サチも参加?

 大人同士の金額調整が終わりやっと条件が整ったうえで、レイシアに参加するかどうかの意思決定をたずねる番となった。


「私ですか? それが相場というのであればいいですよ」


 すでに行く気満々だったレイシア。特に条件も変えず受けることにした。

 しかし、そこで問題が起こった。


「レイシア様が行くのでしたら、私もついていかなければなりません」


 サチがそう言うと、クリフトが答えた。


「そうだな。レイシアは一人でも大丈夫だろうがサチが隣にいてくれるなら安心だな」


 そこでギルド長が言った。


「サチはレイシア様と並ぶうちのギルドのトップランカー。ついていくと言うのであれば、そちらも契約して頂かないと」

「それは困る!」


 会計役のゴートが叫ぶ。


「これ以上予算は出せない。レイシア一人でも破格値なんだ。ついてくるのは勝手だが、こちらとしてはもう予算は出せない」

「ですが、私はレイシア様の専属メイド。離れるわけにはまいりません」


「ギルドとしてはCランクをみすみすただ働きさせる訳にはいかないぞ」


 会議は振り出しに戻りそうになっていた。

 重苦しい空気の中、ルルがたずねた。


「ねえ、あなた達2人、パーティを組んでるの?」

「パーティですか? 組んでないです」

「ああ、2人ともソロだな」


 ギルド長の言葉に考え込むルル。そしてレイシアに言った。


「あなた達、2人でパーティを組みなさい。あなた達みたいな女の子がソロでは、厄介ごとに巻き込まれたとき大変よ。特にレイシアは他のパーティから誘われたりする時が絶対来るから。その時ソロだとしつこく勧誘されるわよ」


 ルルの言葉にギルド長もうなずいた。


「確かにそうだな。この領ではそんなことはおきんだろうが、他領のギルドで巻き込まれたら大変だ。パーティを組んでいれば引き抜きを断るのも楽になるな。2人とも、パーティを組んでみないか。俺からも進める」


 レイシアとサチは顔を見合わせ合意した。


 ギルド長はクリフトに紙とペンをもらい、書類を作成した。


「では、ここにパーティ名と2人のサイン、あと血判を推してもらう。それでパーティの結成が完了する」


「パーティ名は何にするの?」

 ルルが聞いた。


「急に言われても。そうね、『レイシア&サチ仲良しパーティ』とか」

「却下ですレイシア様」


 サチがツッコむ。


「じゃあ、レイサチ同盟」

「却下」


「レサ一緒」

「なにそれ!」

「だから、レイシアのレとサチのサで……」

「却下です!」


 絶望的なネーミングセンスに周りが固まっていった。


「もう。レイシア様。バイト先で呼ばれていた黒猫とか使ったらいかがですか?」


 疲れ果てたサチが適当に言った。


「そうね。黒猫…………。『ブラックキャッツ』はどう?」


「「「それでいい!」」」


 めんどくさくなっていた全員から声が上がった。

 冒険者パーティ『ブラックキャッツ』誕生の瞬間だった。



 話し合いの結果、黄昏の旅団はブラックキャッツをポーターとして雇うことになった。最初のレイシアを雇う条件を元にして、さらに条件が付けたされた。それもこれもレイシアとサチのため。


 報酬は一日銀貨5枚。ホワイトベアを倒した時には成功報酬として金貨2枚を追加報酬として支払う。これはレイシア個人との最初の条件そのまま。

 違うのは扱い。ポーターとして働く以外はブラックキャッツは別のパーティとして自由に動けることになった。

 行動は基本的に一緒だが、狩りの時はお互いの獲物には手を出さない。補助を求められたら手伝うがその際は獲物の報酬は折半にする(これは、主にレイシアとサチが危機に陥った時の安全策として設定された)。

 食事等は、お互い自分たちで用意する。どうしても必要な時は実費で融通を受ける。

 危険だと判断した時は、ブラックキャッツの安全を最優先とする。


「こんなもんでどうだ?」

「そうだな。我々としてはポーターとして仕事をしてもらえればいい。予算的にもこれが妥当だな」

 ギルド長と黄昏の旅団のメンバーはこの案で了承した。


「とにかく、安全にだけは気を使ってくれ」

 クリフトは娘の安全が確保されるように強く主張した。


「サチと一緒に冒険! 楽しそうね!」

「レイシア様。やりすぎ注意ですよ」

 レイシアのはしゃぎように、サチはどうブレーキをかけようか悩み始めた。


 こうして、黄昏の旅団とブラックキャッツの不思議な合同パーティが出来上がった。

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