閑話 シャルドネは見た!(解体シーン有り)

 一体、何をしでかしたのよ………………バリュー…………。


 私は言葉を失った。目の前では、小さな子供たちが掛け算を暗唱している。


 …………孤児だぞバリュー。ここは孤児院。こんなにきちんとした身なりで、健康状態もよく、字を書き計算ができる5~6歳の孤児ってなに? しかもそれを9歳の領主の子供が教えている?


「誕生日がくれば10歳ですから」


 いやいや、そう言う事じゃないわ。確かにレイシアが言った通りなんだけど、実際目にすると異様ね。貴族でもやらないことを孤児たちがやっているなんて……。

 しばらく見ていたら、バリューが移動をうながした。


「では、こちらに」


 授業を抜け出して、外に案内された。子供たちが集まっている。何をしているの?


「朝のお祈りの後、レイシアが一角ウサギを大量に置いて行ったので、解体の練習をさせているんですよ」


 レイシアがウサギを置いて行った? 解体の練習? よく見ると、子供たちがナイフを持って皮を剥いでいる。


「肉は付かないように、でも皮は破らないように。ほら、ここの脂肪を見極めてナイフを入れると、するっと剝げるから」


 リーダーの子供がナイフの入れ方を教えている。大丈夫なの? それかなり本格的な解体ナイフよ!


「脂が付くと切れ味悪くなるから注意しろよ。切れないナイフ程危ないものはないから。こうやって、包丁やすりで研ぎながら少しづつ切っていくんだ」


 リーダーはナイフを水につけると、金属の細長いヤスリに刃を当て、『シュッ、シュ』と音を上げ研いだ。辺り一面からも研ぎ音が響く。


「シュッシュ シュッシュ シュッシュ シュッシュ」


 金属の擦れる音が、嫌な高音で鳴り響く。


 子供たちが嬉しそうに本格的解体ナイフを笑顔で振り回し、皮を剥ぎ取り内臓を取り出す。

 …………なにこのシュールな情景は!


「今日は思い切り肉が食べられるから、子供たちも張り切っていますね」


 そうじゃないだろバリュー! 子供! 孤児! なんでこんなに元気なの! そして自由すぎない?


「ああ、食事係が来ましたね」


 かごを持った少女達が近づいてきた。リーダーが指示を出したのは……


「今日は新鮮な獲物だから、肉は加工にまわす。今日はモツ料理にしてくれ」


「「「やったー!」」」


 女の子たちは、これはハツ、これはレバーなどといいながら、生々しい腸や肝臓などの内蔵を素手でつかんでは、包丁で切り分けていった。


「う〜ん。新鮮な内蔵は色がいいよね」

「生でも食べられそうね」

「だめ! 寄生虫対策で火は通さないと」

「「「そうよね! ははははは―――――――」」」


 何が楽しいの? どこが笑いのツボなの? 内蔵のドロドロした液体まみれでにこやかに笑っている少女って、一体どんなホラーよ!


「内蔵は下処理をちゃんとやれよ。さ、こっちは塩漬け用と干し肉用に切り分けるよ」





 小春日和の青空の下、血生臭い空気が辺り一面を覆う。

 鋭利な刃物を持った少年たちは肉を切り裂き、手が血にまみれた少女たちは内蔵を両手で掲げ、大声で笑いあっている。




 バリュー、あんた一体孤児院をどうしようとしているのよ――――――!

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