第十章 冬休み

帰路

「馬車を待つより、歩いたほうが早いかも」


 そう。街道を往く乗合馬車は、そうそう出てはいない。人は何故馬車に乗るか。それは荷物が重いから。あるいは危険に巻き込まれないため。


 レイシアとサチの荷物は、レイシアのカバンに収まる。重さは空のカバンの重さ。あとは、隠しているナイフとフォーク。危険? なにそれ? むしろ彼女らが危険案件。


「一度歩いてみましょう。トレーニングにもなるし」


 レイシアの思いつきで、朝も早くから王都の門を出た。


「こういう旅もいいよね」

「そう? 歩いているだけだよレイ」

「じゃあ走ろうか」

「なんで!」

「早く帰りたいから」


 レイシアは瞬歩で先に移動した。ここからは追いかけっこ。


 うふふ

 あはは


 の楽し気な追いかけっこではない!

 ガチだ! 逃げるレイシアに追いかけるサチ。


 何台もの馬車を抜いた。

 何人もの人を抜いた。


 あっという間に隣町についたのは、お昼などまだ先の10時だった。


「割といけるね」

「そうだね」

「つかれた?」

「全然。いつもの訓練より楽だよね」

「そうだよね」


 汗もかかずに談笑する2人。

 本来、個立ての馬車ならここで一泊。馬が疲れるから。

 乗合馬車の人は、上手くつながれば次に乗れる位の感覚。


「じゃあ、休憩はいいよね」


 2人は先を急いだ。疲れてないから。



 お昼もレイシアが仕込んでおいた握り飯で十分。歩みを止めることもなし。街道を通る限りそんなに危険はない。というか、早すぎる2人が迷惑。夕方には宿場町アマリーまで着いてしまった。


「もう少しだけど、どうする?」

「どうするって、泊まるんじゃないのですか?レイシア様」

「もう、他人行儀の言い方! 私達なら1時間もあれば着くわ」


「真っ暗になりますよ。夜は危険ですし」

「大丈夫、明るくするし」

「あ――――そうね。できるね」

「でしょう。早く帰ろう」


「休憩は〜! 食事は〜!」

「もう。じゃあ、街の外でしましょう。ここで食べるよりおいしいものを出すわ」

「仕方ないですね」


 そうして、2人は夜の街道を歩む事にした。



 町から大分離れた街道に、焚火で暖を取る少女2人。


 テーブルにはクロスが敷かれ、美しい花まで飾られている。


 ジュウジュウと音を立て、肉の脂があふれ流れ落ちる。


「スープは温かいまま出したものでもおいしいけど、肉はやっぱり焼きながら食べるのが一番ね」


 サチは何もできなかった。あまりにも想定外の展開に呆然とたたずむだけ。


「何が起きているの、レイ」

「夕ごはんの支度よ」


「おかしくない?」

「おかしいかな?」


 何が普通か分からなくなっている2人。


「まあいいじゃない。おいしければ。あっ、そうか」

「何!」

「サチって今よく見えてないんだよね。ライト!」


 光球が現れる。テーブルの周りが程よく明るくなる。冬でよかった。夏なら虫が集まってひどいことになっていただろう。


「さあ、食べましょう」


 レイシアとサチは、イスに座って食事を始めた。


「それにしても(シュッ)たくさんいるわね(シュパッ)」

「レイシア様が肉を焼くからですよ。(シュシュッ)」

「まあ、お土産ができたと思って(サシュッ)」


 肉の匂いにつられ、小型の肉食獣が集まってきた。食事をしながらナイフやフォークを投げては獲物を狩っていた。


「「ごちそう様でした」」


 サチが焚き火の後始末をし、レイシアが出した道具と獲物を収納する。


(お皿は水魔法ウォッシュ。乾燥はヒートウインド)


「なにやってるんてすか? レイシア様」

「お皿の乾燥よ」


「その風、暖かいですよね。私にかけたら寒くなくなるんじゃ…、」

「それよ!」


 レイシアは自分とサチの周りにヒートウインドをかけた。熱いから暖かい風になるまで温度を下げた。


「いいね、これ。一気に春みたい!」


 寒さの問題も解決。暗さの問題も解決。レイシアとサチはターナー領へと歩いていった。


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