孤児院の昼食

 昼食はモツの炒めものと野菜スープ。それと固いパンが一つ。孤児院の子供たちは、嬉しそうに祈りの言葉を捧げて食べ始めた。


「シャルドネ先生、どうしました? 今日はごちそうですよ」

「そ、そうね」


 バリューに言われ、モツをすくい上げるシャルドネ。先程の光景が頭の中によぎる。


 内蔵を食べる。そんな経験は王都に住む貴族にはない。しかも生の体液にまみれたアレを見たばかり。


 シャルドネにはあの光景は、悪魔と魔女が織りなすサバトにしか見えなかった。


 しかしここは教会の孤児院。出された物を食べないのは神の意志に反する行為。たとえ、あれがあれであーなった料理でも、食さないわけにはいかない。


 シャルドネは目をつぶって、口の中にひとかけらの肉を放り込んだ。


 塩気の強い肉がコリっと弾ける。噛めば噛むほど、コリコリと濃い味わいが口に広がる。スープに付けたパンで塩気を洗い流すと、そこには旨味だけがほのかに残っていた。


「おいしい」


「ハツですね。お気に召したようで何よりです。そちらはレバー、柔らかくてクセがありますがおいしいですよ」


 柔らかくてクセがある。それを聞いてから食べたのが良かったのか、忌避感が薄まったようでレバーもおいしく食べることができた。


「白モツは、グニュグニュしていて食べ慣れないと嫌な感じがするかもしれませんが、慣れるとやみつきになるんですよ」


 シャルドネは、モツ料理にハマった。珍味。そう、珍味としか言いようのない料理! あの光景はサバトなんかじゃなかったんだわ。神に捧げる神聖な儀式……とは思えないけど……。


「あの光景を見てなかったら、もっと純粋においしく頂けたかもしれないわね」


 シャルドネが呟いた。バリューはそんなシャルドネに優しく語った。


「先生。ご存知でしょうが、王都で貴族が食べている食材、肉でも野菜でもパンでも、全て平民が働いて市場などに卸しているものですよ。特に肉は、ああして捌いてより分けて、血みどろになって、やっと我々の所に届くのです。『言葉で分かるのとやってみるのは違う』先生がよくおっしゃっていましたよね。王都、さらに学園にいると平民がどのようにしているのかなど分からないのが当たり前ですが、私達にはあれが日常なのですよ」


 交わることがない、王都の貴族と平民の生活、文化、日常。見えていないものは、知識として知っていても、存在しないものとなにも変わらない。


「まさか弟子に教わることになろうとはな。成長したな、バリュー」


 シャルドネがそう言うと、バリューは照れたように笑った。

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