解体(生々しいよ)
「しかし、こんなにスムーズに移動できる遠征は初めてだな」
リーダーのククリは軽快な足取りで進みながら言った。
いつもは荷物持ちのポーターに合わせてゆっくりと進まなければいけない。いままでは荷物もかなりの量を自分たちでも持っていた。
それが、剣まで預けて身軽に歩ける。レイシア一人分でこの楽さ。コストパフォーマンスが良い。良すぎる。
「ほら見なさい。私が推したの分かった? あれだけ渋ってたのに。ほらほら、褒めなさい。私を」
ルルがおどけたように言う。ぐうの音も出ないリーダーを見て他のメンバーが笑った。
「右斜め30度、距離150M先に獣の気配があります」
レイシアがそう言うと、パーティに緊張感が走った。
「レイシア、武器をお願い。渡したらあなた達は安全な所に避難よ」
ルルが言うとレイシアは武器を配った。
「これは皆様の獲物ですね」
そう確認すると、サチと一緒に木の上の枝に登った。
「行くぞ。ケント弓で攻撃」
リーダーの指示で戦闘が開始された。敵はクレイジーキャッツ一匹。攻撃力は大したことはないヤマネコだが、敏捷性と毒が厄介。ケントの弓はよけられてしまった。
しかし、連携をとりながら確実に獣を追い詰める黄昏の旅団。盾役のリーダーが猫を足止めすると、ルルとゴートが踊るように攻撃を加える。お互い距離を取りながらの戦い。ケントも弓を置いて、投げナイフで応戦する。
戦いは20分ほど続いた。黄昏の旅団の勝利。怪我もなく狩ることが出来た。
◇
レイシアとサチは初めて見る獣に興味津々だった。木の上で戦いの観察をしていた。
「あ、今心臓を刺せたのに」
「足を狙えばすぐに有利になりますね」
「ああ、またミス」
出ていきたいが、他人の獲物に手は出せない。心配しながら見ていた。
((私だったらすぐ倒せる))
2人ともそう思ったが、口には出さずにいた。
◇
戦闘も終わり、レイシアとサチは木から降りた。
「お疲れさまでした」
リーダーのククリが言った。
「おお! 今回は移動の疲れもなかったからスピーディーに倒せたよ。誰も怪我もないし上出来だった」
「「そうなんですか」」
「ああ。すごかっただろう!」
「あ、はい」
「あ、すごかったです…………」
微妙に言いよどむレイシアとサチ。
「レイシア、解体用ナイフ出してくれ。それと俺の皮の手袋も」
ゴートが解体を始めようと道具を要求した。レイシアが言われた道具を次々に置いていく。道具を並べながら、隣で解体作業を見ていいか聞いてみた。
「クレイジーキャッツを見るの初めてなんです。私の行く普段の狩場には来ないので」
「そうか。じゃあ教えながら解体しよう」
「はい。お願いします」
「クレイジーキャッツは毒持ちだから肉は食えない。解体も手袋をして毒に触れないように気を付けて。皮も需要がないから持って行かなくていい」
「はい」
「タライに半分くらい水を張って。水がないときは無理に解体せずに諦めるんだ。毒は危険だからね。まずは内臓を傷つけないように腹を裂いてと」
ナイフを器用に扱いクレイジーキャッツの腹を切っていくゴート。レイシアも手袋をはめて見ている。
「ここに魔石がある。毒持ちの魔石は宝石としてそこそこの値で売れる。このくらいの大きさだと銀貨1枚くらいかな? そこまではないか。まあ、そんなもんだ。洗って」
レイシアは、魔石を受け取りタライの水につけた。布で拭いて日にかざすと、キラキラといくつもの色が浮かび上がる。
「その複雑な色が毒あり魔物の魔石の特徴さ。次は、ここを見て」
ゴートは胃の裏に隠れている2つの袋状の臓器を見るように言った。
「この紫の臓器が毒袋。赤い方が解毒袋。これが高く売れる臓器だ。切り取るときは気を付けて」
解体等ナイフから、小型のナイフに持ち替えて、毒袋の上部の管を切った。すぐに管を結ぶ。
「これは、麻痺薬の材料になる。こうして表面をていねいに洗ったら、風にさらすようにベルトに付けておくんだ。2時間ほど空気にさらすと固まって安全に持ち運びが出来るようになるからね。解毒袋も処理は一緒だ。こっちは解毒薬の材料で貴重品だ。やってみるか?」
持ち方とか注意をしながらレイシアに解体させるゴート。案外面倒見がいい。レイシアはチャンスとばかりに、いろいろと教わった。
「じゃあ、取れる所はこれだけだ。後は埋めよう」
隣では、埋めるための穴が他のメンバーにより掘られていた。埋め終わるとゴートがレイシアに言った。
「じゃあ、もう一度手をきれいに洗って。他の道具は川まで移動したら全部洗うよ。毒はとにかく気を付けるんだ」
そう言って手を洗わせたら、街道を外れ川に向かって移動するように指示をした。
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