第十章 冬休み
帰路
「馬車を待つより、歩いたほうが早いかも」
そう。街道を往く乗合馬車は、そうそう出てはいない。人は何故馬車に乗るか。それは荷物が重いから。あるいは危険に巻き込まれないため。
レイシアとサチの荷物は、レイシアのカバンに収まる。重さは空のカバンの重さ。あとは、隠しているナイフとフォーク。危険? なにそれ? むしろ彼女らが危険案件。
「一度歩いてみましょう。トレーニングにもなるし」
レイシアの思いつきで、朝も早くから王都の門を出た。
「こういう旅もいいよね」
「そう? 歩いているだけだよレイ」
「じゃあ走ろうか」
「なんで!」
「早く帰りたいから」
レイシアは瞬歩で先に移動した。ここからは追いかけっこ。
うふふ
あはは
の楽し気な追いかけっこではない!
ガチだ! 逃げるレイシアに追いかけるサチ。
何台もの馬車を抜いた。
何人もの人を抜いた。
あっという間に隣町についたのは、お昼などまだ先の10時だった。
「割といけるね」
「そうだね」
「つかれた?」
「全然。いつもの訓練より楽だよね」
「そうだよね」
汗もかかずに談笑する2人。
本来、個立ての馬車ならここで一泊。馬が疲れるから。
乗合馬車の人は、上手くつながれば次に乗れる位の感覚。
「じゃあ、休憩はいいよね」
2人は先を急いだ。疲れてないから。
◇
お昼もレイシアが仕込んでおいた握り飯で十分。歩みを止めることもなし。街道を通る限りそんなに危険はない。というか、早すぎる2人が迷惑。夕方には宿場町アマリーまで着いてしまった。
「もう少しだけど、どうする?」
「どうするって、泊まるんじゃないのですか?レイシア様」
「もう、他人行儀の言い方! 私達なら1時間もあれば着くわ」
「真っ暗になりますよ。夜は危険ですし」
「大丈夫、明るくするし」
「あ――――そうね。できるね」
「でしょう。早く帰ろう」
「休憩は〜! 食事は〜!」
「もう。じゃあ、街の外でしましょう。ここで食べるよりおいしいものを出すわ」
「仕方ないですね」
そうして、2人は夜の街道を歩む事にした。
◇
町から大分離れた街道に、焚火で暖を取る少女2人。
テーブルにはクロスが敷かれ、美しい花まで飾られている。
ジュウジュウと音を立て、肉の脂があふれ流れ落ちる。
「スープは温かいまま出したものでもおいしいけど、肉はやっぱり焼きながら食べるのが一番ね」
サチは何もできなかった。あまりにも想定外の展開に呆然と
「何が起きているの、レイ」
「夕ごはんの支度よ」
「おかしくない?」
「おかしいかな?」
何が普通か分からなくなっている2人。
「まあいいじゃない。おいしければ。あっ、そうか」
「何!」
「サチって今よく見えてないんだよね。ライト!」
光球が現れる。テーブルの周りが程よく明るくなる。冬でよかった。夏なら虫が集まってひどいことになっていただろう。
「さあ、食べましょう」
レイシアとサチは、イスに座って食事を始めた。
「それにしても(シュッ)たくさんいるわね(シュパッ)」
「レイシア様が肉を焼くからですよ。(シュシュッ)」
「まあ、お土産ができたと思って(サシュッ)」
肉の匂いにつられ、小型の肉食獣が集まってきた。食事をしながらナイフやフォークを投げては獲物を狩っていた。
「「ごちそう様でした」」
サチが焚き火の後始末をし、レイシアが出した道具と獲物を収納する。
(お皿は水魔法ウォッシュ。乾燥はヒートウインド)
「なにやってるんてすか? レイシア様」
「お皿の乾燥よ」
「その風、暖かいですよね。私にかけたら寒くなくなるんじゃ…、」
「それよ!」
レイシアは自分とサチの周りにヒートウインドをかけた。熱いから暖かい風になるまで温度を下げた。
「いいね、これ。一気に春みたい!」
寒さの問題も解決。暗さの問題も解決。レイシアとサチはターナー領へと歩いていった。
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