出発

 2日後、レイシアは黄昏の旅団のメンバーに呼び出された。


「これだけ持っていきたいんだけど大丈夫?」

「これだけですか?」


 ルルは、集めすぎたかな? と心配したが、レイシアは(たったこれだけ?)と違う意味で心配した。


「大丈夫ですよ。狩った獲物も持ち帰りますので、持ち物リストを作りましょう。有るとか無いとかもめるといけませんので」


 そう言うと紙に品名と数を書きながら収納していった。


「すごいな。どうなっているんだ?」


 リーダーのククリがあきれるように言った。レイシアはカバンを触らせながら、「これは家宝なので、私にしか使えないんですよ」と試させた。


「どうなっているんだ? まったくわからないな」

「興味深いですね」

「重さは? どうなっているんだ?」


 カバンを手に取りながら確かめる黄昏のメンバー。


「ところで、とりだせるのか? 取り出すのに時間は」


 そこでレイシアは、リーダーに取り出してほしいものを言ってもらった。


「ルルのナイフ」

「はい!」


 レイシアはルルにナイフを渡した。


「ケントの矢10本」

「はい!」


 ケントに向かい矢の束を投げ渡した。

「すごいな。ここまでスムーズに受け渡しが出来るのなら、移動中に剣を預けておいても大丈夫か?」


 冒険者の移動は基本徒歩。街道で乗合馬車があれば使うこともあるが、荷物の多いポーターが何人もいると乗せてもらえないのが実情。腰に剣を差しての移動はそれだけでも負担は大きかったりする。


「武器は真っ先にやり取りできるように訓練しましょう」


 レイシアはそう言うと、旅団のメンバーと受けだしの練習を始めた。



「お姉様、なんで行っちゃうんですか」


 晩御飯の後、クリシュに泣きつかれた。


「せっかくの休みなのに。せっかく一緒にいられる貴重な冬休みなのに」


 クリシュは怒っていた。自分に相談もなく3週間も家を離れることを決めてしまったのだから。


「ごめんねクリシュ。でも私はもっといろんなことが知りたいの。私のために。クリシュのために。お父様のために。ターナーの領民すべての人のために。学園だけでは分からないことが沢山あるの。こんなチャンスはもう来ないかもしれないのよ。クリシュ。3週間で戻るから。それまであなたも成長して。お姉様のために」


 そう言って、クリシュをギュッと抱きしめた。


「仕方ないですね。怪我しないでちゃんと帰ってきてくださいね」


 抱きしめられながら、顔を赤くしてクリシュはそう答えた。



 出発の日の朝。

 教会で朝の礼拝とすーはーを終えた黄昏の旅団とブラックキャッツ。旅の安全を女神アクアに祈るために教会に残った。


 父クリフト、弟クリシュもお祈りに混ざった。神父が丁寧に祈りの言葉を奏でる。

 お祈りが終わった後、クリフトが声をかけた。


「黄昏の旅団の皆様。娘をよろしく頼みます。我が家でかんたんな朝食を用意させて頂きました。どうぞ出発前に英気を養ってください」


 黄昏の旅団のメンバーは喜んで招待を受けた。料理長の胃に負担のかからない滋養の高い朝食を口にし、そのおいしさに感動していた。




「では、行ってまいります。お父様。クリシュ」

「レイシア様は、必ず守ります」


 レイシアとサチは、そう挨拶を終え、黄昏の旅団とクマデに向け出発した。

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