、今後普通の冒険者として、普通の冒険者ができる事だけやらせてください」
と頭を下げて、今後は魔法を使わせないように、お互い魔法に頼らないように黄昏の旅団のメンバーに頼み込んだ。
◇◇◇
深夜、商人たちは。
うまそうな匂いに引き寄せられ、魔物たちがレイシアが料理をしていた焚火の後に集まってきた。腹をすかせた魔物たちは、餌を探しまくった。あるところでは吠え叫び、また違う魔物同士戦いが始まる所もあった。
「なにごとだ!」
魔物の声に眠りを妨げられた商人が怒鳴った。
「大変でさあ! 魔物が集まってきました!」
護衛が叫びをあげる。
「すぐに出発を!」
「だめです。馬車に馬つないでませんぜ!」
2頭の馬は木に繋がれていた。
「ヤバいですぜ。もうじきこっちにやってきそうだ!」
護衛たちはそう言うと、馬を木から外し、そのまま馬に乗った。
「これ以上いたらやられるだけだ! 御主人ここまでだ! 代金代わりに馬は貰っていくぜ!」
そう言って商人たちを残して去っていった。
残された商人たちは文句を叫び、ブルブル震えながら獣の影におびえていた。
「どうすればいい」
「そうですな。檻の中なら安全かと」
「それだ!」
商人と番頭は奴隷を閉じ込めている檻に入った。
「お前たち、隅によれ。真ん中は儂たちが使う」
奴隷に命令をして中に入ってはカギをかけた。
しかし、捕らえられた奴隷は、まだ奴隷としての契約はしていなかった。村民を騙し連れてきただけ。町に着いたら奴隷契約の焼き印をさせる予定の、今はだだの誘拐された人たち。商人はそれを忘れていた。
「ほら、どけ! 早く!」
命令した商人を男が殴った。それを皮切りに殴られ蹴られボコボコにされる商人と番頭。魔物が馬車に近づき、襲ってくるが檻は丈夫で歯が立たない。もともと魔獣を入れるための檻なので丈夫さは折り紙付き。魔物は馬車に積んであった食料を喰らい持ち去り、やがていなくなった。
朝日が昇り静かになった広場。捕らえられた人たちは何の契約もしていないただの村人たち。カギを開けては商人の身ぐるみをはがし、金目の物をかき集め村に戻っていった。
商人たちは、通りがかった衛兵に保護されたが、馬車の中からヤバい書類が見つかり、非合法の奴隷売買の常習犯として検挙された。その後、芋づる式に非合法の奴隷商人マーケットは摘発・廃止され、非合法に奴隷として売られた者たちの救済が手厚く行われた。
逃げた冒険者たちは?
魔物の声におびえていた馬は思い切り走り、冒険者たちを振り落として逃げ去った。暗い林の中、馬から落ち体を叩きつけられた冒険者たちは動くこともままならなかった。…………その後の消息は不明。
レイシアが、肉を焼かなかったら起きなかった
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