クリシュの成長

 次の日の朝早く、レイシアとサチは宿場町アマリーに向かった。メイド長からは泊まる宿を指定され、「くれぐれも余計な騒ぎを起こさないように」と釘をさされた。


「今日は何をしようか」

「レイシア様が何かするとすぐに騒ぎになりますから、大人しくしていて下さい」

「もう。今日はお休みだからレイでいいよ。サチ」

「そう、じゃあレイ。あんたが何かするとメイド長に怒られるから静かにしといて」

「……分かった」


 じゃあ勉強でもしましょう。と、その日は本を読んで1日過ごした。



 次の日、ターナーから馬車でお迎えが来た。レイシアは、メイド長が持ってきたドレスに着替えさせられた。


「こんな立派なドレス、準備しなくてもいいのに」

「クリシュ様とクリフト様からのプレゼントですよ。喜んだ顔を見せて下さい」

「クリシュとお父様の? えっ! 大丈夫? 似合ってるかな」

「お似合いですよ、レイシア様」

「そう? そうか。クリシュからのプレゼントか」


 レイシアは、鏡を見ながらくるっと回った。スカートがふわっとひるがえる。


「では、行きましょうか」


 レイシアはメイド長とサチに導かれ、馬車に乗った。



 館の前の広場では、使用人達とお父様、クリシュが並んで待っていた。

 馬車が停まると、燕尾服を着たクリシュがバイオリンを弾き始める。


 クリシュの人柄のような、爽やかな音色が広場一面に広がった。お父様のエスコートで馬車から降りるレイシア。クリシュの前まで来ると、丁度よく曲が終わった。


「おかえりなさい、お姉様。ここからは僕がエスコートしますね」


 人々が紙吹雪を投げた。ひらひらと風に舞う紙吹雪の中、クリシュはバイオリンを執事に預け、レイシアの手を取った。広場いっぱいの拍手に包まれ、クリシュはレイシアをパーティ会場までエスコートした。



「お姉様が、お母様の帰りをお祝いしたパーティの話を聞いたので、真似してみました」


 クリシュはいたずらが成功したように言った。


「でも、楽団を呼んだりする予算はないので、孤児院のみんなでアカペラを練習しました。さあ、ワルツを奏でて」


 クリシュがそう言うと、トゥルル ラララ ボンボンボン と、各パートが歌い始めた。メチャクチャ高度なアカペラ!


「ステキ!」

「さあ、踊りましょう、お姉様」


 中央で踊るレイシアとクリシュ。クリシュの方が背は低いが、そんなこと気にさせない堂々としたリード。一生懸命練習した成果が実った。


 ルンタッタ ルンタッタ


 くるくる回るレイシアとクリシュ。微笑ましく見守る人々。曲が終わって拍手が広がる。


「さあ、お食事をしましょう。サチさんもご一緒に」


「私もですか?」

「ええ。一緒に帰ったのですから」


 テーブルには、レイシアとサチ、クリシュとお父様4人が座った。


 お父様とサチにはワイン、レイシアとクリシュにはジュースが渡され乾杯をした。



 メインディッシュは、スープハンバーグ。


「お姉様が、僕のために作ってくれたスープハンバーグです。僕が料理長と狩ったボアの肉で作ったんですよ」

「クリシュ、ボアを狩ったの?」

「ええ。まだ手伝うくらいですけど」


 レイシアは、クリシュの成長に驚き、感心し、褒め称えた。


「すごいわクリシュ。ありがとう。こんなすてきなパーティを開いてくれて!」


 楽しいパーティとおしゃべりは、遅くまで続いた。

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