クリシュの成長
次の日の朝早く、レイシアとサチは宿場町アマリーに向かった。メイド長からは泊まる宿を指定され、「くれぐれも余計な騒ぎを起こさないように」と釘をさされた。
「今日は何をしようか」
「レイシア様が何かするとすぐに騒ぎになりますから、大人しくしていて下さい」
「もう。今日はお休みだからレイでいいよ。サチ」
「そう、じゃあレイ。あんたが何かするとメイド長に怒られるから静かにしといて」
「……分かった」
じゃあ勉強でもしましょう。と、その日は本を読んで1日過ごした。
◇
次の日、ターナーから馬車でお迎えが来た。レイシアは、メイド長が持ってきたドレスに着替えさせられた。
「こんな立派なドレス、準備しなくてもいいのに」
「クリシュ様とクリフト様からのプレゼントですよ。喜んだ顔を見せて下さい」
「クリシュとお父様の? えっ! 大丈夫? 似合ってるかな」
「お似合いですよ、レイシア様」
「そう? そうか。クリシュからのプレゼントか」
レイシアは、鏡を見ながらくるっと回った。スカートがふわっと
「では、行きましょうか」
レイシアはメイド長とサチに導かれ、馬車に乗った。
◇
館の前の広場では、使用人達とお父様、クリシュが並んで待っていた。
馬車が停まると、燕尾服を着たクリシュがバイオリンを弾き始める。
クリシュの人柄のような、爽やかな音色が広場一面に広がった。お父様のエスコートで馬車から降りるレイシア。クリシュの前まで来ると、丁度よく曲が終わった。
「おかえりなさい、お姉様。ここからは僕がエスコートしますね」
人々が紙吹雪を投げた。ひらひらと風に舞う紙吹雪の中、クリシュはバイオリンを執事に預け、レイシアの手を取った。広場いっぱいの拍手に包まれ、クリシュはレイシアをパーティ会場までエスコートした。
◇
「お姉様が、お母様の帰りをお祝いしたパーティの話を聞いたので、真似してみました」
クリシュはいたずらが成功したように言った。
「でも、楽団を呼んだりする予算はないので、孤児院のみんなでアカペラを練習しました。さあ、ワルツを奏でて」
クリシュがそう言うと、トゥルル ラララ ボンボンボン と、各パートが歌い始めた。メチャクチャ高度なアカペラ!
「ステキ!」
「さあ、踊りましょう、お姉様」
中央で踊るレイシアとクリシュ。クリシュの方が背は低いが、そんなこと気にさせない堂々としたリード。一生懸命練習した成果が実った。
ルンタッタ ルンタッタ
くるくる回るレイシアとクリシュ。微笑ましく見守る人々。曲が終わって拍手が広がる。
「さあ、お食事をしましょう。サチさんもご一緒に」
「私もですか?」
「ええ。一緒に帰ったのですから」
テーブルには、レイシアとサチ、クリシュとお父様4人が座った。
お父様とサチにはワイン、レイシアとクリシュにはジュースが渡され乾杯をした。
◇
メインディッシュは、スープハンバーグ。
「お姉様が、僕のために作ってくれたスープハンバーグです。僕が料理長と狩ったボアの肉で作ったんですよ」
「クリシュ、ボアを狩ったの?」
「ええ。まだ手伝うくらいですけど」
レイシアは、クリシュの成長に驚き、感心し、褒め称えた。
「すごいわクリシュ。ありがとう。こんなすてきなパーティを開いてくれて!」
楽しいパーティとおしゃべりは、遅くまで続いた。
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